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Appleがいち早く採用する3nmチップの何が凄いか?わかりやすく解説

ついに量産化を実現した、TSMCの3nmプロセスルールで生産されるチップ。世界中の名だたるメーカーが名乗りを上げて、我先にと競い合っていましたが、どうやら最初に製品化するのはAppleで決着がつきそうです。
すでに発表されているM2搭載MacBook Proの後継機として投入されるようですが、今回はその情報をもとに「3nmチップって何が凄いの?」という話題を掘り下げてみましょう。

この記事でわかること
・プロセスルールについて
・3nmチップの凄さについて
・微細化はすでに限界を迎えつつあるのか

プロセスルールとは何か

まず初めに、基本的なことから復習していきましょう。
私たちが利用しているPCやスマホの心臓部と言われるチップには、数億〜数十億を超えるトランジスタが組み込まれています。発表されたばかりのM1Proチップにはなんと337億個ものトランジスタが搭載され、驚くほどの性能を発揮しています。*注1

このような「小さい面積の中に大量のトランジスタを配置」するには、できるだけ細い線で回路を描いていく必要があります。この線の幅を「プロセスルール」と言い、一般的にチップの性能を表す指標として使われて来ました。

1971年にインテルが最初に採用したプロセスルールは「10μm」でした。μm(マイクロメートル)はnm(ナノメートル)の1,000倍の単位ですから、換算すると10,000nmで設計されていたことになります。

1990年代から2000年代初めぐらいまでは、いかにプロセスルールを更新していくかが重要でした。

しかし、実は回路を形成する「線」の細さだけでは、集積度を正確に表現できないという問題があります。例えば「線と線の間」がどれだけ離れているかや、多層化といった新技術など、プロセスルール以外に高性能化・集積度向上を図る手段があるからです。

よく「インテルが微細化技術でTSMCに置いていかれた」と言う論調の記事を見ることがありますが、それはプロセスルールに限った話であることに注意しなければなりません。
インテルは「線の細さ」以外の技術が優れているため、TSMCの5nmチップとインテルの7nmチップは同程度の性能であると言われています。

このような事情から、近年では各社ごとに独自のネーミングを採用し、ロードマップなどに表すようになっています。ただし、長年の習慣とわかりやすい指標の一つとなっているため、今だに「TSCMが3nmプロセスルールでの量産化に成功」という「線の細さ」がニュースとして話題になっています。

3nmチップのここが凄い!

1)世界最初に3nmプロセスルールを採用したチップ

前述した通り、世界で最初に3nmプロセスルールの量産化に成功したTSMCから真っ先に供給されるのですから「現時点で世界最先端の微細化技術を使ったチップ」であることは間違いありません。

2)Apple専用に設計されたチップ

インテルの場合、製造されるチップは基本的に「汎用品」です。インテルが設計し、製造・供給したチップを各社でカスタマイズして製品に組み込んでいきます。
それに対してTSMCがAppleに供給するチップは、Appleが設計したものでありApple以外には供給されません。つまりApple専用チップとなるため、無駄な部分や冗長な部分を排除し、Appleのプロダクトの性能向上だけを追求することができます。

3)仕組みがインテルチップと違う

Appleは、インテル製チップから独自設計のM1チップ(Macの場合)に変更しました。インテル製から乗り換えた理由の一つとして、RISCチップであることがあげられます。
パソコンやスマホの心臓部であるCPUには、大きく2つの種類が存在します。それが、CISCとRISCです。

CISCとRISCの違いは、演算を処理する際に使われる命令の長さにあります。
CISCは長く複雑な命令の処理をCPUが担当します。それに対してRISCは、短く単純な命令をCPUが処理する仕組みが取られています。
現在のパソコンは非常に複雑な計算を凄まじいスピードで処理していますが、その複雑な部分を、OSが担当するかCPUが担当するかの違いとも言えます。

RISCチップは単純で短い命令を処理することに専念できますが、これはコンピューターがそもそも一番得意とする部分です。そのため、設計もしやすくスピードアップも図りやすいはずでした。
しかし、CISCチップも改良を重ねることで弱点を克服し、一概にどちらが優勢とは言えない状態になっています。

Appleも創業当初はCISCチップを採用していましたが、速度の向上が遅々として進まない状況に嫌気をさして、PowerPCというRISCチップへ切り替えたことがあります。
その後、再びインテルチップを採用しCISCに戻っていました。自社設計のM1チップでさらにRISCチップへと乗り換えたことになります。

