HoloLens 2でMicrosoftが目指す未来とは?
2019年2月にスペイン・バルセロナで行われたIT関係の見本市(MWC2019)にて、Microsoftは新たなデバイスを発表しました。
それが「HoloLens2」。2とある通り、従来販売されていた「HoloLens」の後継機種です。
今回はそんな「HoloLens」と「HoloLens2」をご紹介しつつ、Microsoftが描く未来の姿を探ってみたいと思います。
■この記事では次の事がわかります
・Microsoft HoloLensはどんなデバイス?
・HoloLens2の改善ポイント
・HoloLens&HoloLens2から見るMicrosoftの戦略とは?
HoloLensとはどのようなデバイスか?
単体で駆動できるHMD型コンピューター
MicrosoftのHoloLensシリーズは、頭に装着する形態(所謂ヘッドマウントディスプレイ:HMD)のコンピューターです。
特徴としてまず挙げられるのは、デバイス単体で全て完結するスタンドアロン型であること。このHMDの中にPC本体も含まれている為、Oculus RiftやHTC Viveのように別途PCを用意する必要はありません。
OSはHoloLens用に開発された「Windows Holographic Operating System」を搭載しており、既存のWindowsエコシステムとの親和性を重視している事も大事なポイントです。
分類としてはARグラスの仲間
HMDというと前述のOculusのような周囲の視界を遮る密閉型をイメージしがちですが、HoloLensはこれらと異なり、眼鏡のような開放型となっています。
このデザインからもわかる通り、HoloLensは現実世界の景色に必要な情報を載せていくARタイプのシステムです。Microsoftでは独自に「Mixed Reality(MR)」と呼んでいますが、現時点ではARと同じ物と考えて良いでしょう。
グラス部分に映像を表示して操作できる
HoloLensのMR機能を簡単に言ってしまうと、自分の見ている景色がそのままPCのデスクトップの背景になる感じです。
ウィンドウ操作は手の動き(ジェスチャー)が基本で、マウスを使わずに様々な操作ができるようになっています。
Bluetoothにも対応しているので、物理キーボードを接続してHoloLens上でメールの返信を打ち込むなんて事も。
現状はまだ出来る事に限りがありますが、今後の発展次第では、ノートPCやタブレットの一部を置き換える可能性も秘めたデバイスです。
ログイン操作はWindows Halloを最大限活用
スマホやPCのロック解除操作も、最近では指紋や顔認証といった生体認証の活用が当たり前になってきました。
HoloLensでもWindows標準の生体認証機能「Windows Hallo」が搭載されており、未来のデバイスにふさわしいスタイルとなっています。
HoloLens2のパワーアップポイント
初代モデルのHoloLensは、最初の機種ということもあり、課題の残るデバイスでした。
それがHoloLens2でどのように改善されたのか、数ある改善点の中からいくつかご紹介したいと思います。
SoCをIntel AtomからSnapdragonへ変更
初代HoloLensは2016年3月発売で、CPUにはIntelのAtom x5-Z8100を搭載していました。
PC向けのWindowsで採用されているx86系のCPUですね。
一方、新しいHoloLens2ではIntel系を離れ、ARM系のSnapdragon850を搭載しています。
Snapdragonシリーズは、現在ではAndroidスマートフォンのCPUとしてもお馴染みで、特に8**シリーズは各社のフラグシップモデルに搭載される高性能モデル。
それを採用したという事からも、MicrosoftのHoloLensへの力の入れようがわかりますね。
ちなみに、こちらの記事によると、初代と2ではスマホ換算で数世代分の差が感じられるとのこと。
参考:「HoloLens 2」は何がどう進化したのかをMicrosoftパートナーの開発者が語る
https://gigazine.net/news/20190228-hololnes-2-matter/
SoCの能力は多くの場合操作の快適さに繋がるので、最新のフラグシップ級搭載というだけでも、ワクワクする方は多いのではないでしょうか?
ARM系への変更は今このタイミングしかなかった
通常、異なるアーキテクチャのシステム(今回であればx86→ARM)への変更は、アプリ開発者が嫌がることが多い為、余程の理由がない限りハードウェアメーカーとしても避けたいというのは本音です。
それをあえてこのタイミングで行ってきた背景には、次のような理由があると考えられます。
・HoloLensが市場へ普及する前の段階だった(開発者の離反を心配する必要性が低かった)
・ARM系CPUの性能が十分に向上した
・ARM系CPUならAndroidアプリの開発者を取り込みやすい
MicrosoftはかつてWindowsベースのスマートフォン(Windows Phone)を展開した際、競合するiOS/Androidに対抗できるキラーアプリを得られず、撤退を強いられた苦い経験があります。
HoloLensではそれを教訓にして、開発者がアプリを作りやすい仕様を目指しているのではないでしょうか?
