Apple Cardが日本で利用できるようになるためのハードルは?
2019年に初登場したAppleのクレジットカード「Apple Card」。iPhoneで利用できるバーチャルカードで、1~3%のキャッシュバックがつく魅力的なクレカです。
チタン製のリアルカードがクールで、Appleユーザーとしては早く日本に上陸してほしいアイテムの一つでしょう。
ところがサービス開始から4年経っても日本で展開する気配はありません。一体どーなってるのでしょうか??
この記事でわかること
・Apple Cardの特徴について
・Appleにとってのメリットは何か?
・日本上陸の可能性について
Apple Cardの特徴について
「Apple Card」の一番の特徴は、「手数料がオールでタダ」と言うところではないでしょうか。年会費無料・キャッシング手数料無料・海外利用料金無料・返済手数料も全て無料です。
リボ払いを選択した時だけ手数料がかかりますが、月末一括返済なら手数料無料と、ありがたいことばかりです。
それどころか延滞損害金の設定もありませんので、ちょっと入金を忘れていて返済が遅れても大丈夫です。通常金利のみ支払えばOK。
私たちがクレカを選択する際には、余計な費用がかからないのも重要なポイントです。年会費ありのクレジットカードの場合であればそれなりの特典がありますが、特典を利用しなければ単にコストがかかるだけです。余計な費用が掛からないカードはとても魅力的です。
二つ目のポイントとしては、キャッシュバックがあることです。利用金額に対して1~3%のキャッシュバックがあり、即日入金されます。他のクレカでもポイント還元などがありますが、いちいちポイントを換金したり使い道が制限されるのに比べ、キャッシュバックであれば自由度が高いので、とてもいいですよね。
Apple製品やサービスの購入であれば3%、Apple Payを利用すれば2%、その他の利用で1%のキャッシュバックが受けられます。日本国内ではApple Pay対応店舗がそれほど多くはありませんが、いつもの買い物にチタン製のリアルカードを使えば、最低でも1%のキャッシュバックがもらえます。
例えば20万円超えのMacbookを購入して、6,000円のキャッシュバックがあります。それが十分かどうかは人によって感じ方が違うでしょうが、何もないより全然よいでしょう。
3%還元はApple Storeなどでの購入に限られますので、量販店なら2%か1%になるため注意が必要です。
また、「Apple Card」の大きな特徴として「セキュリティが強い」という部分もあります。チタン製のリアルカードは、表面にロゴと利用者氏名しか印字されていません。クレジットナンバーや利用期限などの記載が無いため、よからぬ相手に見られても情報を与えることがありません。
もちろん、通常のクレカでも暗証番号がなければ不正利用はできませんが、「一切情報を与えない」ことで信頼性が一段階アップします。また心理的にも安心感があります。
さらにナンバーレスのチタン製クレジットカードと言う、持っているだけで優越感が得られるのもユーザー心理をくすぐります。
「Apple Card」では、必要な情報は全て内部のICチップに記録されています。チタンは電波を通しませんので、端末に通さない限りスキミングなどはできません。その反面、非接触型の決済端末では利用できないというデメリットもあります。
一方、iPhoneで利用するバーチャルカードは、Walletアプリに登録して使います。支払日の変更や各種手続きなど全てiPhone上で可能です。いちいちクレジット会社のサイトに飛んで、個人認証をして何枚もページをめくって、、、という煩わしさが一切ありません。
デバイスメーカーが提供するサービスだからこそ、デバイス内で全てが完結するというスマートさは格別です。
クレジット機能は、ゴールドマン・サックスと提携して運営されています。決済に関する情報は全て端末内で管理され、Appleやゴールドマン・サックスがそれを別の目的で取得・利用することはありません。
マーケティング目的で利用したり、データをまとめて販売したりすることもないと宣言しています。
また、クレジットが利用されたら、その度にメッセージでiPhoneに通知が届きます。もし不正利用の疑いがあれば、そのメッセージで表示される「Report a Problem(問題を通知)」ボタンを押すだけでAppleに知らせる事ができ、すぐに利用が停止されそれ以上の被害を防止することができます。
また、クレジットの利用履歴はカテゴリー別に色分けて表示されます。食事・エンターテイメント・ショッピング・旅行などに分類されますので、利用内容を感覚的に把握することができます。
iPhoneに表示されるバーチャルカードも最初は白色ですが、利用状況に応じて色が変化してきます。この辺はAppleらしい遊び心を感じます。
