初心者向け|Autodesk Vaultの類似モデル検索(重複検索機能)で設計を効率化する方法
1. はじめに
設計作業を進める中で、過去に作った部品と同じものを知らずに再設計してしまい、時間やコストを無駄にしてしまうケースは少なくありません。こうした問題を防ぐのに役立つのが、Autodesk Vault Professional に搭載されている「重複検索(Duplicate Search)」機能です。この機能を使えば、Inventor のモデル形状を比較して同一形状の部品を自動検出し、再利用できます。
Vault は 設計データを一元管理する PDM(製品データ管理システム) であり、バージョン管理や検索機能を通じて、設計プロセスを効率化するための基盤を提供します。しかし、初めて触れる方にとっては「どうやってデータを探せばいいのか」「類似モデル検索でどんなメリットがあるのか」といった疑問を感じる場面も多いでしょう。
本記事では、Vault の基本から Duplicate Search の使い方までを、初心者でも理解しやすい言葉で解説します。さらに、検索精度を高めるコツや設計リスクを減らす工夫、実務に役立つヒントもご紹介します。Vault を活用することで、設計チーム全体でのデータ共有がスムーズになり、時間短縮・コスト削減・品質向上を同時に実現できます。
この記事を通じて、Vault を使った効率的な設計データ管理の第一歩を踏み出していただければ幸いです。
2. Autodesk Vaultとは?

引用:https://www.autodesk.com/jp/products/vault/overview
2.1. Vaultの基本概要と機能
Autodesk Vault は、3D CADソフトやその他の設計データをまとめて管理できる PDM(製品データ管理システム) です。Vault を導入すると、プロジェクトごとに膨大に発生する設計ファイルを整理・保管しやすくなり、必要な情報をすぐに取り出せる環境をつくることができます。
具体的には、設計図面や3Dモデル、部品リストなどを一括して保存し、さらにバージョン管理によって変更履歴を追跡できます。バージョン管理とは、過去の状態を記録しておき、設計ミスがあった場合や以前のデータに戻したいときに役立つ仕組みです。
また、Vault には検索機能が充実しており、必要なデータを探す手間を大幅に削減できます。部品名やキーワードを入力するだけで対象のモデルを素早く抽出できるため、CADソフトに不慣れな初心者でもスムーズに操作できます。これにより、設計時間の短縮やコスト削減につながるのです。
2.2. 設計プロセスにおけるVaultの役割
Vault を導入すると、企業やチームの設計プロセスが大きく変化します。特に複数の設計者が同じプロジェクトで作業する場合、Vault を利用すれば「誰がどの段階でどのファイルを編集しているのか」が明確になり、作業の重複や混乱を防げます。
さらに、設計データを一元的に管理できるため、過去に作成したモデルをすぐに見つけて再利用できるのも大きな利点です。これによって、無駄な再設計を減らし、効率的なプロジェクト運営とコスト削減を同時に実現できます。特に複数の案件を並行して進める現場では、Vault の存在感が一層高まります。
こうした仕組みによって、Vault は設計チーム全体の「情報共有基盤」として機能します。必要なときに必要なファイルへアクセスできる環境をつくり出すことで、余計な確認作業を減らし、プロジェクト全体の進行をスムーズにするのです。
2.3. 初心者が知っておくべきVaultの利用ポイント
Vault を初めて使うときには、まず基本操作に慣れることが大切です。たとえば、データのアップロード手順やユーザー権限の設定方法を正しく理解しておきましょう。ファイルを誤って上書きしたり、権限を誤設定すると、設計リスクが高まってしまうため注意が必要です。
次に、Vault は単なるファイル置き場ではなく、検索機能の強力さが大きな特徴であることを意識しましょう。通常のキーワード検索や属性検索を工夫すれば、欲しいデータを素早く見つけられます。一方で、「類似モデル検索(重複検索)」は形状を比較する専用機能であり、キーワード入力は不要です。初心者の方は、最初からファイル名や属性情報を整理してアップロードしておくことで、後々の検索効率を大幅に高められます。
最後に、Vault を効果的に運用するためにはチーム全体の協力が欠かせません。作業ルールを共有し、データ管理や設計ノウハウの共有を仕組みとして整えることで、トラブルを防ぎつつ、設計業務全体の効率化を実現できるでしょう。
3. 類似モデル検索の重要性
3.1. 時間とコストの削減
類似モデル検索(重複検索)は、Inventor のモデル形状を比較し、同一ジオメトリを持つ部品を検出する機能です。これにより既存部品を再利用でき、新規にゼロから設計する必要がなくなるケースが増えます。その結果、設計にかかる時間を大幅に短縮できるのが大きな特徴です。
たとえば、Duplicate Search で同一形状の部品を発見し、それをベースに寸法だけを変更すれば、新しい設計に素早く対応できます。このプロセスによって試作や図面作成の手間を削減でき、プロジェクト全体の設計コスト削減にも直結します。
こうした効率化が積み重なれば、単にコストを抑えるだけでなく、製品を市場に投入するまでのスピードを上げ、結果として競争力の強化にもつながります。
3.2. 設計品質の向上
