WWDC2022で発表された「新型Apple CarPlay」に関するまとめ
Appleの開発者向けイベント「WWDC2022」では、各種OSのアップデートが発表されました。ソフトウエア面での発表が目立った今回のWWDCですが、その中でも「新型Apple CarPlay」は、単なる機能強化だけに留まらないAppleの戦略が見え隠れします。
今回の記事ではその辺りの話題も含めて「新型Apple CarPlay」についてまとめてみましょう。
この記事でわかること
・新型Apple CarPlayについて
・自動車業界でのソフトウエア市場について
・日本でApple CarPlayの普及が進まない理由と今後
WWDC2022で発表された「新型Apple CarPlay」について
「新型Apple CarPlay」は、6月のWWDC2022で発表されました。発表の内容は「概要」に留まるものでしたが、フロントウインドウ下部に各種データが大画面で表示されるイメージ画像が印象的でした。
「新型Apple CarPlay」に対応するメーカーは以下の通りです。
■「新型Apple CarPlay」対応メーカー
ランドローバー、メルセデス・ベンツ、ポルシェ、フォード、リンカーン、アウディ、ジャガー、ボルボ、ルノー、アキュラ、インフィニティ、ポールスター、日産、ホンダ
日本のメーカーでは日産とホンダが確認できます。対応車種については2023年の後半以降の登場予定とされていました。
◯新たな領域に踏み込んだ「新型Apple CarPlay」
新たな機能としては、速度計やエンジン回転数などの表示ができるようになるとアナウンスされました。CarPlayに対応したディスプレイ上に表示され、自由にカスタマイズできることなど、柔軟な設定が可能です。
単純に考えると、たいした機能追加ではないように思えます。
速度計やエンジン回転数は、車に標準で搭載されているパネルでも確認できます。わざわざCarPlay対応ディスプレイで表示しなくても良さそうですので、カスタマイズできるとはいえ冗長な機能のように思えます。
しかし見方を変えると、「Appleがこれまでの領域を踏み越えて一歩「車側」の機能に入り込んできた」とも捉えることができます。
これまでは、スマホで取り扱う情報である「通話・SNS・ナビ・スケジュール」などを車側の機器で表示するという機能が主でした。これはインフォメーションとエンターテインメントの融合である「インフォテイメント」と呼ばれています。
一方、速度やエンジン回転数というのは車側の情報であり、本来であれば自動車メーカーが取り扱う領域です。このデータをスマホ側のアプリで吸い上げ、それをディスプレイへ表示するというのが新しい点です。
自動車メーカーとしては、できれば自社で完全に掌握し外部には出したくないはずの情報までAppleが踏み込んできたことになります。
Appleはかなり前から自動運転車への取り組みを進めており、「Apple Car」の登場も噂されています。
自動車メーカーとしては、ひょっとしたら将来のライバルになる可能性があるAppleに対して、車の内部情報にまでアクセスを許すのは本来であれば望ましいことではないでしょう。
しかし、CarPlayに対するiPhone利用者のニーズの高さやインフォテイメントの今後の普及などを勘案し、14社もの有名メーカーが対応を決断したと思われます。
ところでApple Carについて、現状どの程度進んでいるのでしょうか?
一時期、かなり話題になっていたApple Carですが、このところ新しいニュースを見かけなくなってきました。
Appleが自動車メーカーとして、自社設計の自動運転・電気自動車をリリースする未来が来るのか?それとも、自動車業界へのダイレクトな参入は見送られ、別のスタンスで自動車市場へ入ってくるのでしょうか?
