Autodesk Fusion初心者向け|図面にはめあい記号を入れる基本と使い方
1. はじめに
Autodesk Fusion(以下、Fusion)で設計を始めると、3Dモデルの作成だけでなく、2D図面の仕上げも欠かせません。その中でも初心者が戸惑いやすいのが「はめあい記号」です。
はめあい記号は、穴と軸などの部品がどの程度の精度で組み合うかを示す大切な情報で、製造や組み立てに直結します。これを正しく理解して図面に反映できれば、設計意図が相手に伝わりやすくなり、加工や検査もスムーズに進みます。
本記事では、Fusion初心者を対象に、はめあい記号の基礎知識から図面への設定方法までをわかりやすく解説します。さらに、代表的な使用例も交えながら、設計効率や品質向上につながるポイントを紹介します。
この記事を読み終えるころには、Fusionの図面作成で迷わずはめあい記号を使いこなし、組み立て図面や製造指示書へ正しく反映できるようになるでしょう。
2. Fusionとはめあい記号の基本
Fusionは、3Dモデリングから2D図面作成までを一貫して行える統合型ソフトウェアです。CAD(キャド)とCAM(キャム)の機能が組み込まれているため、設計から加工・製造までのプロセスを効率的に進められるのが特徴です。その中で「はめあい記号」は図面機能の一部として、部品同士をどのように組み合わせるのかを明確に示す役割を果たします。
部品の接合状態が適切であれば、完成品の品質は安定しやすくなり、追加の修正や後処理の手間も少なくて済みます。つまり、はめあい記号は図面上で設計意図を正確に伝えるために欠かせない要素といえるのです。
2.1. はめあい記号の重要性と基本的な役割
はめあい記号は、穴と軸などの寸法の組み合わせから生じる「すきま」や「しまり」の程度を明示するために使われます。たとえば、シャフトを軽く回転できるようにするのか、あるいはガタつきなく固定するのか、といった設計上の意図を図面に反映するのです。
これらの記号は ISO や JIS で標準化されており、「H7/h6」や「H7/g6」といった形で、穴側と軸側それぞれの公差等級を組み合わせて表現します。これにより、加工担当者や検査担当者は必要な精度を正しく理解できます。
はめあい記号を適切に用いることで、図面を受け取る側に誤解が生じにくくなり、設計から製造までの流れをスムーズに進められます。基礎段階から寸法はめあいの意味をしっかり押さえておくことが、実務での不具合防止に直結するのです。
2.2. はめあい記号の種類とその意味
はめあい記号は大きく「すきまばめ」「移行ばめ」「しまりばめ」の3種類に分類されます。
- すきまばめ(例:H7/h6):軸が穴より小さく、必ずすきまが生じる状態。ベアリングの回転軸など、滑らかな動きを求める部分に使われます。
- 移行ばめ(例:H7/g6):寸法誤差によってすきまにもなり、しまりにもなる状態。精密な位置決めが必要な部品に適しています。
- しまりばめ(例:H7/p6):軸が穴より大きく、強固に固定される状態。プレス嵌めやギアとシャフトの結合などに利用されます。
Fusionには、これらのはめあい記号を自動生成する機能はありません。しかし、寸法に公差を設定し、必要に応じて「H7/h6」などの記号をテキストとして追記することで、図面に正しく反映させることが可能です。
3. Fusionでのはめあい記号の追加と操作
Fusionの図面作成機能は、2D図面と3Dモデルが常にリンクしているのが大きな特徴です。モデルを修正すると、図面側で[更新](ビューの更新)を行うことで変更内容を反映でき、設計ミスが広がるのを防ぐことができます。
ここでは実務的な観点から、はめあい記号を図面に追加する方法や基本的な操作手順を解説します。まず図面作成画面にどのようなツールがあるかを把握し、その上で効率よく記号を扱うコツを押さえておくと、作業をスムーズに進められます。
3.1. 図面作成画面のツールとパネル概要
Fusionの図面作成画面には、多数のツールボタンやパネルが配置されています。左側には「ブラウザ」と呼ばれる構造リストがあり、ここで図面に含まれるビューや寸法、アノテーションの一覧を確認できます。
