SOLIDWORKS×BIM連携—制約から考える「できること」「できないこと」のリアル
1. はじめに
建築業界と製造業の協業が進む中、SOLIDWORKSとBIMソフトウェアを組み合わせたデータ連携の重要性が増しています。この連携により、3D CADを用いた詳細設計とBIMの包括的な管理が統合され、より効率的かつ正確なプロジェクト管理が期待できます。特にIFCフォーマットを介した相互運用やジオメトリ変換の活用は、各種CADツールとのデータ互換性を高める大きなカギになっています。
しかし一方で、SOLIDWORKSとBIM連携にはファイルサイズの問題や形状精度の差異、更新頻度やバージョン管理の煩雑さなど、多くの技術的・運用的な制約が存在します。これらを十分に理解せずに導入を進めると、設計ミスリスクが増え、コスト管理の段階で手戻り削減が難しくなるケースも見受けられます。
本記事では、制約から考える「できること」「できないこと」のリアルを把握し、実務レベルでのプラクティスを示すことで、プロジェクトマネージャーや製造業データ連携を担う方がデータの相互運用を効果的に行えるよう解説します。BIMとの連携で生まれる設計効率化や情報共有のメリットを最大化するために、具体的な運用フローやチェックリストも含めて紹介します。
2. SOLIDWORKSとBIMの基本理解
SOLIDWORKSは製造業における3D CADツールとして広く普及しています。機械部品や製品の設計に強みを持ち、高水準の形状精度を実現できるため、多くのエンジニアが活用しています。一方、BIMは、建築情報モデリングの手法を軸として、建築物に関するあらゆる情報を一元管理する概念です。設計者や施工管理者、設備担当者など、多岐にわたる関係者が一つのプラットフォームで連携しやすくなるのが特徴です。
しかし、SOLIDWORKSとBIMソフトウェアの間には、データ構造や設計目的の違いが存在します。製造業では細かい寸法やパーツの構成要素が重視されますが、建築業界では複数の専門領域が共同でプロジェクト管理を行うために、全体の空間情報やLOD(詳細度)を最適化するアプローチが求められます。また、CADツール独自のジオメトリ情報やフィーチャー情報が必ずしもBIMに適切に移行できるわけではなく、IFCフォーマットを使っても一部の属性が失われる事例があるのです。
さらに、BIM側ではRevitなどのソフトウェアを用いるケースが一般的ですが、各ソフトウェアのファイルの扱いやモデル簡略化の仕組みが異なることから、プロジェクトの更新頻度に応じた効率的な連携方法を検討しなければなりません。こうした相違点を踏まえつつ、両者の特性を把握して「建築」と「製造」という異なる業界をつなぐための道筋を理解しないと、せっかくのデジタルツイン構築がスムーズに進まない可能性があります。
基本となる考え方としては、SOLIDWORKSが得意とする詳細形状の精緻さと、BIMの強みであるプロジェクト全体の情報共有をいかに両立させるかが鍵となります。あらかじめバージョン管理の方針やデータ管理の流れを決めておくことで、データ再作成の手間や設計ミスリスクを最小限に抑えられるでしょう。ここからは、両者を連携する具体的な仕組みをそれぞれ掘り下げていきます。
2.1. SOLIDWORKSの概要
SOLIDWORKSは、製造業界において幅広く導入されている3D CADツールです。パーツやアセンブリをパラメトリックに設計できる点が特徴であり、自動車部品や産業機械のような高精細な3Dモデルを扱う場面でも強力に機能します。建築業界とは異なる専門領域から生まれたため、部品レベルの設計効率化や製造プロセス連携を重視する仕組みを数多く備えています。
たとえば、曲面や複雑なフィーチャーが含まれる形状でも扱いやすいアプリケーション構造や、シミュレーション機能との連携などは、多くの製造業データ連携プロジェクトで評価されています。しかし一方で、建築情報モデリングで必要とされる空間的要素や複数人でのリアルタイムコラボレーションに対応した仕組みは限定的です。その結果、BIM対応が必須となる際にはIFCフォーマットの活用や、別のBIMソフトウェアへのデータアウトプットが求められます。
また、SOLIDWORKSに限らず機械設計向け3D CADには、テンプレート化された部品ライブラリや、多彩なモーション解析機能などが含まれることが多いです。これらは製品としての強度や可動範囲を確認する意味で非常に有効ですが、建築業界から見れば、そもそも求めている情報が異なるケースもあります。そのため連携にあたっては、どの情報をどこまでBIM側に持ち込みたいかを予め整理し、形状精度の調整やモデル簡略化の方針を定めることが欠かせません。