今回の「新型Apple CarPlay」で、車側の情報にアプリがアクセスできるようになったことをきっかけに、ソフトウエア分野で既存の自動車メーカーと連携しながら、Appleの技術力が活かせる新たなサービスを提供する方向になってくるのかもしれません。
どちらにしてもはっきりとした狙いがわかるには、もう少し時間がかかりそうです。*注1
大きな成長が見込める自動車業界でのソフトウエア市場
実はAppleが自動車メーカーとしてApple Carを設計・製造・販売しなくても、自動車業界のソフトウエア分野だけでも十分な収益が見込めます。
コンサルティング企業である「McKinsey」は、この市場が年間9%成長を続けると予測しており、その成長率は自動車市場の成長予測を上回ります。
2030年までにソフトウエア市場だけでも年500億ドルの市場規模になるとも予測しており、十分に魅力的な「成長市場」となっています。
自動車メーカーもこうした市場の開拓には力を入れて取り組み始めており、実際「General Motors」は車載サブスクリプションで年間20億ドルの収益をあげています。
また「Tesla」でも、199ドル/月の運転支援サブスクリプションがスタートしています。自動車業界の新たなターゲットとして、ソフトウエア関連のサービスの重要さが増しています。*注2
日本でApple CarPlayの普及が進まない理由と今後
ここまでApple CarPlayについて記述してきましたが、私たちの身の回りではそれほど普及してないように感じられます。対応車種が限定されているというのもあると思いますが、世界でもiPhone普及率が高い日本市場なのに、普及が進まないのはなぜでしょうか?
大きな要因としては、国内におけるカーナビの普及率の高さがあげられます。
ディーラーのオプションなどで、軽自動車や低価格帯の一般車両でもカーナビを搭載することが普通になっています。また、スマホと連携して音楽再生する機能もエントリーレベルの車にも搭載されていますので、わざわざApple CarPlayに頼らなくても良いという状況です。
一方海外では、カーナビの普及率は日本ほど高くないこともあり、iPhoneなどスマホのアプリを利用する場面が多くあります。さらに、SNSの通知チェックや音楽再生でもスマホのサービスを利用するため、運転中に操作してしまい事故につながるケースが多く、CarPlayに対するニーズが日本よりも高いという状況でした。
そのため米国では、新車の購入を検討している消費者のうち79%が、CarPlayに対応していない車種は購入対象から外すという調査もあるぐらいです。
日本のみなさんは、新車を購入する条件としてCarPlay対応はどのくらいの優先度でしょうか?「あればいいけど、それよりも優先することが多い」と言う方がほとんどだと思います。
今回WWDCで発表された「新型Apple CarPlay」は、大型モニタに美しく表示された各種情報など、ビジュアルイメージも相まって新しい層にも十分アピールできそうです。
本来は自動車メーカーが自社開発し、収益を確保できる分野にAppleが侵入してきたことになりますが、ユーザーが使い慣れたスマホとのシームレスな連携はそれだけ訴求力があるということでしょう。
国内メーカーではトヨタなどの対応が現状不明ですが、このような「自動車メーカー側が守りたい部分」と「ユーザーニーズ」のせめぎ合いが水面下にあると見て良いのかも知れません。
しかし、すでに現状のCarPlayに複数車種が対応していることを考慮すると、「新型Apple CarPlay」へは対応しないという訳にも行かないでしょう。*注3
【まとめ】
CarPlayの機能が強化され、より車本体が持つ情報へのアクセスが可能になると、人の移動情報といったビックデータや、個別車両の性能に関わるような情報までAppleが把握できるようになります。
これを利用した新たなビジネス領域の開拓など、大きな可能性が広がる魅力的なステップとなりそうです。このような動きに各自動車メーカーがどのように対抗してくるのでしょうか?
それとも協調する道を選択するのでしょうか?
ひょっとしたら、自動車業界そのものに大きな影響を与える出来事になるかも知れません。
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■参考文献
注1
Car Watch 「アップル、次世代「CarPlay」でコクピットのメーター表示も可能に 日産、ホンダ、ポルシェなどが対応し2023年以降発売」
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1415278.html
「アップル、2021年型BMW 5シリーズでiPhoneが自動車のデジタルキーになると発表」
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1260708.html
Apple CarPlay
https://www.apple.com/jp/ios/carplay/
https://www.apple.com/jp/ios/carplay/available-models/
くるまのニュース 「 超大画面! 次世代「Apple CarPlay」世界初公開! 日本でも普及進む? 欧米とは異なるインフォテイメント事情」
https://kuruma-news.jp/post/517781
注2
iPhone Mania 「Appleの次世代CarPlay、自動車業界で巨大な収益源となる可能性」
https://iphone-mania.jp/news-471648/
注3
CNBC ”Apple’s new car software could be a trojan horse into the automotive industry”
https://www.cnbc.com/2022/07/22/apple-carplay-could-be-a-trojan-horse-into-the-automotive-industry.html