そもそもインテル製のチップと横並びにベンチマークだけを比較して、優劣を判断することは難しいのですが、なぜAppleのチップが、RISCであることが「凄い」のかについて説明を続けましょう。

実は私たちが普段使っているスマホやタブレットに採用されているのはRISCチップです。
英国のARMはRISCチップの製造を基盤とし、現在のモバイルファーストの世界で大きく成長してきました。AppleのiPhoneやiPadにも、もちろんRISCチップが搭載されています。

AppleがM1チップの開発でめざしているのは、iPhoneやiPadなどのモバイル端末とMacBookなどのパソコンが、同じアーキテクチャを基盤として動く世界です。
別々に開発していたハードウエアやOSなどを共通化し、リソースを集中させることで効率良い開発が可能になります。またユーザーにとっても、同じ使用感で同じ環境を実現できるというメリットがあります。

これは「今回の3nmチップが(特に)凄い」という話ではありませんが、このようなAppleのめざす世界が、また一歩近づいたという意味では「凄い」と表現してもいいのではないでしょうか。
これまで、新しいプロセスルールで設計されたチップが最初に搭載されたのはiPhoneでした。それが今回の3nmチップで、MacBookシリーズに最初に採用されるということは、まさに「モバイルとPCの両方を統合し、進化させる」流れに沿っているのかもしれません。

4)発熱・集積度・低電力

では最後に、一般的な「凄さ」を列挙していきましょう。

◯集積度が上がる

最初に説明した通り、「プロセスルールの進化」=「集積度のアップ」ですので、これは当然と言えます。
同じ面積でよりたくさんのトランジスタを集積することができ、その分性能はアップします。同じ性能であれば、それだけ小型化することが可能です。

◯発熱を抑えることができる・低電力で動作する

1つのトランジスタを例に考えると、5nmルールで設計されたものより3nmルールで設計された方が当然小さくなります。その分だけ電流の流れる経路が短くなり、発熱量を抑えることが可能となるため、使用する電力量も少なくてよくなります。
ただし、これはあくまで「一つの部分的な回路」を比較した場合です。搭載されるコンデンサーの数も増えるため、チップ全体として考える場合は個別に判断する必要があります。

今回の「3nmチップ」は、RISCチップであること、世界最小のプロセスルールによるチップであることなどから、「電力消費・発熱を抑えながら高性能を発揮できる」ことが期待されます。
チップというコアな部分を、同一のアーキテクチャで設計・組み入れることで、いずれはiPhneやiPadとMacシリーズの明確な区分けもなくなっていくのかもしれません。

微細化はすでに限界を迎えつつある?

「1年半から2年で半導体の集積度は2倍になる。」これが有名なムーアの法則です。
理論的に導出される法則ではなく、どちらかというと経験則からくる予測という性質のものです。
しかし驚くべきことに、1965年に提唱されたこの法則はつい最近まで、まさにその予言の通り半導体の進化が続いているのです。

まさか提唱したムーア自身も、世紀を超えてこの法則が成立するとは考えていなかったのではないでしょうか。
しかし、この法則もいよいよ限界を迎えつつあるようです。3nmプロセスルールでの量産化は困難を極め、TSMCが成功したとはいうものの他社がそれに続いてくるのかなどは、はっきりしません。

さらにプロセスルールの進化以外の部分で、チップ性能向上が効果的となって来ました。
膨大な資金と大量の人員を投入してプロセスルールを進化させるより、周辺技術での性能向上を図る方向へ舵を切るメーカーも多いでしょう。

そもそも、原子1個の大きさが約0.1nmですから、それを下回る線幅での回路は物理的に無理です。となるとプロセスルールを進化させ、面積あたりの集積度をあげていくのは、早晩限界を迎えることは確実です。
果たして技術的な限界がくる前に、新たなブレイクスルーがあるのか?それとも緩やかに進化が停滞していくのか?
今のところ誰にもわかりません。

【まとめ】

今回の記事は、台湾のメディア「工商時報」が伝えたニュースがソースとなっています。今のところ、工商時報が唯一この情報を伝えているようであり、もちろんAppleからの発表はありません。
早ければ2023年前半にも3nmチップ搭載のMacBookが登場するとのことですが、早く正式な発表を聞きたいものです。それまでに円安が少しはマシになってないかな。。。というのが個人的に一番気になっています。

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■参考文献
注1 
Apple Newsroom 「M1 ProとM1 Maxが登場:Apple史上最もパワフルなチップ」
https://www.apple.com/jp/newsroom/2021/10/introducing-m1-pro-and-m1-max-the-most-powerful-chips-apple-has-ever-built/

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