最終的に、SOLIDWORKSの得意分野は高精度の設計と詳細な部品管理ですが、それを建設プロセス全体に展開する際には、「どの段階でどういった要素が必要になるのか」を見極める必要があります。特にプロジェクト管理視点からは、膨大なファイルや容量の大きなファイルを抱えることなく、必要十分な情報のみをBIMデータとして統合するアプローチを取るのが望ましいでしょう。
2.2. BIMの基本とその重要性
BIMは、建設業界において建物やインフラのあらゆる情報をデジタル上で一元管理する手法として広がっています。図面数や文書のやり取りが多い建築分野では、異なる専門家が同時にプロジェクトへ参加しなければなりません。そのため、BIMソフトウェアを介して3Dモデルや仕様情報、スケジュールなどをリアルタイムで共有すると、確認作業の効率化やコミュニケーションの円滑化につながります。
また、BIMモデルは「どの部材がどこに配置され、どのような材質やコストがかかるのか」といった詳細を集約する役割を果たすので、プロジェクトにおけるコスト管理や設計変更の際のインパクト把握にも活用されます。加えて、最近ではデジタルツインの概念と連動し、建物のライフサイクル全体でデータを活用する試みも進められています。
ただし、BIMで扱う情報量は非常に多岐にわたるため、適切なバージョン管理やデータ管理手法を選択しないと、プロジェクトが複雑化してしまうリスクがあります。モデルが大規模化すると、ファイルサイズ問題が顕在化するほか、細かい3D CADモデルを過度に読み込んでしまうことで処理負荷が高まり、かえって作業効率を落としてしまう恐れもあります。そこで重要になるのが、「必要な精度を見極めたうえで、適切なLODやモデル簡略化を行う」という視点です。
近年では、国際規格であるIFCフォーマットの拡張によって、複数のBIMツール間での連携がスムーズになりつつあります。しかし、SOLIDWORKSなどの機械系CADソフトウェアと100%同等の情報を取り扱えるわけではありません。『建築情報モデリング』の基本を踏まえた上で、どうやって他業種の詳細モデルを活用するかが、BIMのメリットを最大限に生かす鍵となります。
3. SOLIDWORKSとBIMの連携の現状
SOLIDWORKSとBIMソフトウェアの連携については、すでに製造業と建築業界をつなぐ試みとして多くの事例が蓄積されつつあります。しかしながら、双方が想定するデータの粒度や活用範囲が異なるため、完全な相互運用を実現するにはまだ課題が残っているのが現状です。特に、形状精度を保ったままデータ管理を一貫して行うには、IFCフォーマットや中間フォーマットを駆使する必要がありますが、微細なジオメトリ情報がなければ意味が⼀部失われる場合もあり、その調整には労力がかかります。
そのため、実際にプロジェクトチームがSOLIDWORKS BIM連携を行う際には、モデル簡略化の手法をどこに置くかが大きなポイントです。過度に細かいパーツ情報をBIMへ持ち込むとファイルが巨大化し、ソフトウェアの動作が重くなったり、更新頻度が高いフェーズでは手戻り削減が困難になったりする恐れがあります。逆にあまりに情報を落としすぎると、建築側が求める設備寸法や形状精度が正しく伝わらないリスクにつながるでしょう。
また、SOLIDWORKSのフィーチャー情報や溶接ビードなど、製造現場で意味を持つデータがBIMでは不要となるケースもあります。このように、それぞれの業界特性が異なるため、単にツール間をファイルベースでつなぐだけでは問題が生じやすいという現実があります。
では実際、どのようなメリットが得られ、どこに技術的課題が潜んでいるのでしょうか。
ここからは連携のメリットと制約を具体的に整理し、実務に落とし込む際に注意すべき点を探っていきます。課題を正しく理解した上で対策を講じることで、プロジェクト管理における無駄を避け、導入コストのMAX化を防ぐことが可能となります。
3.1. 連携における主要な利点
まず、SOLIDWORKSとBIMソフトウェアを組み合わせる最大の利点として、部品レベルで作り込んだ機械系の高精度3Dモデルを建築情報モデリングの枠組みに取り込める点が挙げられます。たとえば、製造業者が開発した大型機器や空調設備の寸法や配置を、実際の建築空間に即したレイアウトで検証できるため、設計ミスリスクを削減しやすくなります。
また、IFCフォーマットを活用したデータ互換や中間ファイルを介したプロセスを取ることで、CADツール同士のバージョン管理や重複作業を減らすことにもつながります。部品やパーツの情報は製造業サイドで一元管理し、建築業界側は必要となる空間配置や干渉チェックに焦点を当てるといった役割分担が明確化される効果があるからです。