さらにiPhoneのメッセージ機能を使った個人間送金にも対応しています。このように便利な点も多いのですが、ショッピング保障や旅行傷害保険などがついてないなど、普段使っているクレカと比べて不足している部分も否めません。
「Apple Card」は欲しいカードの1枚ではありますが、これだけでは不十分なのかな?と思う部分もあります。
日本国内での利用開始を熱望するAppleユーザーも多いと思いますが、いまだにAppleからは何のアナウンスもありません。問題はAppleがこのサービスを日本で展開することにメリットがあるかどうかという点でないでしょうか。
「Apple Card」はAppleの戦略上、どんな位置付けなのでしょうか。*注1
Appleにとってのメリットは何かを考える
サービス満点で利用者にとってメリットしかない「Apple Card」。Appleにとってはどのようなメリットがあるのでしょうか。
Appleのコアビジネスは、iPhoneをはじめとする各種プロダクトの販売です。こうして世界中に拡大したAppleプラットフォームを利用して、関連するアプリやサービスの販売手数料も、莫大な利益を生み出しています。
各種販売には決済という手続きが伴います。この決済手段まで自社で取り込むことができれば、ユーザーの囲い込みという意味でとても有利です。
当然そのボリュームも巨大ですので、金融事業そのものも大きなビジネスになるでしょう。
日本だと楽天やソフトバンク、セブンイレブンなども金融ビジネスに進出しており、かつての財閥なども金融が重要な役割を果たしています。本業ビジネスがある程度の規模になってくると、資金調達の面でも為替や決済という面でも、グループ内に金融部門を持っておいた方が有利となることは明らかです。
しかしAppleの場合、グループ企業に金融部門を立ち上げた訳ではありません。ゴールドマン・サックスとの提携で「Apple Card」を運営しているため、若干意味合いが異なります。
実はゴールドマン・サックスは、「Apple Card」に関連して、10億ドルもの損失を出しているということであり、提携の解消も噂されています。
また金融という話題に関連して、Appleは新たに通称「Apple 銀行」を開始しました。「Apple Card」利用者限定ですが、なんと預金金利は4.15%と夢のような高金利です。
米国内での一般的な預金金利と比べても、約10倍と超破格の水準です。もはや「Apple Card」よりも「Apple 銀行」の方が早く日本に上陸して欲しいです。
「Apple 銀行」は、サービス開始からわずか4日で9億9000万ドルの預金を集め、2023年8月には100億ドルに到達しました。預金金利だけで年間4億ドル以上も負担するのには、それなりの訳があるはずです。
銀行が利益を出す仕組みは簡単です。調達した資金を企業へ貸し出して、金利の差額で利益を確保します。調達金利よりも貸出金利が高ければ利益が得られる。実に簡単です。
もちろん、銀行業務は貸し出しだけではなく、他にも収益ポイントはありますが、あくまでわかりやすくするため、話をシンプルにしています。
2024年1月現在、アメリカの公定歩合は5.5%と非常に高い水準になっています。企業が銀行から資金調達をする際には、公定歩合よりも高いレートを負担する必要があります。その上で借入金利を上回る事業利益を出して、返済に当てることになります。
さてAppleは、利益率24%を叩き出す超がつく優良企業です。「Apple 銀行」が預金者から集める資金は調達金利が4.15%で、これは公定歩合よりも「遥かに安い」レートです。
こうして有利な資金を集め、Appleの事業に投資すれば24%の利益を生み出してくれます。市中銀行から資金を調達するよりは、遥かに有利に事業を拡大・運営することが可能となります。
Appleがクレカや銀行などの金融部門に取り組んでいる理由の一つは「ユーザーの囲い込み」であり、二つ目は「有利な資金調達」であると考えられます。
ゴールドマン・サックスとの提携がどうなるのか?Apple 銀行の高金利は今後も継続するのか?など不透明な部分はありますが、ユーザーにとっては今のところ、メリットしかありません。*注2
日本上陸の可能性について
高金利の「Apple 銀行」と、お得機能だらけの「Apple Card」。どちらも日本への上陸が待たれており、多くのAppleユーザーが期待するところです。しかし、現在のところ何のアナウンスもありません。2019年の初登場からすでに4年も経過しているというのに。
Appleはデバイスにしろ、サービスにしろ米国内で先行リリースされ、数ヶ月程度の遅れで世界展開することが普通でした。なぜ「Apple Card」はいまだに米国内だけでの運営になっているのでしょうか。
