導入が進むコンストラクション・マネジメント方式の強みとは
人が実際に使用する建築物を作る以上、予定より工期が延びてしまえば、商業施設などであればテナントの売り上げにも大きく悪影響を及ぶことはもちろん、工期延長によって追加予算がかかってしまうとなれば、その施設の費用対効果は大きく減退してしまうリスクも抱えています。
そういった想定外のトラブルを回避するべく誕生したのが、コンストラクション・マネジメント方式、通称CM方式と呼ばれる形態です。元々は海外で導入されてきたこのシステムですが、日本でも近年では頻繁に採用され始めていることから、この名前を聞く人は増えてきているかと思います。
今回はそんなCM方式の概要やその強み、そして実際の活用事例についてご紹介していきます。
・業務の効率化を進められるCM方式
・経験豊富なCMRがカギを握る
・人材不足のソリューションとしても期待
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CM方式の概要
CM方式は、あらかじめ用意していた予算とスケジュールで工事を進めることができるよう、CMR(コンストラクション・マネージャー)を雇い、発注者と設計者が一体となってプロジェクトを進められるよう管理する手法です。
建設プロジェクトを統合的にマネジメント
プロジェクトを展開する発案者、つまり発注者は、自分のリクエストに応えてくれるような設計者と施工者に依頼し、プロジェクトは進んでいきます。しかしながら発注者は外部に頼むと言うことからもわかるように、実際の施工に関して高度に技術的なスキルや知識を持ち合わせているとは限りません。
そのためプロジェクトの進捗状況や予算、スケジュールについては、発注者の意思決定の力が及んでしまいやすいケースも考えられるのですが、CM方式は適切にプロジェクトを管理し、発注者の立場から現場の監督を行い、マネジメント全般に関わってくれるマネージャーを採用することが肝となる手法です。
米国で発展したCM方式
CM方式は、もともとアメリカで発展を続けてきた歴史を持つプロジェクト方式の一つです。
世界大戦中の軍需産業や、冷戦期の宇宙開発を皮切りに現代的な建築マネジメントのノウハウが蓄積・洗練されていき1、現代では予算管理や工程確保、発注者のスキル不足を補うためにCM方式が積極的に採用されています2。
リスクの違いで別れるCM方式
マネジメント担当者を雇うことが大きな特徴となるCM方式ですが、大きく分けて二つの方式へとさらに分類することができます。
ピュアCM方式
一つはピュアCM方式と呼ばれるものです。これは発注者のマネジメントは発注者が自ら行い、CMRには専門工事にあたる事業者のマネジメントを依頼する方式を指しています*3。
マネジメントといっても、CMRは工事そのものの責任を直接負うわけではなく、発注者が望むようなプロジェクトの進捗をアシストするような役割となるのがピュアCM方式におけるCMRです。
直接工事の契約を担うのも発注者であるため、CMRはサポート的な役割を担うに留まっています。
アットリスクCM方式
一方、アットリスク方式におけるCMRは、その名の通りピュアCM方式のマネージャーよりもリスクの配分が大きくなっている点が特徴的です。
CMRが工事にあたる事業者との契約にも関わり、透明性の評価にも大きく携わるだけでなく、そのままCMRが工事に対する責任を負うことになります。
CMRの役割と存在感が大きくなるだけ、CMRに対する対価も大きくなることが一般的ですが、発注者はいってしまえば業務委託のような形でCMRに工事の責任を一任してしまうことができるため、そのプロジェクトにおけるリソースをそれ以上は割かなくて良いと言うメリットも期待できます*4。
何れにせよ、CM方式はマネージャーというクッションを挟むことで、発注者の責任や負担を軽減する効果が期待できます。
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CMRに求められる要件
CMRは発注者から依頼されてプロジェクトのマネジメントを請け負う以上、相応のキャリアが事前に求められることがほとんどです。
CMRに適切な人材について具体的なルールがあるわけではありませんが、海外の事例やこれまでのケースを踏まえ、国土交通省が適切な人物像の一例を提示してくれています。
具体的な資格について
一つ目に、具体的な資格の有無です。CMRという役割そのものに資格は必要ありませんが、技術士あるいは一級土木施工管理技士の資格を求めることがほとんどです。
プロジェクトにもよりますが、複雑な工程を含む場合は、さらに専門的な資格を必要とすることもあります*5。
実務経験について
CMRは現場でのリアルタイムのマネジメント能力も求められるため、長期の実務経験が必要になることも珍しくありません。
多いのは実務経験5年以上という要項で、大規模であったり特殊なプロジェクトの場合はより長い実務経験が求められることがあります*6。
CM方式の活用について
最後に、CM方式の活躍が期待できるプロジェクトや、実際の活用事例なども見ておきましょう。
CM方式の活躍が期待されるケース
国土交通省が想定しているCM方式の活用方法としては、まず発注者にプロジェクトの規模に見合った経験がないパターンです。発注者としてのマネジメント能力に不安がある場合は、CM方式を積極的に導入する機会であると言えるでしょう。
また、事業が細分化してしまい、一つ一つに管理が複雑になってしまっているケースにおいてもCMRの投入は有効です。プロジェクト管理をCMRに一任してしまうことで、発注者は細かな調整に割いていたリソースを削減することができます*7。
エンジニア不足は日本全体で始まりつつある問題ですが、自社に十分な技術者がいないと感じた場合にも、CMRの存在は非常に頼りになります。
実際の活用事例
CMRが必要なニーズとして多いのが、脆弱な発注者体制の補完です。
急性期・総合医療センター等病院施設改修事業においては、発注者のサポートと品質の安定性確保のためにCMRが採用され、毎年定期的な改修を行う継続契約が結ばれています。施工者とCMRの他に設計・監理者も外部に存在し、品質管理に当たっています*8。
発注者・CMR・施工業者の3グループで進められたプロジェクトとしては、神奈川県の足柄上合同庁舎本館新築事業が挙げられます。
このプロジェクトでは発注者が施工業者と直接契約を交わし、建築物の設計・建設の監修をCMRが請け負うというピュアCM方式が採用されていました*9。
CM方式の導入を促すプラットフォームも
また、最近ではCM方式での設計・施工を促すプロジェクトマッチングプラットフォームの開発も進んでいます。
ミトラ国際インドネシアは『発注者の施設づくりを促進するソーシャル・コンストラクションマネジメント事業』を国内外の建設市場を対象に提案し、積極的なCM方式の採用を促しています*10。
システム利用料は無料、CM契約や工事請負契約の際に利用料金を徴収するサービスを展開しており、今後も同様のプラットフォームが各ニーズに合わせて誕生することが予想されます。
おわりに
CM方式は従来のプロジェクトとは異なり、仲介業者をワンクッション挟むことで効率的に事業を進行させていくことを目的としたプロセスです。
人材不足が各業界で叫ばれる中、CM方式も建築業界で重要な地位を占める手法として定着していくかもしれません。
出典:
*1 ypmc「コンストラクションマネジメント(CM)はどこからきたのか?」
*3 国土交通省 国土技術政策総合研究所「CM方式のあり方」
*4 上に同じ
*5 上に同じ
*6 上に同じ
*9 上に同じ
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