Inventorマクロ入門|繰り返し作業を自動化して設計効率を上げる方法
1. はじめに|Inventorのマクロで設計作業を自動化しよう
設計業務では、同じ操作を何度も繰り返すことが少なくありません。
たとえば、新しい図面を開くたびにファイル名を付け直したり、iPropertyへ設計者情報を入力したり、テンプレートを呼び出して保存形式を整えたり――。こうした日常的なルーチン作業に、思い当たる方も多いのではないでしょうか。
しかし、こうした手作業は時間を奪うだけでなく、入力ミスや設定漏れなどの原因にもなります。そこで活用したいのがマクロ機能です。マクロを使えば、これらの繰り返し作業を自動化し、設計効率を大幅に向上させることができます。
本記事では、Inventorマクロの基本から応用までをわかりやすく解説し、チーム全体でマクロを活用して生産性を高める方法を紹介します。作業の自動化を取り入れることで、ミスの削減・納期短縮・標準化の推進など、設計現場に多くのメリットをもたらすはずです。
それでは、Inventorでマクロを使いこなすための基礎から、応用例、トラブル対処まで順に見ていきましょう。
2. Inventorマクロとは?基本概念とできること
Inventorマクロとは、VBA(Visual Basic for Applications) を使ってInventorの操作を自動化するためのスクリプトです。Microsoft Office製品と同様に、アプリケーション内部で行う操作をプログラムとして実行できるため、繰り返し作業を効率化し、設計時間を大幅に短縮できます。
マクロを利用すれば、図面の自動更新、iPropertyへの自動入力、ファイルの自動保存など、日常的な処理をまとめて実行できます。さらに、Excelの寸法値を読み込んでパラメータを変更したり、PDFやDXFを自動出力したりといった機能も、API(TranslatorAddIn経由)を使って実装可能です。
また、InventorのAPIを活用すれば、ユーザーインターフェース上では行いにくい詳細な制御まで実現できます。複数ファイルの一括操作や、外部データとの連携といった高度な自動化も行える点が、マクロの大きな強みです。
ここからは、マクロの基本的な仕組みや、iLogicとの違いを整理しながら、より実践的な理解を深めていきましょう。
2.1. マクロの基本定義とVBAの役割
VBA(Visual Basic for Applications)は、Inventorをはじめとするアプリケーションを制御するためのプログラミング言語です。Inventor内部のオブジェクト(ドキュメント、スケッチ、パーツ情報など)にアクセスし、さまざまな処理をまとめて実行できます。
一般的に設計業務では、マウスやキーボードを使った手作業が中心ですが、VBAを使ったマクロを導入することで、一連の作業をプログラムとして正確に繰り返すことが可能になります。たとえば、複数のInventorファイルに対してiPropertyを一定のルールで更新する場合、1本のマクロコードで自動化できるのです。
このような仕組みを活用すれば、作業時間の短縮だけでなく、ヒューマンエラーの防止にもつながります。
VBAエディタを起動すると、Inventor APIの多様なプロパティやメソッドにアクセスでき、マクロの動作設定やコードの調整を直接行えます。
操作の可視化と制御の自由度が高く、Inventorの内部構造を理解しながら効率的な設計環境を構築できる点が魅力です。
2.2. iLogicとの比較:どちらを選ぶべきか
Inventorには、主に VBAマクロ と iLogic の2つの自動化機能があります。
iLogicは、Inventorファイル内部に設計ルールを設定し、モデルやアセンブリの制御を行う仕組みです。一方のマクロは、外部ファイル(.ivbなど)として保存され、外部データとの連携や複数ファイルの処理に強いという特徴があります。
iLogicはGUIベースで構築できるため、初心者でも比較的扱いやすい点が魅力です。ただし、外部アプリケーションとの連携やファイル管理の柔軟性は限定的です。対してVBAマクロは、Excelとの連携や複雑なロジック構築に適しており、Inventorの外部データや他ソフトウェアと組み合わせた運用に向いています。
マクロでは自らコードを書く必要がありますが、その分自由度が高く、細かな設計効率化や自社独自のルール実装が可能です。一方で、複数人で運用する際はファイルの統一やバージョン管理が求められるため、チーム全体でルールを整備しておくことが重要です。
選び方の目安としては、設計ルールを素早く定義したい場合はiLogicを、外部データや他ソフトと連携した高度な自動化を行いたい場合はVBAマクロを選ぶのがおすすめです。
2.3. マクロでできること:具体的な例とメリット
マクロの魅力は、さまざまな操作を自動で一括処理できることにあります。たとえば、複数図面の一括保存や、テンプレートを基にした新規ドキュメントの自動生成、設計者名を統一してiPropertyへ入力するなど、多様な活用が可能です。