上部のツールバーからは寸法や注記を追加できますが、はめあいの指定には専用アイコンはなく、配置済みの寸法をダブルクリックして[Tolerance](公差)を設定する方式を使います。必要に応じて寸法テキストに「H7/h6」などの記号を追記する形で表現します。なお、記号の色やアイコンサイズなどを変更するオプションは用意されていません。
もし目的のツールが見つからない場合は、環境設定からインターフェースをカスタマイズし、表示・非表示を調整することで、自分に合った作業レイアウトを整えることが可能です。
3.2. はめあい記号の追加方法
はめあい記号を図面に反映させるには、既存の寸法に公差を設定し、必要に応じて記号を手入力で追記する方法を用います。手順は以下の通りです。
- 図面ビューを作成し、対象となる穴や軸の寸法を配置する。
- 寸法をダブルクリックすると、プロパティパネルに[Tolerance](公差)の項目が表示される。
- Deviation(偏差公差)や Limits(上下限公差)を選択し、公差値を入力する。
- 「H7/h6」などの記号を自動で付与する機能はないため、必要に応じて寸法テキストへ手動で追記する。
FusionではASMEまたはISO規格を基準とした図面を作成できますが、JIS規格に基づくはめあい記号を完全に自動生成する機能は搭載されていません。そのため、公差数値で管理しつつ記号を補助的に追加するのが一般的です。
3.3. 基本操作:配置、種類変更、属性設定
はめあいを設定する際は、図面全体の見やすさを保つことが重要です。他の寸法や注記との間隔を意識しないと、図面がごちゃごちゃして設計意図が伝わりにくくなります。
公差の種類や値を変更する場合は、配置済みの寸法を選択し、[Tolerance]からDeviation/Limitsなどのタイプや数値を切り替えます。必要に応じて寸法テキスト内の「H7/h6」などの表記を編集することも可能です。
また、属性設定では公差幅やしまり・すきまの大きさを指定できるため、製造現場での検査基準を明確に示せます。こうした設定を正確に行うことで、製品の精度を高め、不具合発生のリスクを減らすことができます。
4. 具体的なはめあい記号の使用例
このセクションでは、Fusionでよく使われる代表的なはめあい記号を取り上げ、その活用例や注意点を解説します。H7/h6・H7/g6・H7/p6といった代表的な等級を例にしながら、どのような状況でどのはめあいを選択するのが適切かをイメージできるように整理していきます。
また、複雑な組立図面で多くの部品が関わる場合には、はめあい記号の指定が特に重要になります。配置を工夫し、見やすいレイアウトで記号を追加することで、作業者の混乱を防ぎ、誤解のない設計情報を伝えることができます。
4.1. すきまばめ(H7/h6 など)の具体例
代表的なすきまばめの例は次のとおりです。
- H7/h6(すきまばめ):ベアリングの回転軸など、スムーズな回転を確保したい部分に利用されます。
- H7/g6(移行ばめ):位置決めを重視する部品同士に使われ、組立の際に軽い圧力を必要とする場合があります。
- H7/p6(しまりばめ):モーターのシャフトとギアのように、しっかりと固定する必要がある部位で使用されます。
これらを図面に指定することで、製造者は求められる加工精度や組立方法を明確に把握できます。Fusionでは数値公差で管理し、必要に応じて記号を補足的に記入する形が一般的です。
また、複数の部品に同じ条件(例:H7/h6)を繰り返し適用する場合は、既存の寸法で設定した[Tolerance]を複製し、寸法テキストの記号もコピーすることで、効率的に指示を追加できます。
4.2. 移行ばめ(H7/g6 など)の具体例
移行ばめは、位置決め精度を確保しつつ、組立時の作業性も求められる場面に用いられます。代表例としては、ピンとブッシュの結合やベアリング外輪の軽圧入があります。
このばめは寸法誤差によってすきまばめになる場合もあれば、しまりばめになる場合もあるため、事前に許容範囲を定義しておくことが欠かせません。図面上では該当寸法にDeviationやLimitsを設定し、必要に応じて「H7/g6」と寸法テキストに明記することで、製造側に明確な基準を伝えられます。
