手数料が優遇されるGoogleの「Play Media Experience Program」とは?
Apple税として話題にもなっていたアプリ開発者に課される手数料について、Appleに続きGoogleでも手数料が優遇されるプログラムを開始しました。
Googleの「Play Media Experience Program」では、条件を満たす開発者に対して手数料を15%にするという発表がされました。2021年3月の時点でも、一部の開発者に対して手数料減免が実施されていましたが、今回はより対象者を拡大しています。
今回はGoogleの「Play Media Experience Program」について、その内容を詳しく見ていきましょう。
この記事でわかること
・Play Media Experience Programについて
・AppleとGoogleのアプリ手数料に関する動き
・開発者の手数料体系
Play Media Experience Programとは
Googleは2021年6月23日に、一定の条件を満たせばアプリストアの手数料を15%にする開発者向けプログラムを発表しました。プログラム名は「Play Media Experience Program」と呼ばれ、元来30%であった手数料を半額にするというものです。
このプログラムは発表即日、グローバルに展開されましたので日本の開発者であってもすぐにメリットを享受することができます。
必要とされる条件は以下の通りです。
・動画・オーディオ・書籍のコンテンツアプリを提供していること
・毎月10万台以上のデバイスでアクティブに使われていること
・Google Playストアでの評価が高評価であること
・開発者アカウントの状態が良好であること
・特定のGoogleプラットフォームとAPIの統合がなされていること
「毎月10万台以上のデバイスでアクティブに使われている」と言う条件については、一部のメディアでは「毎月10万件以上のインストールがあること」と紹介されていました。これは、Google(英文)で紹介されている”Over 100,000 monthly active installs on Google Play”の単純な翻訳ミスではないかと思われます。
”active installs”の部分は「アクティブなインストールがあること」ではなく、「インストールされたソフトがアクティブであること」と解釈するのが正しいと思われます。
毎月コンスタントに10万件のインストールが継続することは、かなりハードルが高く、インストール数よりもアクティブユーザーがいることの方が、指標としては重要であると考えられます。
また「動画・オーディオ・書籍のコンテンツアプリを提供していること」と言う条件については、ゲームなどのアプリ系ではなくマルチメディア関係コンテンツを対象にしていると考えられます。
2012年までは、アプリ系とマルチメディア系は別々のサービスとして提供されていました。しかし、Google Playブランドに統合されたことで、マルチメディア系もGoogle Palyストアを経由して提供されるようになりました。
今回の条件では、「アクティブユーザーが多く」「評価が高い」ことが必要ですので、「評判の良いコンテンツ」が対象であると考えて良いでしょう。
また「開発者アカウントが良好であること」の具体的な内容は不明ですが、普通に考えると、「デベロッパー プログラム ポリシー」や「デベロッパー販売 / 配布契約」などに違反していないことを指していると思われます。*注1
さらに「Play Media Experience Program」では、個別のコンテンツごとに詳しい要件が設定されています。
基本的には「クロスディバイスで利用できるようにすること」が求められています。コンテンツ制作者にとっては、ユーザーを拡大するチャンスを得られるというのは理解できますが、実際に取り組む場合それなりに手間がかかります。
<コンテンツごとの要件など>
◯ビデオ
・対象コンテンツ
映画、テレビショー、ライブスポーツ、ライブニュースなどのビデオコンテンツの提供
・要件
AndroidTV、Google TV、キャストプラットフォームでのクロスデバイス、サインインなどの統合
・ユーザーメリット
コンテンツを簡単に見つけるためのスマートなレコメンド、サインアップとサインインの容易さ、および検出の強化
◯オーディオ
・対象コンテンツ
サブスクリプションによるプレミアムミュージック、オーディオコンテンツ
・要件
WearOS、Android Auto、AndroidTV、およびGoogleCastプラットフォームの統合
・ユーザーメリット
コンテンツの発見とデバイス間での継続的なリスニング
◯書籍
・対象コンテンツ
プレミアムブック、オーディオブック、コミック
・要件
タブレットと折りたたみ式端末への最適化、エンターテインメントスペース対応。オーディオブックアプリ用のWearOSとAndroidAutoの統合
・ユーザーメリット
エンターテインメントスペース全体での読書体験、コンテンツの発見、再エンゲージメントの向上
※「エンターテインメントスペース」は映画、番組、ビデオ、ゲーム、書籍などにワンストップでアクセスできるポータル機能です。Android端末に実装されることが最近発表されました。
今回のプログラムに先行して2021年3月に発表されたプログラムでは、年間100万ドル以下の売り上げまでは、従来の30%手数料を15%に引き下げると言う措置でした。
これはAppleが2020年11月に実施した「App Store Small Business Program」と歩調を合わせるための措置でした。いわゆるApple税の批判を受けて、Google側も小規模事業者を対象に手数料を引き下げてきた経緯があります。
GoogleにしろAppleにしろ、圧倒的な市場支配力を持つプラットフォーマーに対する批判の高まりを受けたことにより、このようなプログラムを実施しています。
3月のプログラムが「批判への対応」措置であり、主に小規模事業者が対象となっているのに対して、今回のプログラムは「大規模事業者も対象」となっている点が特徴となっています。
さらに、コンテンツの質をあげることを主体としていることから、うまく機能すればコンテンツのユーザーにとっても直接的なメリットを実現することができるのではないでしょうか。*注2
AppleとGoogleのアプリ手数料に関する動き
AppleやGoogleがアプリ手数料を引き下げることになったのは、2020年に突如として巻き起こったフォートナイトとの紛争がきっかけとなっています。