Excelの寸法値を読み込んでパラメータを自動変更する機能も代表的な例です。スプレッドシートにまとめた数値をそのままInventorモデルに反映できるため、複数バリエーションの設計を短時間で展開できます。
さらに、Inventorデータのバックアップ作成、PDFやDXFの自動出力など、ドキュメント管理の効率化にもマクロは役立ちます。これらを組み合わせることで、日常業務の省力化だけでなく、作業の標準化やチーム全体の生産性向上にもつながります。
結果として、マクロの導入は単なる作業短縮にとどまらず、エラー削減・納期短縮・品質の均一化 といった多面的な効果を発揮します。自動化を積極的に活用することで、よりスマートで安定した設計環境を実現できるでしょう。
3. Inventorでマクロを使う準備
ここからは、実際にInventorでマクロを活用するために必要な準備手順を確認していきます。まずは、VBA環境がすでに利用できるかをチェックし、問題がなければマクロファイルの保存場所やセキュリティ設定を整えることが重要です。
マクロを利用する際につまずきやすい原因の一つが、社内ポリシーによるVBAの無効化 です。その場合は、システム管理者に実行許可を依頼するか、Inventorの[アプリケーションオプション]→[ファイル]から既定のVBAプロジェクト(.ivb)やテンプレートなどの“場所”を適切に指定しましょう。併せて、Excel側では「信頼センター(Trusted Location)」で警告設定や署名ポリシーを調整してもらうことも大切です。
また、複数のメンバーでマクロを共有する場合は、実行設定の標準化とバージョン管理ルールの策定 も欠かせません。バックアップの運用方法やデジタル署名マクロの利用を検討することで、プロジェクト全体が安定した自動化設計を行える環境が整います。
ここでは、VBAの起動方法から、マクロの保存・管理・セキュリティ設定までを順を追って解説します。
3.1. VBA環境の確認と起動方法
まず、Inventorのリボンメニューから[ツール]→[マクロ]→[Visual Basic Editor] に進むことで、VBAエディタを起動します。ショートカットキー「Alt + F11」でも開けるため、慣れてきたらこちらを活用すると便利です。
もしメニューがグレーアウトして選択できない場合は、社内セキュリティポリシーやソフトのインストール状態が影響している可能性があります。その際は、IT管理者やシステム担当者に相談し、InventorのVBA機能を有効化してもらいましょう。
VBAを起動すると、ThisApplication や ActiveDocument など、Inventor特有のオブジェクトを扱えるようになります。これらのオブジェクト階層を理解しておくと、マクロがどのように構成されているかを把握しやすくなり、コーディング時のミスを防げます。
VBAエディタが起動できない場合は、VBAコンポーネントの未導入や社内制限が原因であることもあります。その場合は、管理者に確認し、必要に応じてVBAモジュールを追加導入してください。
確認が完了したら、次のステップとして、マクロファイルの保存と管理について整理していきましょう。
3.2. マクロの保存と管理方法
VBAマクロは、通常 .ivb形式 の外部ファイルとして保存されます。デフォルトでは、ドキュメントフォルダ内のInventor関連フォルダに格納されることが多いですが、チームで運用する場合は、一元管理できるネットワークドライブや共有サーバー に配置するのがおすすめです。
一部のマクロは、標準テンプレートに組み込むことで起動時に自動ロード させることも可能です。これにより、作業開始と同時に必要なマクロが利用でき、チーム全体で統一された作業環境を維持できます。
ただし、複数人が同時にマクロファイルを更新すると、バージョンの混在や上書きによる不具合が発生する恐れがあります。そのため、Gitや社内のバージョン管理システム を活用し、変更履歴や担当者を明確にしておくと安心です。
このように、マクロの保存場所や共有ルールをあらかじめ確立しておくことが、Inventorマクロの標準化と保守管理の第一歩 となります。
3.3. セキュリティ設定と信頼済みフォルダの設定
Inventorでは、企業や学校のセキュリティポリシーにより、VBAの実行やCOM連携が制限されている場合があります。[アプリケーションオプション]→[ファイル]で指定する項目は、既定のVBAプロジェクト(.ivb)やテンプレートなどの“場所”設定であり、Officeの「信頼済み場所(Trusted Location)」のようにマクロ警告を抑止する機能ではありません。
そのため、Excel連携時の警告や署名ポリシーについては、Office側(信頼センターなど)で適切に管理してください。
また、プロジェクトマネージャーや管理担当者は、トラブル予防と将来の拡張を見据えて、デジタル署名付きマクロ の導入も検討すると良いでしょう。
署名済みマクロであれば、セキュリティリスクを抑えつつ、チーム全員が安心してマクロを実行できます。