「Apple Card」が日本に来るかどうかについては、3つのポイントがあります。
一つ目はAppleにとってメリットがあるかどうか。もう一つは、日本国内でゴールドマン・サックスのような提携先を見つけることができるかどうか。最後は、米国内と異なる日本の規制などをクリアできるかどうかです。
Appleにとって「Apple Card」は、ユーザーの囲い込みや増加が目的です。日本はすでにiPhoneのシェアが十分に高く、ユーザー拡大へ特別なテコ入れは必要ないでしょう。
またデバイスの購入形態もApple Storeなどより、キャリアで契約し月額料金と一緒に支払いをするケースが多いため、「Apple Card」のメリットは少ないかもしれません。
また、ゴールドマン・サックスの例を見ると日本国内で提携する金融機関は、かなりの損失を覚悟しなくてはいけません。果たしてこうした初期の損失を上回るメリットを予想できる提携先があるのでしょうか?
さらに、日本の金融ルールや独自の商習慣をうまくクリアして、米国内並にサービスの質を確保できるのでしょうか。
もろもろ考えると、日本国内での「Apple Card」や「Apple 銀行」の展開については、現状「あまり期待できない」ように思えます。もちろん、本稿で分析した以外のメリットやAppleの戦略によって結論は変わりますが、現状何のアナウンスもされてないところを見ると、すぐに上陸することはなさそうです。*注3
【まとめ】
「Apple Card」が初登場した当初、他のプロダクトやサービス同様「いずれ日本にも展開するはず」と漠然と思っていました。しかし、登場から4年経っても一向にその気配はありません。その理由を少し詳しく分析し、本稿にまとめてみました。
憧れのチタン製「Apple Card」を手にする日はまだ先になりそうです。
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■参考文献
注1
Apple 「Apple Cardのセキュリティ」
https://support.apple.com/ja-jp/guide/security/secb29b74e98/web
「iPhoneでApple Cardを設定する/使用する(米国のみ)」
https://support.apple.com/ja-jp/guide/iphone/iph8f6edb8bc/ios
イーデス 「Apple Card(アップルカード)は日本で使える?概要や注意点を解説」
https://www.a-tm.co.jp/top/creditcard/creditcard-osusume/service-applecard/
PeX 「Apple Cardの日本上陸はいつ?カードの特長や申し込みの仕方も徹底解説!」
https://pex.jp/creditcard/news/430
クレジットカードの知恵袋 「Apple Card(アップルカード)は2023年に日本上陸?現状や特徴を紹介」
https://coetas.jp/creditcard/apple-card/注2
外貨どっとコム 「米国政策金利の推移」
https://www.gaitame.com/markets/seisakukinri/newyork.html
Money Geek 「金利4%超のアップル銀行とアップルカードはいつ日本に?口座開設方法や仕組みを解説」
https://www.nc-card.co.jp/media/column/apple-card-savings/PreBell 「アップル銀行は金利4%以上!日本への上陸予定や詳細について解説」
https://prebell.so-net.ne.jp/feature/pre_23110902.html
GIZMODO 「赤字10億ドル超。ゴールドマン・サックスがApple Cardとの提携解消を検討」
https://www.gizmodo.jp/2023/07/goldman-sachs-apple-card.html
週間プレNEWS 「本当に「アップル銀行」は日本に上陸するのか!?」
https://wpb.shueisha.co.jp/news/economy/2023/05/10/119351/
日経XTECH 「Apple Cardにみる、Appleと金融業界のビジネスの温度差」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01113/100300035/
ASCII.jp×iPhone/Mac 「アップルのクレジットカード、日本上陸前に終了するかも?」
https://ascii.jp/elem/000/004/173/4173732/
注3
iPhone Mania 「iPhone/iOSがトップシェアの国はどこ?~日本のシェアは70%近く」