4.3. しまりばめ(H7/p6 など)の具体例
しまりばめは、強固な固定が求められる部品に使用されます。たとえば、ギアとシャフトの圧入やプーリの取り付けといった場面です。
組立時には加熱やプレス加工を必要とする場合が多く、干渉が強すぎると部品の割れや変形につながる恐れもあります。そのため、IT等級(精級)の選定や温度条件を考慮することが重要です。図面では対象寸法に上下限公差を設定し、必要に応じて「H7/p6」を寸法テキストに追記して明示します。
4.4. 複雑な組み立て図面での応用例
多くの部品を組み合わせる組立図面では、寸法はめあい(しまり/すきま)と幾何公差(方向・位置精度)を適切に役割分担して使う必要があります。寸法はめあいは穴と軸の嵌合状態を規定し、平行度や直角度といった方向の精度はFeature Control Frameを用いて別途指示します。
大型の機械では、**寸法はめあい(H7/h6 など)と幾何公差(平行度・直角度・角度など)**が同時に登場することが一般的です。両者は役割が異なるため、混同せずに明確に区別することが求められます。
- 寸法はめあい:穴と軸のしまりやすきまを規定
- 幾何公差:面や軸の方向・位置の精度を規定
Fusionでは幾何公差をFeature Control Frameで指示できます。特に複雑な組立では、3Dモデル上でシミュレーションを行ったうえで、2D図面に寸法はめあいと幾何公差を適切に配置することで、図面の精度と可読性を大幅に向上させることが可能です。
5. 応用テクニックと自動化ツール

はめあい記号の基本操作を習得したら、次のステップとして高度な記号の使い分けや自動化機能を活用し、効率をさらに高める方法を検討しましょう。Fusionは定期的にアップデートされており、新しい機能や改善点が追加されるため、常に最新情報を取り入れることで活用の幅が広がります。
また、図面の最適化や外部ツールとの連携を進めることで、より実務的で専門性の高い製品設計や製造指示書の作成が可能になります。ここではそうした応用的な使い方を紹介し、実際の設計現場で役立つ具体的なヒントを提供します。
5.1. 高度なはめあい記号の種類
はめあい記号には基本的なものに加え、より厳格な精度管理を求められる等級があります。たとえば、IT6 や IT5 といった精級の公差を選ぶことで、非常に精密な加工を要求する設計にも対応できます。
ただし、等級が厳しくなるほど加工コストや時間が増加するため、設計の用途や必要な精度に応じて適切に選択することが重要です。Fusionにははめあい記号を自動生成する機能は備わっていないため、基本は数値公差の設定とテキスト追記による管理になります。高度な公差を指定する際には、外部の標準資料や社内規格を参照しながら図面に反映させるのが望ましいでしょう。
また、高度な記号は見る人によって解釈が異なる場合があるため、チーム内や製造担当者と事前に協議し、共通の理解を持っておくことが不可欠です。
5.2. Fusionの自動生成機能
Fusionにはいくつかの自動化機能が搭載されており、図面作成を効率的に進められます。代表的な例として、3Dモデルの寸法を自動で取得し2D図面に反映する機能や、モデルに変更があった際に図面寸法を再生成して最新状態に保つ仕組みがあります。
ただし、「H7/h6」などのはめあい記号を自動で付与する機能は搭載されていません。そのため、寸法の公差は[Tolerance]で設定し、記号は必要に応じて寸法テキストへ手動で追記する必要があります。
それでも、自動化による寸法反映や更新機能を活用すれば、繰り返し作業の負担を減らし、設計全体の効率を大幅に改善できます。
5.3. 他のツールとの連携と最適化
Fusionはクラウドを活用したコラボレーションに対応しており、外部ツールとのデータ連携も柔軟に行えます。たとえば、他のCADソフトで作成した部品データをインポートし、Fusionの図面上で必要なはめあい記号を追加する、といった運用も可能です。
設計図面が増えてくると、情報整理のために図面の最適化が重要になります。不要な注釈を削除したり、関連する情報をグループ化したりすることで、図面全体の可読性を高められます。これにより、社内教育用の資料やオンラインチュートリアルを作成する際にも、見やすく分かりやすいレイアウトを維持できます。