これらの準備を整えることで、マクロを使った自動化設計をスムーズに導入できる環境が完成します。
4. Inventorマクロの作り方|基本ステップ
ここからは、Inventorで実際にマクロを作成する手順を見ていきましょう。
InventorにはAutoCADのような「操作を記録して自動的にコード化する機能」はありません。そのため、VBAエディタで標準モジュールを作成し、Subプロシージャ(手順)を手書きで実装する のが基本になります。
最初から複雑なマクロを組もうとするとエラーが出やすいため、まずは小さな処理(例:アクティブな図面を保存する)を1つ実装し、「実行 → 確認 → 修正」を繰り返しながら徐々に変数化・ループ化して汎用性を高めていく方法が安全です。
ここでは、モジュールの作成・基本コードの書き方・デバッグのコツ を順に解説していきます。
4.1. VBAモジュールの作成と基本実装
VBAエディタの起動手順
- Inventorのメニューで[ツール]→[マクロ]→[Visual Basic Editor]を選択します。
またはショートカットキー「Alt + F11」でも開くことができます。 - VBAエディタ(VBE)が開いたら、[挿入]→[標準モジュール]をクリックし、新しいモジュールを作成します。
次に、最も基本的なコード例を見てみましょう。
Sub SaveActiveDrawing()
Dim doc As Document
Set doc = ThisApplication.ActiveDocument
If doc.DocumentType = kDrawingDocumentObject Then
doc.Save
MsgBox “図面を保存しました。”
Else
MsgBox “アクティブな文書は図面ではありません。”
End If
End Sub
このように、1つの機能=1つのプロシージャ として作成し、動作確認を行いながら少しずつ変数化・ループ化・関数分割などで拡張していくと、安定したマクロを構築できます。
Inventorには「操作記録機能」がないため、オブジェクトモデル(ThisApplication や ActiveDocument など)を理解し、手書きによる実装が前提 である点を押さえておきましょう。
4.2. コードの編集とカスタマイズ方法
手書きしたマクロコードは、基本的に手続き型で上から順に命令を実行していく形になります。たとえば、図面を保存した後にパーツを指定フォルダへ出力し、途中でメッセージを表示するといった処理を組み合わせることが可能です。
編集のポイントは、再利用しやすい構成にすること です。ファイル名や保存フォルダなどの値を「固定値」ではなく変数として宣言しておけば、異なる案件やプロジェクトでも簡単にマクロを使い回すことができます。
また、If文やFor文、MsgBox、Select Caseなどを組み合わせることで、エラーチェックや複数アイテムへの連続処理もスムーズに実装できます。処理が複雑になる場合は、サブルーチンや関数を分割 し、コメントを加えておくと、後からコードを見返す際に理解しやすくなります。
マクロは自由度が高い反面、チームで運用する場合にはコーディングルールを定めることが大切です。命名規則やコメントの書き方を統一しておくと、保守性が高まり、他のメンバーも安心して修正・改良できます。
4.3. 動作確認とデバッグのコツ
マクロを作成・編集した後は、必ず動作確認とデバッグを行いましょう。デバッグモードではブレークポイントを設定し、コードを一行ずつ実行しながら処理の流れを確認できます。想定どおりにファイルが保存されているか、パラメータが正しく反映されているかを丁寧にチェックします。
エラーが発生した場合は、MsgBox や Debug.Print を使って状況を可視化し、If … Then 構文で条件を確認する設計を行うと安定性が向上します。さらに、On Error GoTo Handler を利用して構造化エラーハンドリングを組み込み、失敗箇所やエラー内容(Err.Description)を記録するのも効果的です。
特に、外部ファイルを扱うマクロでは「ファイルパスの誤り」がよくある原因です。ネットワーク環境やドライブ構成が異なる場合は、相対パス指定や環境変数の利用も検討しましょう。
また、Inventor APIの更新やアドインの変更によって、マクロが正常に動作しなくなるケースもあります。バージョンアップの際には必ず動作確認を行い、バックアップを取る習慣をつけておくと安全です。
このような一連の手順を確実に押さえておけば、より大規模で柔軟なマクロを組む際にも安心して取り組むことができます。
5. 実践例:Inventorマクロで作業を自動化する

ここでは、実際の業務で役立つInventorマクロの具体例を3つ紹介します。いずれも日常的に発生する繰り返し作業を想定した内容で、自社やプロジェクトの環境に合わせてアレンジすることで、より高い効果を発揮します。
