建築物の維持管理におけるBIM活用 国土交通省のガイドラインと事例を詳しく紹介
技能労働者の減少や時間外労働の上限規制への対応は、建設業にとって喫緊の課題です。
この問題を解決するため、官民一体で取り組んでいるのが設計から施工、維持管理までを一貫して管理することが可能なBIMの活用です。
このBIMの活用、設計段階・施工段階では一定の成果を挙げていると言えるでしょう。
しかし維持管理段階での活用は、遅れを取っているのが実情です。
そこでこの記事では、国土交通省(以下、国交省)が示す維持管理・運用BIMの内容と、活用事例をご紹介します。
建築物の維持管理でBIM活用を考えている方は、ぜひご覧になってみてください。
国土交通省が示す建築物の維持管理におけるBIM活用
国交省は、BIMのプロセス横断的な活用を広めるため、「建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)を策定しました。
そのなかで、維持管理段階でのBIM活用が大きな項目として掲げられ、「維持管理・運用BIM」*1としてまとめられています。
ここでは、ガイドラインの内容をわかりやすくご説明します。
維持管理・運用段階でのBIM活用の目的
建築物の維持管理・運用段階でのBIM活用やデータベース化により、建築物の適切な維持管理・運用の効率化が期待されています。
今後さらに望まれるのは、建築物の魅力を高めるファシリティマネジメントの実現です。
運用中に生まれる新たなニーズにあわせて建築物を維持・更新することで、魅力向上に寄与することが期待されています。
魅力向上とは具体的に、
「公共施設での運営の効率化」
「オフィスでの生産性の向上」
「商業施設の集客性の向上」などです。
ここで、ファシリティマネジメントは、
「企業・団体等が組織活動のために、施設とその環境を総合的に企画、管理、活用する経営活動」
(公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会*2)
と定義されています。
国交省は、維持管理・運用段階におけるBIM活用で重要なことを2点挙げています。
「建築物のファシリティマネジメント(企画・管理・活用)について整理すること」と、「建築物の魅力向上に向けた活用目的を明確にすること」です*1。
意識しなければいけないことは、維持管理・運用BIMの活用目的が、施設の用途や利用者によって三者三様であることです。
そのため、維持管理・運用BIMを作成する場合は、中長期的な視野でその建築物特有の課題を抽出する必要があります。
そのうえで、どのような情報をBIMに取り入れるかを事前に議論し、効果的なモデルを作成するのが大切です。
維持管理・運用BIMの作成と活用方法について
維持管理・運用BIMの作成に当たっては、発注者が利用目的や要件をEIR(発注者情報要件)に記載します。
それを受けて、受注者側の維持管理・運用BIM作成者がBEP(BIM実行計画書)でモデルの作成方法を提示するのが一般的な流れです*1。
このとき、発注者とBIM作成者は、前述のBIM活用の目的について目線合わせを行い、BIM活用に期待する効果とそのために必要なモデル情報を定めるのが重要です。
詳細すぎるBIMは作成に過度な労力がかかるほか、データ容量が大きくなりすぎて扱いづらいモデルになります。
一方で、ディテールの足りないモデルでは、運用に必要な情報を十分に得られなくなってしまいます。
また、モデルの作成方法についての協議も大切です。
施工BIMを基に作成するのか、新規に維持管理・運用BIMを作成するのかなど、さまざまな方法が考えられます。
誰が作成するのかをあわせて検討することで、労力を抑えながら有用な維持管理・運用BIMを作成することが可能です。
維持管理・運用段階へのBIMデータ受渡し
作成された維持管理・運用BIMは、BIM作成者から発注者及び維持管理者に受渡されます。
しかし、発注者や維持管理者が独力でモデルを理解するのは困難です。
そのため、「設計意図説明書」や「利用に関する説明書」など、両者がわかりやすい場で説明されるのがよいとされています*1。
維持管理・運用BIMは必要に応じて更新し続けることで真価を発揮します。
したがって、データの更新方法についてあらかじめ決めておくのが重要です。
どんなときに、誰が、どんな内容を入力するのか、を明確にすることで運用方法がわかりやすくなります。
例えば、設備を更新したときに、設備管理者が、設備の耐用年数と次回の更新時期を入力する、というような内容です。
また、場合によっては維持管理・運用BIMをほかのソフトと連携して使用します。
その場合、データを連携したときに不具合が生じないかを受渡し前に確認する作業が重要です。
建築物の運用開始時期を見据え、十分な確認期間を確保できるスケジュールを計画する必要があります。
国土交通省のBIMモデル事業 維持管理における活用事例
BIMモデル事業とは、BIM導入の効果検証などを行う民間事業者等を国交省が支援する取り組みです*3。
ここでは、3つのBIMモデル事業を紹介し、維持管理・運用段階でのBIM活用の効果や課題をみていきます。
エービーシー商会新本社ビルでの活用事例*4
エービーシー商会新本社ビルは、設計・施工・維持管理において積極的にBIMを導入してる自社オフィルビルです。
このプロジェクトにおいては、発注者が主要部材や設備の更新を判断するためのツールとして維持管理・運用BIMを使用しています。
このとき、更新の判断指標としているのは、維持管理会社による「経過年数による部材別優先度判定」です。
BIM上で色分けすることで、更新優先度を視覚的にわかりやすく表示しています。
経過年数による部材別修繕優先度判定は、専門知識のない発注者でも理解しやすいのがメリットです。
