製造業のデジタルツイン取り組み事例4選|IoTとDXのフル活用
製造業はデジタルツインで先行する業種のひとつです。
しかし用語は聞いたことがあっても具体的にどのような取り組みがあるのかはっきりわからないことも多いでしょう。
今回は製造業のデジタルツインの取り組み事例をピックアップしてご紹介します。
デジタルツインでできることを踏まえて、自社の効率化にお役立てください。
デジタルツインはCADの進化型
デジタルツインとは、3D空間で構築したモデルについて実世界の形状や動きなどについてセンサーなどから収集した情報を加えて可視化することです。
加えてバーチャル空間上でさまざまな検出や分析を行い行動の最適化を図ることが狙いだといえます。
今まではCADやBIMに一部シミュレーションの機能がありましたが、IoT技術を組み合わせることでより具体的かつリアルタイムな情報をもとにした検討が行えるようになったのです。
このデジタルツインの技術は、バーチャル試作はもちろん生産、都市計画など様々な分野で活用される余地があります。
デジタルファクトリーについては以下の記事でも解説しています。
ぜひ参考にしてください。
デジタルファクトリーは製造業のDX!仕組みやメリット課題を解説
製造業におけるデジタルツインの取り組み事例4選
デジタルツインは、企画から開発、生産までの効率化をはじめ、生産ラインの異常検知やトレーサビリティの向上、技術伝承などに大きく役立ちます。
ここでは4社の取り組み事例をもとに、デジタルツインの狙いや構築体制などを具体的にご紹介します。
ダイキン工業:工場の停滞で生じた時間やコストを3割強削減
出典:経済産業省|製造業DX取組事例集(*1)
ダイキン工業の工場では、2020年ごろからデジタルツインシステムを本格活用して設備の保守に役立てています。
目的は、デジタル技術とプロセス改革で「止まらない工場」を構築してロスを低減することです。
工場内の製造設備などにセンサーやカメラを取り付けて、取得したデータを基に部品の流れや組み立て、塗装、プレスといった工程の状況を逐次、仮想空間に再現しています。
デジタルツインとして制作したバーチャル工場では、各々の項目にカーソルを合わせると、以下のような情報が表示されます。
・製品:製品のID
・製造ライン:別画面で進捗状況
・設備:設備の稼働状況
・作業員:スキル情報
また、作業の遅れが予測される場合は、アラートが表示される仕組みです。
遅れの原因は「製造設備の異常」「作業の遅れ」に大別できます。
作業の遅れはカメラなどでも判断できますが、設備の異常は状況把握が難しい要素です。
今までも加工の前後に生産状況の情報を取得していましたが、新システムの場合は加工中のデータが収集できるため、製造設備の異常がより高い精度で予測可能になったのです。
また、エラー稼働かを判断するアルゴリズムは、ベテラン技術者とITエンジニアがペアとなり実際の工場のラインで情報収集を行いました。
工場から検出される値について状況に応じて判断する基準を明確化してプログラムに盛り込んだのです。
デジタルツインシステム導入直後の2019年度と2021年度を比べると、ラインの停滞によって生じた時間やコストが3割強削減される見込みです。
サントリー食品:商品1本単位のトレーサビリティを実現
出典:サントリー食品インターナショナル|スマートファクトリー(*2)
長野県にある「サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場」は、2021年5月に稼働した工場です。
ここでは「商品の安全・安心の追求」「働き方改革の推進」「工場経営の高度化」という目的達成のために、デジタルツインの機能を持つIoT基盤を整備しています。
製造工程における生産設備・機器のほか、調達、製造、品質管理、出荷などをIoT基盤に集約させて、システムからさまざまなデータを素早く収集・統合できるようにしています。
実際の生産ラインでは、各々の機器にセンサーを設置します。
センサーから、製造設備から電力値や蒸気圧、ボイラー温度などを実測したものを分析アプリに経由させると、結果が製造管理のダッシュボードとなるデジタルツイン上に表示されます。
デジタルツイン上で異常の予測などがモニタリング可能となるのです。
例えば、ある1本の商品のトレーサビリティが可能となるため、万一不具合が起きた場合の情報紹介や説明対応が迅速化しています。
また設備や機器のエラーなどの特定も容易になりました。