重量バランスの最適化で疲れにくくなった
どれだけ高性能なデバイスでも、使っていて不快に感じるようでは意味がありません。
モバイル用のノートPCだって、「デスクトップ並みの超高性能」「ただし重量20kg」と言われたら、流石に買う気も使う気も失せてしまうもの。
HMDの世界も同じで、CPUやソフトウェア面に加え、ハードウェアの使用感、なかでも装着したときの感覚が重要視されます。
特に大事なのが重量とそのバランスで、必要な物を全て本体に内蔵するスタンドアロン型HMDでは、これが最大の課題でもあるのです。
では、HoloLens2は実際どうなのかというと、まず先代モデルとの比較で約13gの軽量化に成功しています。さらに全体の重量バランスも改善された為、長い時間装着していても、先代より不快感を感じづらくなりました。
重量500g台後半ということで、まだまだ軽いデバイスとは言いがたいのが実情ですが、この辺りはほぼ開発者向けデバイスの現状では致し方ないでしょう。
視野角が拡がりより使いやすく
VR・ARでも、快適さを支えるポイントの1つが画面の視野角です。
人間の視野角はおよそ90〜100度あるので、画面が狭すぎると「見づらい」と感じるユーザーも出てきます。
余談ですが、私がスマホ装着型のVRHMDを1回試して封印してしまったのも、実はこれが理由の1つです。
このタイプのHMDはスマホの画面以上の視野角にならないので、「画面が狭い」と感じることが多く、没入感重視のVRとは相性が悪いように感じます(最近のXperiaなど、超縦長モデルのスマホなら少しは違うかもしれませんが)。
閑話休題。
HoloLens2ではこの視野角も先代モデルから大幅に改善されており、より実用性が増したと言えます。
これでも狭く感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、装着画像を見た限り普通の眼鏡に近いディスプレイサイズになっているので、現実的にはこの辺りが限界ラインなのでしょう。
HoloLens2から探るMicrosoftの未来図
AIや自動運転車などと同様、装着型ARデバイスもIT大手各社が力を入れている分野です。
検索エンジン大手のGoogleは「Google Glass」の名前で既に製品化していますし、そのGoogleと多くの分野で競合するAppleも眼鏡型のARデバイスを開発中との噂が以前から流れています。
このようにライバルメーカーとしのぎを削る中で、Microsoftは一体どのような未来図を描いているのでしょうか?
スマートフォンに代わる新たな個人向けデバイスという立ち位置
HoloLens2を見て感じるのは、これは決して業務用デバイスだけでは終わらないだろうということ。
あくまで私個人の推測ですが、Microsoftは最終的にHoloLensを小型・低価格にして、現在のスマートフォンに代わる個人向けコンピューターとして売り込むことを考えているように見えます。
言うならば、Windows Phoneのリベンジですね。
スマートフォンというデバイスは、常に画面を見続けるわけにはいきません。使わない時はポケットや鞄にしまっておく物であり、だからこそ着信音やバイブレーション機能が必要なのです。
しかし、HMDなら常に画面が目の前にあるので、表示し続けなければならない情報(例えば道案内など)は、常時ユーザーの視界に無理なく留めておくことが出来ます。
交差点に着く度にスマホを取り出したり、歩きスマホで人にぶつかったりする心配もないのです。
さらに、HMDなら耳に近い位置なので、電話機能にも対応しやすいというメリットもあります。
骨伝導スピーカーと組み合わせれば耳を塞ぐ事もないので、スマートフォンの代替機器としてはかなりの可能性を秘めていると言えるでしょう。
Windows PCを置き換える
HoloLensの強みの1つが、WindowsOSを採用していること。
現在のHoloLensシリーズはOS側の制約で全てのWindowsアプリを動かせる訳ではありませんが、今後この制約が外れれば、HoloLensが現行のWindowsPCを置き換えていく事も容易に想像できます。
全PCを置き換えるという訳にはいかないかもしれませんが、事務など軽い用途向けのマシンはHoloLensに取って代わられるでしょう。
ただし、単にPCを置き換えるなら、現行PCに近い価格帯まで下げる必要があり、さすがのMicrosoftでもそれは難しいところ。
そこでキーになるのが、前述のスマホ置き換えデバイスとしての立ち位置です。
HoloLensがスマホの後継になれば、現在のようなPCとスマホの2台持ちを解消し、1つのデバイスにまとめることができます。
これをユーザーのお財布視点で考えると、HoloLensに掛けられる予算は「PC1台分」ではなく、「スマホ+PC」と同程度になるということ。よって、実はそこまで価格を下げずとも、戦っていける見込みがあるのです。
(もちろん、実際には競合他社の動きや経済状況等の影響を受けるので、ここまで上手くはいく事はないでしょうが……。)
まとめ
MicrosoftのARデバイス「HoloLens」。今回はその第2弾となる「HoloLens2」と、Microsoftの今後の戦略の予想をご紹介しました。
現時点では価格が高く、開発者や業務用向けのデバイスという位置づけのHoloLensシリーズですが、順調にいけばいずれは一般ユーザーも気軽に試せる製品になっていくものと思われます。
コンピューター部分の小型化など課題の多くありますが、今後の進化に期待したいところです。
参考
https://www.microsoft.com/ja-jp/hololens/hardware
https://www.microsoft.com/ja-jp/hololens/buy
https://www.microsoft.com/ja-jp/hololens/buy
https://www.moguravr.com/microsoft-de-code2019-report/
https://av.watch.impress.co.jp/docs/series/rt/1188288.html
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