さらに、Fusionのユーザーフォーラムやコミュニティで共有されている効率化の手法を積極的に学び取り入れることで、常に最新のワークフローを活用できるようになります。
6. トラブルシューティングと問題解決
はめあい記号が正しく表示されなかったり、意図通りに動作しないと感じる場合には、いくつかの確認ポイントと対処法があります。初心者がつまずきやすい場面をあらかじめ知っておけば、作業の中断や不要な手戻りを避けやすくなります。
Fusionは定期的にアップデートされるため、新機能の追加やバグ修正の有無に注意を払い、問題が発生した際に柔軟に対応できるよう準備しておくと安心です。
6.1. よくある問題とその対処法
はめあい記号が図面上に表示されない、あるいは文字化けのように見える場合は、フォント設定や環境設定が原因である可能性があります。その際はFusionの設定画面を確認し、図面文字の言語や表示オプションを見直してください。
また、図面全体が壊れたように見えるトラブルも発生することがあります。この場合はブラウザ内でどのビューにどの要素が関連付いているかを確認し、不要なアノテーションを削除することで改善するケースが少なくありません。
さらに、ソフトが重くなって動作が遅いと感じる場合には、Fusionを一度再起動する、またはPCのリソースを解放することで改善できる可能性があります。
6.2. はめあい記号が正しく機能しない場合の解決策
「正しく機能しない」とは、設定した公差が寸法に反映されない、記号の位置がずれる、といった現象を指します。そのような場合は、まず対象寸法を確認し、[Tolerance]の設定が保存されているか、寸法テキストに「H7/h6」などの記号が正しく入力されているかをチェックしましょう。
もし公差設定に問題が見当たらない場合は、Fusionの更新情報や公式サポートページ、ユーザーフォーラムを確認し、同様の不具合が報告されていないかを調べるのも有効です。
さらに、幾何公差(平行度・直角度など)の表示に関する不具合であれば、Feature Control Frameの設定や添付対象の指定方法を見直す必要があります。どうしても解決できない場合は、オンラインチュートリアルを参照したり、公式サポートへ問い合わせたりすることで迅速な解決につなげられます。
7. まとめ
Fusionで図面を作成するうえで、はめあい記号は設計の意図を正確に伝え、製造や組立をスムーズに進めるための重要な要素です。すきまばめ(H7/h6)、移行ばめ(H7/g6)、しまりばめ(H7/p6)といった基本的な寸法はめあいを理解することから始めれば、基礎的な知識を確実に身につけられるでしょう。
一方で、幾何公差(平行度・直角度・角度など)は寸法はめあいとは役割が異なり、Feature Control Frameを用いて指示する必要があります。両者を混同せず、明確に使い分けることが、実務での信頼性を高めるポイントです。
今後は、高度なはめあい等級の使いこなしや、自動化機能の活用にも挑戦してみましょう。図面の最適化や他のツールとの連携を進めることで、より効率的で正確な設計作業が可能になります。最終的には、複雑な組立図面や製造指示書においても、はめあい記号を自在に活用できるようになり、設計者としてのスキルを大きく向上させることができるはずです。
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<参考文献>
Fusion ヘルプ | アクティビティ 1: 新しい図面を作成する | Autodesk
https://help.autodesk.com/view/fusion360/JPN/?guid=GUID-DEBC10EE-6004-4004-88D6-50C25F281A5F
Fusion – 日本語フォーラム – Autodesk Community
https://forums.autodesk.com/t5/fusion-ri-ben-yuforamu/bd-p/fusion-forum-ja