特に、Excel連携マクロ のように外部データとの同期を行う場合は、設定や参照ライブラリの構成がやや複雑になります。しかし、その仕組みを一度構築してしまえば、業務効率化とデータ管理の一体化が進み、チーム全体のスキル向上や業務負担の軽減といった副次的なメリットも得られます。
これらのマクロはすべてVBAエディタからコードを直接編集できるため、必要に応じて出力形式をPDFやDXFに変更したり、他の処理を追加したりして自動化の範囲を広げることも可能です。それでは、それぞれのマクロの概要を順に見ていきましょう。
5.1. 図面を一括保存するマクロ
最初の例は、開いているすべての図面ドキュメントをまとめて保存するマクロ です。複数の図面を手動で保存するルーチン作業を自動化できるため、時間短縮に大きく貢献します。
コード例では、ThisApplication.Documents をループ処理し、
kDrawingDocumentObject の条件を満たすドキュメントだけを doc.Save で保存しています。これにより、開いている図面の修正内容を一括で反映できる仕組みです。
数十枚規模の図面を扱う場合、手作業では相当な時間がかかりますが、このマクロを使えばわずか数秒で保存処理が完了します。一見地味な作業でも、日々の積み重ねによって大きな効率差が生まれるため、早期の導入が効果的です。
さらに、保存時にファイル名へ連番を付ける処理を追加すれば、ファイル名の重複を避けながら、定型フォーマットでデータを整理できるようになります。
5.2. iPropertyに設計者名を自動入力するマクロ
次の例は、iPropertyの設計者名入力を自動化するマクロです。プロジェクトやチーム単位で共通の設計者名や部署名を設定する必要がある場合に役立ちます。
iPropertyは、Inventorでドキュメント情報(メタデータ)を管理する仕組みです。設計者名は「[Inventor Summary Information]」内の「Author」プロパティに格納されています。マクロでは doc.PropertySets(“Inventor SummaryInformation”).Item(“Author”) を利用して、この値を直接操作できます。
設計業務の標準化という観点では、常に統一された設計者名を入力しておくことで、表題欄の整合性を保ち、検索や図面管理の効率も向上します。プロジェクトマネージャーにとっては、入力忘れの防止や入力ミス削減にもつながる重要なポイントです。
また、このマクロを応用すれば、製品名・図面番号・版数など、他のiProperty項目をまとめて自動入力・更新する仕組みに拡張することも可能です。なお、Author は「Inventor Summary Information」に属しますが、Designer や Part Number は「Design Tracking Properties」側にあるため、操作対象に応じて参照先を切り替えましょう。
5.3. Excel連携でパラメータを一括更新するマクロ
最後に紹介するのは、Excelとの連携によってパラメータを自動更新するマクロです。外部のExcelファイルから寸法値や数値データを読み込み、Inventorモデルに反映させる仕組みで、大量の寸法変更や設計バリエーションの管理に非常に効果的です。
実装の流れは、まず CreateObject(“Excel.Application”) でExcelを操作し、セルの値を読み取ってInventor側に渡すというものです。この方法を使えば、1つのExcelファイルを基準に複数モデルの寸法を一括変更できます。
たとえば、製品サイズをS・M・Lの3種類展開する場合、各サイズの寸法をExcelにまとめておき、マクロを実行するだけで一瞬でモデルを更新できます。これにより、設計効率の向上とエラー削減を同時に実現できます。
さらに、このExcel連携を応用して、PDFやDXFなどのファイル出力まで連続して自動化することも可能です。出力にはTranslatorAddIn(トランスレーターアドイン)を利用し、
AddInのIDを ItemById(“{0AC6FD96-2F4D-42CE-8BE0-8AEA580399E4}”) で取得して、NameValueMap に解像度や出力範囲などの設定を指定します。
このように、複数フォーマットをまとめて出力できるマクロを組めば、書類提出や製造指示書の作成といった事務的な工程も自動化でき、業務工数を大幅に削減できます。
6. トラブルと注意点|うまく動かないときの対処
マクロは非常に便利な反面、想定外のエラーや動作不良に直面することも少なくありません。原因を正しく特定し、適切に対処できれば、トラブルシューティングをスムーズに進められ、チーム全体でも安心して活用できるようになります。
特に、セキュリティ設定やバージョン管理に関するトラブル は見落とされやすいポイントです。プロジェクトマネージャーが中心となって、クライアントPCやネットワーク環境の設定を統一し、マクロの互換性や署名管理まで考慮することで、チーム全体の生産性を安定的に高めることができます。