類似モデル検索を活用すると、過去に高評価を得た設計や熟練設計者が作成したモデルから知識を取り入れることができます。これは設計品質を高めるうえで重要な要素です。
具体的には、実際の製品テストで良好な結果が得られた形状や材料選定を参照できるため、新規開発においてもその優れた要素を流用できます。このように成功事例を積極的に取り入れることは、デザインの最適化にも直結します。
さらに既存設計の弱点や課題も見極めやすくなるため、改善を繰り返すことで品質を一段と高め、リスク軽減にもつながります。
3.3. 設計リスクの軽減
新しい設計を一から考える場合、予想外の不具合や欠陥が潜む可能性があります。しかし、類似モデル検索を使って過去に検証済みのモデルを参照すれば、すでに明らかになっている失敗を避けられます。
たとえば、部品の強度や材料の組み合わせに関する過去のトラブル事例を把握しておけば、同じ問題を繰り返さずに済みます。その結果、再設計や修正に時間を取られるリスクを減らし、誰もが安全で安定した設計プロセスを構築できます。
こうしてプロジェクト全体のリスクをコントロールすることで、設計チームは品質とスピードを両立させながら成果を出せるようになります。
4. 類似モデル検索の手順
4.1. 検索前の準備
まずは Vault 上のデータを整理することが大切です。モデルファイルの名称ルールを統一し、メタデータ(部品番号・材質・用途・作成者・更新日など)を抜け漏れなく入力しておくと、後工程の検索や選定が格段に楽になります。こうした“下ごしらえ”が、のちの類似モデル検索で候補を素早く見極める土台になります。
次に、Vault の設定やアクセス権が適切かを点検します。とくに複数メンバーで同時作業している場合は、編集権限やチェックイン/チェックアウトの運用が曖昧だと重複データが発生しやすく、検索結果の信頼性も低下します。チームでルールを共有し、権限設計を整えておきましょう。
最後に、Duplicate Search を使うには管理者が Vault Client で[重複検索の設定]を有効化し、対象フォルダを指定してインデックスを作成しておく必要があります。これが未設定だと結果は返りません。また、機能を無効化すると既存インデックスは削除されるため、再度有効化した際は再インデックスが必要です。定期的に対象フォルダやインデックスの状態を見直しておくと、安定して検索できる環境を保てます。
4.2. モデルのアップロードとキーワード設定
重複検索は Inventor から実行します。対象のパーツまたはアセンブリを開き、[Vault]タブ → [Find Duplicates] をクリックすると、Vault に登録済みのデータと幾何(ジオメトリ)を比較し、同一形状の部品が一覧表示されます。結果パネルからは、該当部品の置換、アセンブリへの配置、関連情報の詳細表示などが行えます。さらに、分析結果のレポート出力は Vault Client の[Duplicates Dashboard] から実行でき、Excel/PDF/Word 形式にエクスポート可能です。
なお、キーワード検索は Duplicate Search と無関係です。Duplicate Search は形状そのものを比較するため、ファイル名や命名規則・タグの工夫は結果に影響しません。キーワードや属性を使った検索は通常検索のテクニックとして活用し、まず候補範囲を絞り込んでから最後に Duplicate Search で“同一形状”を確定する、という使い分けが効率的です。保存済み検索(Saved Searches)と併用すると、日常運用がさらにスムーズになります。
4.3. 検索結果のフィルタリングと評価
Duplicate Search の結果画面では、[Set Filters] と [Advanced Filters] を使って絞り込みができます。たとえば 「同材質のみ」、「ミラー形状を含める」、「完全一致のみ(Exact match)」 といった条件で結果を制御でき、Advanced Filters では材質・作成日・設計者名・プロジェクト名などの任意プロパティを条件に追加できます。これらを適切に組み合わせることで、膨大な候補から本当に再利用価値の高いモデルだけを効率よく抽出できます。
抽出後は、候補モデルを実際に開いて構造や主要寸法、ボディ数、機構の違いを確認し、再利用可否を総合判断します。図面や要件との適合性(強度・材質・調達可否・公差・製造条件)も併せてチェックしましょう。必要であれば、プロパティに備考や承認ステータスを追記してチームに共有すると、後続の設計やレビューが円滑になります。こうした丁寧な評価プロセスを踏むことで、後の手戻りやリスク発生を最小化でき、設計全体のスピードと品質を両立できます。
5. 実践的なヒントとテクニック

5.1. キーワードの効果的な使用法
キーワード設定は、Vault の通常検索機能で大きな効果を発揮します。類似モデル検索(重複検索)は形状比較に基づくためキーワード入力は不要ですが、事前に属性や部品番号で候補を絞り込み、その後 Duplicate Search で同一形状を確定するという組み合わせが効率的です。
まずは「製品名」「部品名」といった基本的なワードを押さえましょう。そのうえで、設計品質の向上を狙うなら、部品の特性や用途を表すキーワードを追加するのが効果的です。たとえばエンジン関連なら「ピストン」「シリンダ」「燃焼」「トルク」といった語を掛け合わせると、検索結果の精度が高まります。
さらに、チーム全体でキーワード辞書やテンプレートを共有しておくと、検索のばらつきが減り、設計知識の共有にも役立ちます。これにより、誰でも効率的に必要なデータにたどり着ける環境を作れます。
