清水建設のタブレットによる施工管理が解決する課題とは
タブレット端末の運用は、図面や書類の確認や整理を効率的にしてくれるということで、建設現場においても運用が進んでいます。
清水建設はそんなタブレットの運用をさらに効果的なものとするべく、ARやBIMなどとの併用により、精度の高い施工管理を実現しています。
①ARとタブレットの組み合わせで埋設物が「見える化」
②精度の高い位置情報システムとBIM/CIMが鍵を握る
③ドローンとの連携など、汎用性にも期待
現場へのタブレット導入が進む清水建設
清水建設は2017年ごろよりタブレット端末を通じて、地下に埋設されているガス管や水道管を、仮想的に可視化できる技術の導入を進めています*1。
AR×タブレットで行われる「見える化」
作業員はタブレットのカメラを通じて、配管の箇所を確認したい場所を覗き込むだけで、正確にその位置を確認することができます。
これは、拡張現実(AR)を表示させる技術とBIMデータをはじめとする、図面の3Dデータを掛け合わせることで実現したテクノロジーで、まるで現場の風景にガス管が透けて現れるような立体感を提供してくれます。
すでに設置されているガス管や水道管は、これまで図面で確認するか、実際に掘削してどのたりにあるかを目視で確認しなければなかったため、作業においてはさらなる慎重を期す必要がありました。
しかし清水建設のAR技術を利用することで、立体的にガス管などの位置を捉えることができ、作業の効率と負担は大きく改善されることが期待できます。
高度な位置情報確認によって実現
高精度な可視化を実現するために不可欠なのが、作業員の位置情報を正確に取得する技術です。
清水建設が菱友システムズらとの共同開発により開発したこのシステムは、全地球航法衛星システム(GNSS)や位置検知システム、緯度・経度の情報もリアルタイムで更新することで実現しています*2。
クラウドを通じて衛星と作業員をつなぎ、クラウドサーバに保管された埋設物データを通じて、精度の高いARが可能になっています。
埋設物の3Dデータと作業員の位置情報、そして現地の風景を重ね合わせることで、高度なARによる情報提供を行うという仕組みが提供されているのです。
タブレット施工管理の導入による効果と課題
タブレットによる施工管理の導入により、実際に現場で生まれた影響にはどのようなものが挙げられているのでしょうか。
現場の作業効率が向上
ARを伴うタブレットの施工管理が実現したことで、まず大きな変化としては事故やミスのリスクが低下したことがあるでしょう。
これまで図面だけを頼りに掘削していた作業は、タブレットによって配管の位置が立体的に捉えられるようになったため、効率よく掘削を進められるようになりました。
作業員も拡張現実とは言え立体的にガス管などの位置をある程度把握できるため、安心感を伴って作業することができるようになったのです。
また、仮想的とは言え、立体的に埋設物の全容を確認できるので、図面の見落としなどのミスも減少させる効果が見込めます。
地下埋設物の多くは上下水道菅やガス管、送電ケーブルなど、私たちの生活には欠かせないライフラインであることがほとんどです。
こういった分野における事故やミスのリスクを低下させることができるのは、非常に大きな進歩であると言えるでしょう。
誤差と機器の最小化に向けた動きも
一方で、タブレットによるAR施工管理には、まだいくつかの課題も残されています。
一つは、ARによる可視化に伴う誤差やラグの問題です。清水建設のAR技術では、GNSSとともにリアルタイムキネマティック法(RTK法)と呼ばれる、非常に即時性が高く、精度にも優れた手法が採用されています*3。
そのため数センチ程度の誤差で、可視化を実現することができている一方、高層ビルの間では電波が屈曲してしまう現象のように、現場環境によってパフォーマンスの安定感が失われるケースも確認されています。
また、作業員はARタブレット使用に伴い、位置情報を測定するための受信機を体に取り付けなければなりません。そのため精度の高さ、機器の大きさやコスト面での負担増が懸念されるため、一般的に大量普及させていくためにはもう少し時間がかかるでしょう。
また情報量の多いBIM/CIMデータをARシステムへと積極的に導入していくことで、さらにリッチで、誤差の少ないARによる情報提供も可能になると考えられています。
実用性の高いタブレットによる施工管理ですが、今後のさらなるのアップデートにも期待が集まるところです。
タブレットによる施工管理の今後
タブレットによる施工管理は、現在埋設物を扱う現場以外においても運用されるようになってきています。
建築物への応用にも期待
清水建設はタブレット上で捉えている建物の映像とBIMデータを合成し、建物の内部にある配管や、ダクトの設備を仮想的に確認する技術も実現しています*4。
埋設物同様、建物の柱や壁などの中にある、外観からは目に見えない設備を「見える化」することで、効果的な施工管理を試みています。
配置状況をリアルタイムで確認したい場合にはもちろんのこと、今後の施工部分の検討に応用することができ、作業手順の誤り防止などにも役立つということで、積極的な導入が検討されています。
新築・改修工事と使用頻度も高いことが想定され、現場に一台あると頼もしい存在となるはずです。
ドローンとの連携でさらなる活躍も
また、タブレットによる施工管理は、直接捉える映像だけにとどまりません。
無人操縦のドローンと組み合わせ、ドローンがとらえた映像をARと組み合わせることで、切盛土の高さの測量結果や施工基面の土質などが確認できるようになるとされています。
上空からの映像ならではの豊かな情報を、タブレットを通じて確認することもできるようになるため、幅広い応用にも期待が寄せられています*5。
おわりに
ARとBIM/CIMデータを組み合わせることで、タブレットによる施工管理の重要性は大きく高まりつつあります。
タブレットによる施工管理は今後も普及が進み、一台で多くの業務をこなすことができるよう、発展していくことになるでしょう。
参考:
*1 ニュースイッチ「清水建設、埋設管をARで“見える化”。工事の損傷防ぐ」
https://newswitch.jp/p/8192
*2 上に同じ
*3 BUILT「現場周辺の“地中埋設物”をタブレット上にARで可視化、清水建設 」
https://built.itmedia.co.jp/bt/articles/1811/29/news026.html
*4 日刊工業新聞「清水建設、タブレットで施工管理‐AR活用し配管・柱など“見える化” 」
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00435736
*5 *4のページ3