そのため、維持管理者による更新の判断の支援になることが期待されています。
耐用年数の可視化
(引用)令和4年度 BIM を活用した建築生産・維持管理 プロセス円滑化モデル事業 検証結果報告書 採択提案名:エービーシー商会新本社ビルにおける、 建物運用・維持管理段階での BIM 活用効果検証・課題分析 P.32
国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001596711.pdf
竹中工務店静岡営業所での活用事例*5
竹中工務店静岡営業所は、2021年に竣工した自社の営業所です。
特徴的な船底形状のコンクリートスラブの施工にBIMを積極的に活用しているほか、日常的な維持管理業務にBIMを取り入れています。
施工着手前に維持管理方針を共有したうえで、工事期間中に維持管理BIMを作成しているのがこのプロジェクトの特徴です。
施工BIMをベースに情報を追加していくことで工事期間中でのモデル作成を可能としています。
これにより、維持管理BIMの引渡し期間の短縮を図っています。
さらに、「利用用途に応じたパーツグループの色分け表現」や「モデルの見え方」などの建物管理者の意向をモデルに反映しているのがポイントです。
このような取り組みにより、BIMを使い慣れていない建物管理者でも使いやすい維持管理BIMが完成したと報告されています。
パーツグループの色分け表現
(引用)令和3年度 BIM を活用した建築生産・維持管理 プロセス円滑化モデル事業 検証結果報告書 応募提案名:RC造及びS造のプロジェクトにおけるBIM活用の効果検証・課題分析 P.10
国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001482010.pdf
横浜地方合同庁舎での活用事例*6
横浜地方合同庁舎は、国の15官署が集約されている公共施設です。
このプロジェクトは、維持管理・運用BIMの活用により、「情報検索の容易性」「情報の共有性」「システムの更新性」の向上を図っているのが特徴です。
報告書では、設備情報などを取り込んだ維持管理システムを使った情報の検索・共有の作業により、紙媒体の作業と比較してどれほどの削減効果があるかを検証しています。
その結果、「情報検索の容易性」では53.75%、「情報の共有性」では67.5%、「システムの更新性」では98.4%の削減効果が報告されています。
「情報の共有性」で試行されている項目のひとつは、維持管理者から発注者への維持管理計画の共有です。
3Dモデル上で維持管理計画を色分けして表示し、劣化箇所の写真をシステム上にファイリングすることで、共有作業の効率化を図っています。
修繕更新計画の色分け表現
(引用)令和4年度 先導型 BIM モデル事業 検証結果報告書 案件:横浜地方合同庁舎(PFI 事業)P.36
国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001596722.pdf
おわりに
維持管理・運用段階でのBIM活用は、維持管理者の負担の軽減ならびに建築物の長寿命化につながります。
建築物によってどのような活用方法がよいかはさまざまです。
維持管理・運用段階でのBIM活用を検討する場合は、設計者及び施工者に相談してみてください。
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*1
(参考) 建築分野におけるBIMの標準ワークフローとその活用方策に関するガイドライン P.53~56
国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/001488797.pdf
*2
(参考) ファシリティマネジメントとは
公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会
https://www.jfma.or.jp/whatsFM/
*3
(参考)令和4年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業「先導事業者型」「中小事業者BIM指向型」の“二次募集”を開始します!~建築分野におけるBIM導入のメリットの検証等に取り組む民間事業者等を支援~
国土交通省
https://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_000926.html
*4
(参考)令和4年度 BIM を活用した建築生産・維持管理 プロセス円滑化モデル事業 検証結果報告書 採択提案名:エービーシー商会新本社ビルにおける、 建物運用・維持管理段階での BIM 活用効果検証・課題分析 P.29~33
国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001596711.pdf
*5
(参考)令和3年度 BIM を活用した建築生産・維持管理 プロセス円滑化モデル事業 検証結果報告書 応募提案名:RC造及びS造のプロジェクトにおけるBIM活用の効果検証・課題分析 P.8~11
国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001482010.pdf
*6
(参考)令和4年度 先導型 BIM モデル事業 検証結果報告書 案件:横浜地方合同庁舎(PFI 事業)P.7-49,223~225
国土交通省
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001596722.pdf
*7
(参考)AIR-Plate
梓総合研究所
https://air-plate.jp/