BMW:デジタルツインによるコラボレーションと工場の稼働最適化
出典:NVIDIA Omniverse – Designing, Optimizing and Operating the Factory of the Future(*3)
BMWは、グラフィックボードなどに実績がある半導体メーカーのNVIDIAと協力体制を構築しました。
正確なデジタルツイン環境を開発するプラットフォームとして、NVIDIA Omniverse Enterpriseを活用しているのです。(*4)
BMWの設計ではRevitやCATIA、点群データなどを用いるなど、各々で異なるツールやアプリケーションを使用していました。
そのため、データの互換性確保や統合は容易ではありません。
加えて、仮に関連するデータを集めた場合でも、リアルタイムに最新のデータとはいえないため、関連部門でデータが活用しきれないという課題を抱えていたのです。
NVIDIA Omniverse Enterpriseを用いると、エンドユーザー同士でコラボレーションやシミュレーションが可能です。
RevitやCATIA、点群データなどが統合されたデジタルツインが構築されます。
つまりBMWの開発にかかわる世界中のメンバーが、共有仮想空間内にある最新のデータをいつでも確認できるため、企画や設計、製造の各部門のコラボレーションができるようになっています。
また、BMWの場合、自動車の製造は世界中の複数の工場に分かれています。
さらに、製造する車の色やパーツなど100を超えるオプションがあるため、顧客に応じた資材の調達が重要です。
生産工場では、資材の流通の最適化が欠かせません。
この工場の資材の流れを維持する課題については、NVIDIA ISAACを活用しています。(*5)
物流倉庫の設備や生産工場の情報を用いると、AIを用いたロボット制御やシミュレーションが視覚的にデジタルツイン環境で行えるため、世界中の任意の工場について稼働の最適化が可能です。
旭化成:人手不足と技術継承にもデジタルツインを活用
出典:旭化成|旭化成における「デジタル×共創」によるビジネス変革(*6)
旭化成では、2021年にビジネス変革のロードマップを発表しています。
デジタル導入期の取り組みとして、すでに水素製造プラントにおけるアルカリ水電解システムについてデジタルツイン環境を構築しています。
デジタルツインの環境から、製造や貯蔵、輸送工程をモニタリングすることで遠隔操作や稼働の監視が可能です。
例えば、10年以上プラント設備に携わっているような経験豊富なベテラン技術者は人数が限られています。
そこでデジタルツインを駆使すれば、必要に応じてデジタルツインの環境を確認するだけで実際の製造現場にいるような状況が作れます。
国内はもちろん、海外拠点にも応用すれば多くの工場があっても常に適格な対応を取る余地が生まれます。
さらに人の動きをデジタル化して姿勢や環境負荷などを考慮したシミュレーションを行い、作業負荷を軽減する取り組みも実施しています。
まとめ
製造業のデジタルツイン技術は、3DデータとIoT技術を組み合わせることでバーチャルファクトリーの構築に活かされています。
デジタルツインは、生産工場のモニタリングによる作業負荷軽減や異常の早期検出、商品のトレーサビリティ向上、資材調達や搬送ロボットの最適化、技術継承などさまざまな活用余地があります。
また、CAPAのホワイトペーパー「デジタルツイン白書」もご参照ください。
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参考URL
*1 https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000312.pdf
*2 https://www.suntory.co.jp/softdrink/company/digital/factory.html
*3 https://youtu.be/6-DaWgg4zF8
*4 https://www.nvidia.com/ja-jp/omniverse/enterprise/
*5 https://www.nvidia.com/ja-jp/deep-learning-ai/industries/robotics/
*6 https://www.asahi-kasei.com/jp/news/2021/ip4ep3000000459e-att/ze211216.pdf