清水建設とNTTが共同で開発するAI目視検査の効果
建設現場における目視検査は、熟練の作業員がその経験から良し悪しを判断する側面が大きく、機械に取って代わりにくいと考えられる業務の一つです。
しかし、清水建設とNTTが共同で開発したAIによる目視検査は、またひとつ現場の作業負担の減少に役立ってくれる、新しいテクノロジーとなりそうです。
①継目検査の大幅な速度向上に務める検査AI
②NTTコムウェアのDeeptectorが貢献
③汎用性が高く、他の業務にも導入が進められる可能性も
清水建設が実施するAIによる目視検査
清水建設はNTTコムウェアの提供するAIを活用し、目視検査を効率化させるためのシステムを開発しました。
鉄筋の圧接継ぎ手をAI検査可能に
今回清水建設がAIによる自動化に成功したのは、鉄筋の圧接継ぎ手の目視検査です。
鉄筋の端面を突き合わせ、上下から圧をかけることで膨らみを持った継手を作るという手法ですが、その検査には専門のエンジニアを呼び、圧接部のふくらみや直径、圧接面のずれ、鉄筋中心軸の偏心量や折れ曲がりなどを専用のノギスで測るといった業務が発生し、大いに時間を要します*1。
継手の検査は負担が大きいだけでなく、その数も膨大なため、何とかして効率化を図る必要があったのですが、NTTコムウェアの開発した画像認識AIによって、目視検査を自動化することに成功しました。
通常、継目検査には一箇所あたり5分の時間を要しており、何箇所も検査を行うとなると膨大な時間がかかることになります。
一方、今回の検査AIを用いた所要時間は、一箇所あたり20~30秒で終えることができます。10倍以上の高速化を実現するこの技術は、現場作業の効率化を大きく高めてくれる効果が期待できます。
検査はスマホで写真を撮るだけ
このAI目視検査システムは、検査こそ自動で行いますが、そのためには検査箇所の画像を用意する必要があります。
ただ、画像といっても専用のカメラなどで撮影する必要はなく、検査員がスマホで継目を撮影し、AIに読み込ませるだけで検査は完了となるため、その負担は非常に小さいと言えます。
専用アプリを起動して鉄筋径を選び、継手部分をガイドに沿って捉えて撮影するという簡便さは、熟練の検査員でなくとも、現場作業に従事する人間であれば誰でも扱えてしまうほどです。
AI化を実現したNTTコムウェアの「Deeptector」
このような目視検査のAI化に大きく貢献しているのが、NTTコムウェアの提供する「Deeptector(ディープテクター)」です。
パターン化によりAI開発が高速化
Deeptectorは人の「目」による判定・判別作業工程を自動化あるいは省人化することを目的にしたAI技術で、その業種は多岐に渡ります*2。
対象物のモニタリングや、今回の継ぎ目検査のような外観の判別作業など、目を使った業務はあらゆる業界に共通しているため、Deeptectorは非常に需要の高いAIシステムと言えるでしょう。
そして、各業界からの高い需要に応える汎用性を実現するため、Deeptectorが採用しているのは、ビジネス課題に合わせた複数種類の判定パターンです。
いくつかの対象から正解を導く検出型AIや、カテゴライズに特化する分類型AI、質の良し悪しや程度を判断するためのレベル判定型AIや、良品のデータ蓄積から、不良品を導き出す正例判定AIと、いくつものパターンに、Deeptector一台で対応することができます。
AIを一から構築するためには、人も時間も多く費やす必要があるものですが、Deeptectorであれば、AI特化の人材がおらずとも、データを用意するだけで簡単な判定システムを構築することも可能になります。
今回の継目検査AIもまた、Deeptectorを用いて、比較的短時間で構築することを可能にした一例といえるでしょう。
実証実験も進み、さらなる汎用性にも期待
継目検査AIは現在実践テストを重ねている最中で、2020年の1~3月の間、実際の施工中のビルにおいて実証実験を行う予定となっています。
Deeptectorは非常に汎用性の高いプラットフォームであるため、継目検査で実証に成功すれば、他の検査業務にも応用が進められていくと考えられます。
目視検査AI化の背景
このような目視検査のAI化が行われているのには、現場を取り巻くいくつかの課題が背景となっています。
熟練技能労働者の離職
一つ目は、熟練技能労働者の離職が進んでいることです。
技術のあるベテラン作業員が高齢化によって現場を離れ、これまで任せていた仕事と同じパフォーマンスを、キャリアの浅い作業員が発揮できるかという点には疑問が残ります。
また、近年は少子高齢化による労働人口の減少により、熟練労働者が技術を伝えたいと思っても、若い人材が不足しているために教える相手がいないというケースも見られます。
困難を伴う検査のAI化
また前述のように、継目検査は年間3000万件という膨大な量をこなさなければならず、圧接方法に応じて検査項目も異なるため、大量の検査員を要します。
また、度重なる検査のパフォーマンスを常に一定に保つためには、単にマニュアルを暗記するだけでなく、目視による感覚的な判断もつきまとうため、教育にも一定の時間を要します。
検査へのAIの導入を行うことで、工事管理者の早期育成を実現し、効率的な現場業務を実施していくことができるようになりました。
感染症対策としてのAI化について
最近のトピックを交えると、AIの導入は感染症対策の上でも注目することができます。
新型コロナウィルスの脅威はホワイトカラーの人間だけでなく、現場作業員のようなブルーカラーの人間にとっても恐ろしいものです。
特に作業現場は人口密度が高く、激しい運動や大声を伴うため、感染症が広がりやすい環境にあります。
2020年4月現在、新型感染症の影響で、多くの建設現場においても感染者が確認されており、工事の延期は免れない事態となっています。
AIの導入により、無人でも業務を遂行できるようになれば、今回のような感染リスクを避けつつ、業務を通常通り遂行することも可能になるでしょう。
おわりに
AIによる検査業務の自動化はまだ始まったばかりですが、いち早く普及を進めていきたい事情も、昨今では増えてきています。
継目検査に限らず、AI検査システムの実現、および導入は、建設業界では迅速に進められていくことになりそうです。
参考:
*1 建設ITワールド「ガス圧接継ぎ手の目視検査をAI化!清水建設とNTTコムが運用目指す」
https://ieiri-lab.jp/it/2019/11/rebar-joint-inspection-by-ai.html
*2 NTTコムウェア「画像認識AI Deeptector」
https://sc.nttcom.co.jp/ai/deeptector
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