五洋建設が進める施工管理システムへのBIM導入
BIMモデルの運用は、近年では施工管理システムにおいても普及が進んでおり、統合管理を改善していく上で重要な役割を果たしています。
中でも五洋建設が行なっている、BIMを使った施工管理システムの開発と導入は、より実践的な方法であるとして業界の中では注目を集めています。
①五洋建設が開発したPiCOMS
②誰でも使えるBIMを用いた施工管理システム
③様々な工事に応用可能
五洋建設が開発したPiCOMS(ピーコムス)
五洋建設は2019年12月、BIMモデルを活用した独自の統合管理システムである、「五洋建設統合施工管理システム」、通称PiCOMS(Penta-Ocean Integrated Construction Management System、ピーコムス)の開発と運用の開始を発表しました*1。
BIMモデルを活用した施工管理システム
PiCOMSは、次世代の3Dモデリング技術であるBIMを施工管理システムに導入し、BIMデータによって建築工事を管理できるように設計されています。
今回発表されたのは、超高層建物におけるプレキャスト工事の進捗管理システムです。
プレキャストの製造から取り付け情報まで、部材に関わる情報を一元的に管理し、工事関係者の間で共有できるようになったことで、管理業務の負担を以前の半分程度にまで削減することが可能になったとのことです*2。
進捗状況をリアルタイムで「見える化」できるようになったことで、現場での状況判断が容易になり、コミュニケーションコストも低下したため、管理に伴う全体的な負担は必然的に低下していったのです。
BIMによる施工管理が抱えてきた課題
これまでも建築デザインなどの現場では積極的なBIMデータの運用は進められてきましたが、施工管理におけるBIMの導入は今ひとつ進展が見られませんでした。
これにはいくつかの課題があり、一つはBIMに通じた専門家の数が現場担当者に少なく、その育成にも時間を要していたためです。
BIMは比較的新しい技術であるとともに、その運用にはある程度のスキルの習熟が求められるため、モノを現場に導入するだけでは使いこなすことができなかったためです。
BIMは確かに、理屈の上では情報共有の一元化を実現してはくれるものの、それはあくまで各分野の担当者にBIMの知識と運用スキルがあることを前提にしたメリットです。
将来的にはBIMに長けた人材の拡充も見込めますが、現在の業務プロセスの中にいきなり持ち込んで、すぐに効果的な運用を期待することはできなかったのです。
また、BIMは業務効率化によるコストパフォーマンスの向上もそのメリットとしてあげられますが、それを使いこなすために相応の教育コストを考慮しなければいけません。
あるいは、専用機材の導入も行わなければならず、短中期的なパフォーマンスの向上を見込むことは、現在の建設施工現場の状況を顧みると、BIM施工管理システムの導入は難しかったのです。
なぜPiCOMSは現場に浸透できたか
しかしながら、五洋建設によるPiCOMSの開発は、こういった課題を解決してくれる可能性を大きくはらんでいます。
スマホやタブレットで運用可能
PiCOMSの大きな特徴としてあげられるのが、BIMの知識がなくとも簡単に運用ができるようになった点です。
その要因の一つに、スマホやタブレットを使った運用が想定されている設計が挙げられます。PiCOMSを通じて3Dモデルを閲覧する際、QRコードをスマホやタブレットを使って読み込むだけで行えるようになっており、専用の機器がなくともアプリがあれば誰でも閲覧が可能です。
誰もがBIMを使った施工管理を担当できるように
PiCOMSは閲覧だけでなく、3Dモデル部材の選択や取り付け計画、設定もタブレットから行えるように設計されています。
タブレットによる感覚的な操作が可能になるだけでなく、普段使い慣れているデバイスをいつも通り使うだけで業務を遂行できるため、即戦力として現場への導入もスムーズに行えるというわけです。
また、実際の運用に当たっても特別な知識はいらず、簡単な操作が可能となるよう作られているので、BIMの専門知識がなくとも、すべての職員・作業員が平等に扱うことができるようになっています。
BIMという新しい技術を導入するにとどまらず、その使いやすさも追求するところに、五洋建設によるBIM運用の革新性が現れていると言えるでしょう。
五洋建設によるBIM運用のこれから
五洋建設が開発したPiCOMSは、プレキャスト工事にとどまらず、そのほかの施工管理にも幅広く応用が可能です。
国内ではPiCOMSの実践導入が進む
今回12月に発表されたプレキャスト工事におけるPiCOMSの活用は、すでに品川区の武蔵小山に建設中の超高層ビルにおいて進められています*3。
地上41階のこの高層ビルが竣工されれば、大規模なBIM管理システムが活用された事例として、大いに話題になることも期待されます。
また、PiCOMSは鉄骨工事を含むその他の工種にも応用が可能ということで、今後はその活用方法も多様化し、実践導入も続々と行われていく予定です。
近い将来、五洋建設における施工管理はPiCOMSなしには行えないほどに浸透する可能性も、十分にあり得るでしょう。
海外におけるBIM運用の展開も
五洋建設はPiCOMSだけでなく、以前よりBIM運用に積極的な会社の一つでもありました。
国内だけでなく海外拠点においてもBIMの運用は進んでおり、建設ラッシュが進むシンガポールでは、専門エンジニアと管理者数十名が現地に駐在し、図面作成と施工管理に臨んでいます*4。
今でこそPiCOMSの運用は国内にとどまっていますが、BIMの運用が海外でも進められている以上、近いうちにPiCOMSの海外事例を見ることができるかもしれません。
おわりに
五洋建設のBIMを活用した施工管理システムは、誰にでも扱え、現場での即戦力になるとして、大きく注目を集めています。
今でこそ専門知識を要するBIM運用ですが、今後は他の会社においても独自の管理システムの開発が進められ、誰でも使えるBIMシステムが主流になっていくことと予想されます。
出典:
*1 五洋建設「BIMモデルを用いたプレキャスト工事統合施工管理システムを開発・運用開始」
http://www.penta-ocean.co.jp/news/2019/191216.html
*2 BUILT「五洋建設が超高層建物のプレキャスト工事の進捗を“見える化”するシステム開発」
https://built.itmedia.co.jp/bt/articles/2001/20/news030.html
*3 上に同じ
*4 五洋建設「BIMで3Dモデルを作成」
http://www.penta-ocean.co.jp/recruit/fresh/work/fujioka.html
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