AIによるスプレッドシートサポート機能「Google Enhanced Smart Fill」とは
数式やスクリプトなど、表計算を効率的に使うためのツールは豊富に存在します。しかし、数値で分類できるようなケースとは異なり、人間の微妙な判断を伴う処理はなかなかうまく自動化することができないものです。
日頃、日常的に判断が必要となるような業務をしているユーザーにとって、嬉しい機能がGoogleから提供されました。それがAIによる入力サポート機能「Enhanced Smart Fil」です。
この記事でわかること
・「Google Enhanced Smart Fill」の概要
・具体的な利用方法について
・Excelとの比較
「Google Enhanced Smart Fill」の概要
以前、業務用表計算といえばExcelしか選択肢はありませんでした。しかし、Googleが提供するブラウザベースの「スプレッドシート」の登場で、その勢力図も変化しつつあります。
スプレッドシートは個人なら無料で利用ができ、自動で最新の状態にアップデートしてくれます。パッケージソフトしかない時代からすると、まるで夢のようなツールです。
Googleのスプレッドシートは、年々進化を続けています。Excelにはない機能なども搭載されており、一般的な業務レベルであれば十分に有用です。
さらに2020年には「Smart Fill」機能が追加されており、今回の「Enhanced Smart Fil」はそれを進化させたものと言えるでしょう。
「Smart Fill」は、ユーザーがやろうとしていることを理解してサポートする機能です。例えば、A列に「氏名」が入力されており、ユーザーがB列に苗字を、C列に名前を手入力するとします。
AIはユーザーが何をしようとしているのかを理解し、それ以降の入力をサジェッションしてくれます。ユーザーは、AIの提案を受け取るだけで作業が完了します。
表計算に少し詳しい人なら「氏名をスペースの前後で分割する」数式をすぐに思いつくでしょう。しかし重要な点は、この機能をうまく使えば、表計算や数式に詳しくない人でも、スピーディかつ確実に作業を進めることができるという事です。
もう「仕事に使える便利数式30選」のようなノウハウ本を読む必要はありません。
今回新たに発表された「Enhanced Smart Fill」では、定型的な処理をサポートするだけでなく、セル内に入力された文字列の意味を判断する機能が実現されています。
Googleが例として紹介しているケースには次のようなものがあります。
飲食店のレビューがB列に記入されています。それぞれに対して、星1から星5までのレーティングをつけていく作業をおこないます。ユーザーはレビューの内容を読み、5段階でどの程度の評価になるのかを判断して、C列に記入していきます。
例えば「私のお気に入りのスポット」というレビューは、非常に好意的だと判断し「星5」とします。「このレストランは値段ほどではありません。料理の味はまあまあでした」というレビューに対しては、良くないものの味については一定の評価があるとして「星2」と判断します。
「セルに入力されているレビューの意味を理解した上で、5段階評価をつけていく。」という高度な判断を伴う作業は、以前なら人間だけができるはずの作業でしたが、自然言語を理解するAIの登場により、コンピューターでも可能な領域となりました。
デモ画面では、わずか4行程度の入力をするだけで、そこから後の評価を提案してくれます。レビューの文章に同じものは一つもなく、人間が判断した事例もわずか4例です。
しかしAIは、ユーザーが何を見て、どんな事をしようとしているのかを理解し、レビューの文章に基づいてレーティングを判断することができるのです。
「氏名を2つに分割する」といった単純作業とは明らかにステージが異なります。単純作業や繰り返し作業を自動化するだけでなく、それなりの時間と労力を必要とする「細かな判断」までAIが肩代わりするのです。
どうやら真の意味で、AIが私たちの強力なアシスタントとして活躍する時代が来たようです。
ただし、「Enhanced Smart Fill」を利用できるのは、「Duet AI for Google Workspace Enterprise」アドオンのユーザーに限られています。*注1
Google Enhanced Smart Fillの具体的な利用方法
例えば、「営業担当者が見込み顧客のリストを作成し、今後のアクションについて計画していく場面」を考えてみましょう。
A列には顧客情報(氏名・メールアドレスなど)、顧客のステータス(見込み客か既存顧客化など)、次のアクション予定などが記入されています。
営業担当者が、見込み顧客リストに覚書を書き込んでいる状態ですが、このままでは情報が整理されていないので、B列には「次のアクション」を書いていきます。
「自社製品に対して明確に興味を持っている顧客に対しては、フォローアップメールを送る」。ある顧客には「来週ミーティングを設定する」。すでに取引が完了している顧客には「請求書を送る」などなど。
A列の覚書を見ながら手作業で次のアクションを抽出し、B列にリスト化していきます。