高額な手数料を継続的に徴収することを批判したフォートナイトに、多くの開発者が同調する動きを見せたことから、巨大プラットフォーマーである2社も対応せざるを得なくなりました。
同時期には、圧倒的な市場支配力をもち年々その影響力を増しているGAFAに対しても、独占禁止法違反での追求圧力が高まりました。また、欧州委員会による度重なる追求や、米国議会での調査なども続いています。
AppleやGoogleとしても、批判に対する対応を自主的に実施することで、なんとか追求をかわしたいというのが手数料の引き下げにつながっています。
今回の「Play Media Experience Program」は、このような流れの一環でもあり、さらに一歩進めて「良質なコンテンツの提供」や「クロスプラットフォーム化」を加速することで、より多くのユーザーに訴求することを目的としています。
ただし、100万ドル以下の開発者に対して一律に実施される割引プログラムに比べ、かなり要件が限定されてますので、どの程度の開発者をカバーできるのかについては不明です。*注3
〇Appleとフォートナイトを巡る紛争については、以下をご覧ください。
フォートナイトを巡るバトルで注目される「Apple税」
AppleがUnreal Engineを削除!?一連の騒動のまとめ
開発者の手数料体系について
AppleとGoogleがアプリ開発者に課している手数料は、以下のようになっています。
◯初期費用・年間手数料
Apple 開発者アカウントごとに年間99ドル
Google アプリ登録1回ごとに25ドル
◯アプリの購入ごとにストアが徴収する手数料
Apple 30%
Google 30%
◯アプリ内課金に対する手数料
Apple 30%(物理的な商品とサービスを除く)
Google 30%(物理的な商品とサービスを除く)
◯サブスクリプションに対する手数料
Apple 初年度は30%、2年目以降は15%
Google 15%
初期費用については、いくつもアプリをリリースするのであればAppleが多少有利となっていますが、サブスクに関してはGoogleが若干有利です。
しかし開発者にとって重要なのは、継続的に発生するアプリ内課金やサブスク手数料でしょう。その部分に関しては、ほぼ横並びの手数料となっています。
小規模事業者に対する手数料引き下げ措置も、足並みを揃えている内容となっていますので、2大プラットフォームにおける手数料体系に関する違いは、ほぼないと言ってよいでしょう。
アプリ内課金に関して、「物理的な商品とサービス」については手数料が課金されません。例えば、ショップでTシャツを販売する時の販売料金や、ウーバーで車を手配した時の運賃などは対象から除外されます。
あくまでアプリ内でやりとりするデジタル化された商品や、サービスに対する課金が手数料の対象となります。
今回の記事では、Googleの手数料引き下げプログラムである「Play Media Experience Program」についてまとめてみました。
個別に見れば、開発者の育成やコンテンツの質の向上につなげるプログラムとなっています。しかし大きな流れとして、Appleを含めた2大プラットフォームに対する圧力への対応であることも重要です。
批判をかわす目的とはいえ、手数料割引などの措置は開発者だけでなく、私たちエンドユーザーにも最終的には利益となると考えて良いでしょう。
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■参考文献
注1
IT Media NEWS 「Google、Androidアプリ手数料を15%にする「Play Media Experience Program」」
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2106/28/news062.html
Android Developers Blog “Continuing to boost developer success on Google Play”
https://android-developers.googleblog.com/2021/06/continuing-to-boost-developer-success.html
Google “Play Media Experience Program”
https://play.google.com/console/about/mediaprogram/
engadget 「Google Play 発表、アプリや映像・音楽・書籍ストアを統合 (動画)」
https://japanese.engadget.com/jp-2012-03-06-google-play.html
注2
IT Media NEWS 「Googleもアプリストアの手数料を年間100万ドルまで15%に Appleと違い全開発者対象」
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2103/17/news072.html
「Apple、新たなデベロッパー向けプログラム「App Store Small Business Program」を発表 手数料率を半分に」
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2011/19/news060.html
9TO5 Google “Google makes big push for new Wear OS, TV, Auto, & tablet media apps by reducing its commission”
https://9to5google.com/2021/06/23/google-play-media-experience-program/
Google ”Blast off into Entertainment Space on your Android tablet”
https://blog.google/products/android/entertainment-space
注3
IT Media NEWS 「欧州委員会、Appleに「App Storeで支配的な立場を乱用している」と予備的見解を通知」
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2105/01/news021.html
朝日新聞 「GAFA、歯切れ悪く 独禁法や大統領選で米議会が追及」
https://www.asahi.com/articles/ASN7Z739RN7ZULFA00F.html