5.2. 検索範囲の調整方法
Vault には、検索範囲を細かく調整できる機能があります。大量のデータを一度に対象とするよりも、プロジェクト単位・作成時期・担当者別に範囲を絞った方が効率的で、検索時間も短縮できます。
たとえば、過去 1 年以内に作成されたファイルだけを対象にすれば、古いモデルが混ざりにくくなり、解決までの時間を短縮できます。また、新製品の開発チームであれば、現行プロジェクトのフォルダを対象にすることで、すぐに必要なモデルを取り出せます。
一方で、網羅的に調べたい場合は「全社共通ライブラリ」を範囲に指定し、候補を幅広く収集したうえでフィルタリング機能を使って絞り込むのが有効です。状況に応じて範囲を柔軟に調整することが、Vault 検索を使いこなすポイントです。
5.3. 検索履歴の活用法
Vault には 保存済み検索(Saved Searches) 機能があり、よく使う検索条件を登録して再利用できます。これにより、繰り返し同じ条件で検索でき、通常検索と Duplicate Search を組み合わせた運用がスムーズになります。
加えて、検索履歴を分析すれば「なぜ結果が少なかったのか」「検索に時間がかかったのはどの条件か」といった改善点を洗い出すことが可能です。こうした分析を積み重ねることで、チーム内での検索精度が高まり、Vault を単なるデータ管理ツールから強力な設計支援ツールへと進化させることができます。
6. 一般的な問題とその解決策
6.1. 検索結果が少ない場合の対処法
類似モデル検索(重複検索)は、完全に一致するジオメトリのみを検出する仕組みです。そのため、形状が一部だけ似ているモデルや寸法がわずかに異なるモデルはヒットしません。ヒット件数がゼロであっても、それは仕様上の正常な動作であり、現時点では近似形状をしきい値で判定する機能は提供されていません。
結果が得られないときに考えられる原因としては、①対象フォルダが重複検索の範囲に含まれていない、②インデックスが未作成または削除されている、③Inventor のパーツにソリッドボディが存在しない、④ボディ数が異なる、などが挙げられます。
なお、Duplicate Search はあくまで形状の完全一致を判定する機能であるため、キーワードを広げても結果には影響しません。ヒットがゼロの場合は、まずインデックスの状態や対象フォルダの設定を確認することが解決への第一歩です。
6.2. 検索に時間がかかる場合の対処法
Vault に膨大なデータが蓄積されている環境では、検索時間が長くなることがあります。こうした場合には、検索開始時に条件を適切に絞り込む工夫が効果的です。
たとえば、部品サイズや作成日、プロジェクト名といったメタデータキーを利用して段階的に範囲を狭めると、結果の抽出がスムーズになります。また、ネットワークの速度が遅い場合は、アクセスが集中する時間帯を避けて検索するか、通信環境そのものを改善することも有効です。
それでも改善が見られない場合は、Vault のデータベース設定やサーバー性能を専門家に確認してもらいましょう。必要に応じてハードウェアのリソース増強やソフトウェアの最適化を行うことで、検索時間短縮につながります。
6.3. 不正確な検索結果への対応
Duplicate Search は幾何形状に基づいて判定するため、基本的には無関係なモデルが混ざることはありません。一方で、通常のキーワード検索では命名規則やキーワードの設定方法が結果に大きく影響します。
もし Duplicate Search で期待した結果が得られない場合は、まず[Set Filters]や[Advanced Filters]の設定条件を見直してください。材質や完全一致条件、ミラー形状の扱いなどを適切に調整することで、必要な結果を効率よく抽出できるようになります。
7. まとめ:類似モデル検索の全体的なメリット
本記事では、Autodesk Vault を活用した類似モデル検索(重複検索)の手順やメリットについて解説しました。Vault のデータ管理機能は、初心者であっても使い方に慣れていくことで真価を発揮し、設計時間の短縮やコスト削減といったプロジェクト全体の効率化に直結します。
さらに、過去の成功設計や熟練者の知識を再利用することで、設計品質を安定して高められ、リスクを減らすことも可能です。加えて、Vault を通じてデータを共有することで、チーム内のコミュニケーションが円滑になり、プロジェクト管理そのものも大幅に改善されます。これらの効果は積み重なることで、組織のデジタルトランスフォーメーション推進にも寄与するでしょう。
重要なのは、検索の工夫やフィルタリング、履歴の活用といった日常的なテクニックを少しずつ磨き続けることです。そうすることで、Vault の PDM システムとしての力と Inventor 連携による Duplicate Search 機能を最大限に引き出し、設計資産を余すことなく活用できます。
自社独自のルールやチームの知見を取り入れながら Vault を運用すれば、モデル再利用とデザイン最適化を両立でき、より効率的で質の高い設計プロセスを実現できるはずです。
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<参考文献>
Autodesk Vault | Vault 2026 の価格と購入
https://www.autodesk.com/jp/products/vault/overview
Vault 2025 ヘルプ | Autodesk