ここでは、マクロ運用で起こりやすい代表的なトラブルとその予防策を解説します。あわせて、定期的なバックアップやセキュリティ見直しを行っておくことで、運用リスクを大幅に軽減できます。それでは、よくある問題事例を順に見ていきましょう。
6.1. 一般的なトラブルシューティング
代表的なトラブルとしては、「マクロが実行されない」「想定したファイルが開かない」 などが挙げられます。多くの場合、参照ライブラリの未登録やマクロセキュリティの設定が厳しすぎることが原因です。
もう一つよくある問題が、ファイルパスのハードコーディングによる不具合です。たとえば、ネットワークドライブのドライブ文字が変更されたり、共有フォルダ名が微妙に変わったりすると、マクロが正しく動作しなくなるケースがあります。
こうした問題に対しては、On Error GoTo Handler を活用した構造化エラーハンドリングが有効です。失敗箇所や Err.Description の内容をログとして残しておくことで、原因の特定と初期対応を迅速化できます。なお、Resume Next を多用するとエラーを見逃す恐れがあるため、安易な使用は避けましょう。
最終的には、環境設定やファイルパスを変数化し、チーム全体で共通のルールに基づいて運用することで、柔軟かつ安定したマクロ環境を維持できます。
6.2. セキュリティと互換性の問題
マクロを頻繁に使用する企業や設計チームでは、ウイルス対策ソフトや社内ネットワークのセキュリティポリシーにより、マクロの実行が制限されることがあります。
これがエラーの原因となる場合も多く、特に新しい環境で導入する際には、IT部門との連携が欠かせません。
また、InventorとMicrosoft Officeの連携による互換性問題にも注意が必要です。通常、CreateObject(“Excel.Application”) はExcelをアウト・オブ・プロセスのCOMサーバーとして呼び出すため、ビット数の違いで失敗することは多くありません。それでも動作しない場合は、Officeのインストール状態やユーザー権限、COM登録の不整合、または組織ポリシー(信頼センターやマクロ制限)を確認するのが効果的です。
トラブル回避のためには、システム構成の統一化やデジタル署名付きマクロの採用が有効です。プロジェクトマネージャーがあらかじめ動作確認済みの環境を整えておけば、メンバーの学習コストを抑えながら、開発・運用をスムーズに進められます。また、Inventor APIの更新に合わせた定期的なメンテナンスも忘れずに行いましょう。
6.3. 共有とバージョン管理のベストプラクティス
マクロは個人だけでなく、複数のプロジェクトやチームで使い回されることが多いため、バージョン管理の不備による混乱に注意が必要です。たとえば、同名のマクロファイルを複数人が同時に上書きしてしまうと、思わぬ不具合を招くことがあります。
このようなトラブルを防ぐには、Gitなどのバージョン管理システムを導入し、変更履歴を可視化するのが効果的です。管理者がレビュー・承認を経てマージするプロセスを確立すれば、マクロの品質と保守性が大きく向上します。
また、共有フォルダを利用する場合でも、マクロ配置フォルダや命名規則を統一しておくと、メンバー間の混乱を防げます。これにより、潜在的な課題である「プロジェクト管理の効率化」と「将来的な技術進化への対応力」も強化されます。
こうした運用体制を整備することは、チーム全体が自動化設計に慣れ、さらに高度な開発・改善へと進むための重要な基盤になります。
7. まとめ|マクロでInventor作業をスマートに自動化しよう
ここまで、Inventorマクロを活用して設計作業を自動化する方法を体系的に見てきました。
改めて振り返ると、まず重要なのは VBA環境の整備と基本設定 です。セキュリティやバージョン管理をチーム全体で統一することで、安定したマクロ運用が実現します。
マクロの最大の魅力は、繰り返し作業の省力化と標準化 にあります。単純な処理を自動化するだけでも、設計スピードの向上や入力ミスの防止につながり、結果的に業務全体の品質を高めることができます。最初は小さなマクロから始め、徐々に機能を追加していくことで、無理なくスキルを習得できるでしょう。
さらに、iLogicとの併用 によって、モデル設計のルール化とファイル管理の自動化を両立させることも可能です。Inventor APIドキュメントやAutodesk公式の開発者コミュニティなどを活用すれば、応用範囲を広げながら自分たちの業務に最適化した自動化環境を構築できます。
日々の設計をよりスマートに、そして効率的に進めることは、個人の作業負担を減らすだけでなく、チーム全体のモチベーション向上にもつながります。マクロは「設計の質を保ちながらスピードを上げる」ための強力なツールです。ぜひ本記事を参考に、Inventorマクロを積極的に活用し、より高い生産性と柔軟な設計環境の実現を目指してください。
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