「面倒だな、、、」と心の中で呟きながらいくつかのアクションを記入していると、あら不思議、AIがそれ以降の全てのアクションを「こんな感じでどうですか?」と提案してきます。
眺めてみると概ねOKであり、ダイアログに表示されたチェックマークをクリックするだけで、全てのアクションが完成しました。
これがGoogleが紹介している「Enhanced Smart Fil」の事例です。
みなさんの中にも、日常的にこのようなリスト作成をしている方は多いのではないでしょうか。
会社のIT担当者からは、「一つのセルに情報を詰め込まないで」とか「氏名、住所、郵便番号、電話、メールアドレスは別のセルに」「苗字と名前の間は全角スペースを入れること」などなど、うるさく注意されているかもしれません。
しかし「Enhanced Smart Fil」が使えれば、そんな些細なことはもう気にしなくても良くなります。
さらに営業担当者の次の作業としては、それぞれの顧客に対しフォローアップメールや、お礼のメールなどを準備したいところです。そのメールの書き出し文も「Enhanced Smart Fil」が作ってくれます。
Googleは、寄付をもらった団体が相手に対しメールを出すケースを例として挙げています。営業担当者が使えば、先ほどのアクションリスト作成からメール送信の準備まで、一連の作業がシームレスに完了します。もう残業しなくてもいいかもしれません。
Excelと比べて実力はどの程度なのか
日本企業では、Excelが事実上のスタンダードでしょう。マイクロソフトも「Copilot」というAI機能を開発し、オフィス製品に実装しています。気になるのは「Enhanced Smart Fil」と比べてどの程度なの?というところでしょう。
「Copilot」にできることは、主に次のようなものです。
・データをグラフにする
・データからピボットテーブルを作成する
・特定のデータだけ強調表示する
などなど、「提携処理を自動化する」段階までです。セルの中の文章を解析し、理解した上でユーザーのやりたいことを予想して提案するまではできません。
「Copilot」は、Open AIが開発した「Chat GPT」のように、ユーザーとプロンプトを介して対話しながら、効率的に作業を進めることができる機能がメインです。そのため、ユーザーからの指示がなければ動きません。
「Enhanced Smart Fil」とはサポートする機能が異なるということなのですが、一歩遅れているように感じられます。
もちろん、「Copilot」も現時点で進化が停止する訳ではありませんので、「Enhanced Smart Fil」に近い機能を実装することになるでしょう。
AIの進化は驚くほど早く、新しいツールや機能が実用化されるたびに、私たちを驚かせてきました。おそらく10年後の人から見ると、今の私たちがやっていることは「無駄が多く、効率が悪い作業」に思えるのではないでしょうか。「そんなの、AIに任せればいいのに」と。*注2
【まとめ】
この記事の執筆段階である2024年2月には、Open AI社から本物かと見紛うほどのクオリティを実現したText to Videoモデル「Sora」が発表されました。一般にも広く報道され、その動画はAIの進化を私たちに強く印象付けました。
もしかしたら私たちは、羅針盤や火薬の発明、産業革命、ルネッサンスなどと同じぐらい、人類の歴史の転換点の一つに立ち会っているのかもしれません。
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■参考文献
注1
ZD NET 「「Googleスプレッドシート」、AI自動入力の進化版「Enhanced Smart Fill」が登場」
https://japan.zdnet.com/article/35212210/
どんとこい!Google Workspace 「Google Sheetsのデータ入力がAIを利用して更に進化しました」
https://www.dontokoiapps.com/information/google-sheets%E3%81%AE%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF%E5%85%A5%E5%8A%9B%E3%81%8Cai%E3%82%92%E5%88%A9%E7%94%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E6%9B%B4%E3%81%AB%E9%80%B2%E5%8C%96%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9FGoogle Workspaceアップデート
「Google スプレッドシートの自動データ入力の次の進化」
注2
PC Watch 「WordやExcelをAIで自動処理可能に。「Copilot Pro」はこうやって使えばいい!」
https://pc.watch.impress.co.jp/docs/topic/feature/1562014.html