さらに、導入段階で連携目的をはっきりさせれば、情報共有の効率化も期待できます。SOLIDWORKSで作成した部品データをBIMソフトウェアへ移行することで、どの程度の情報を施工管理やコスト管理に使えるかを明確にすれば、プロジェクトメンバー全員が同じ要件を見据えて作業を進められます。結果として、プロジェクト全体の業務効率化や手戻り削減に直結する可能性が高くなるのです。
従来は2D図面や簡易的な3Dデータで済ませていた領域を、よりリアルに包括できる点も大きな利点といえるでしょう。特に動的な部品や設置スペースの干渉確認など、3Dモデルが持つ情報量は建築仕上げ段階の判断にも活かされ、建築と製造の双方にメリットをもたらします。
3.2. 連携の技術的制約と課題
一方、技術的にも運用面でも乗り越えなければならない課題は少なくありません。代表的なのが、ファイルサイズ問題と形状精度の扱いです。SOLIDWORKSで機械部品を詳細に作り込むと、数多くのフィーチャーや小さなエッジ・穴などがモデルに含まれるため、BIMソフトウェア側の処理が極端に重くなるケースへつながります。
また、IFCフォーマットを通じてデータをやり取りする場合、SOLIDWORKS特有の履歴ツリー情報やパラメータは引き継がれず、単なるジオメトリ情報として扱われるため、再編集が難しくなる場合があります。BIMソフトウェア上で修正しようとしても、元のCADツールに戻し再度変換を繰り返す手間が発生してしまい、プロジェクト内の更新頻度が高いフェーズでは深刻なボトルネックになりかねません。
さらに、設計効率化を狙って連携を行うはずが、実務レベルですり合わせが十分行われないまま導入すると、どの属性情報を残すかの判断が曖昧なままデータ移行してしまうことがあります。その結果、BIM側には不要な3D形状データが氾濫し、逆に製造業者から見れば必要だった情報が落ちている、といった事態にも陥りかねません。よって、連携に関わる担当者同士が、事前にチェックリストや運用フローを共有し、合意形成するプロセスが極めて重要になります。
このように、技術的制約だけでなく、運用設計の段階で発生するヒューマンエラーや連絡ミスも大きな課題です。具体的な対処法や事例を学ぶことで、導入時の失敗を回避することが期待されます。
4. 実務での連携フローとベストプラクティス
SOLIDWORKSとBIMの連携を実務に落とし込む際は、まずプロジェクト全体の目的と範囲を明確化することが大切です。どの段階でBIM側にデータを渡し、どのレベルまで形状や属性情報を保持するのかといった基本方針を立て、チーム全体で認識をそろえることが、データ再作成の無駄を省く重要な一歩となります。
次に、運用フローを整理する際には、実際にやり取りされるファイル形式やモデル簡略化の方法を具体的に定義します。デザインレビューフェーズではSOLIDWORKSの高精度データを使い、施工フェーズではIFCフォーマットのやや荒いジオメトリ変換を利用するといったように、フェーズごとにモデルの解像度を変化させる手法が有効です。このような段階的移行を明確にすることで、手戻り削減と同時に、スケジュール遅延を防止する効果が高まります。
また、プロジェクトマネージャーの視点では、更新頻度が高い製造業データ連携と建築業界のプロセス差を考慮し、バージョン管理の仕組みを慎重に設計する必要があります。SOLIDWORKSからエクスポートされたモデルが何度も修正を受ける場合、BIMソフトウェア側で差分を円滑に把握できる運用を構築しないと、設計ミスリスクが増大するからです。
こうしたポイントを踏まえ、以下の各サブセクションで実務上の具体的手順やチェックリスト活用方法について詳説していきます。
4.1. データ変換と統合の具体的な手順
実際のワークフローを確立するうえで、まず着目すべきはSOLIDWORKS側でのモデル管理です。建築業界へ提供するデータセットは、BIMソフトウェアで必要となる属性と不要な形状を切り分けた状態が理想です。具体的には、以下のステップを踏むことが推奨されます。
1) 簡略化モデルの作成:詳細なネジ穴や微小フィーチャーを削除し、設置スペースや主要寸法のみを保持した形状を別ファイルとして用意します。これにより、ファイルサイズを抑え、BIM側での動作を軽くできます。
2) IFCフォーマットへのエクスポート:各種BIMソフトウェアはIFCインポート機能を備えているため、SOLIDWORKSで作成した簡略版3DモデルをIFC形式に変換します。この際、部品情報や素材のメタデータを添付するかどうかを事前に決めておくと、後工程での情報の脱落を防止しやすくなります。
3) BIM側での取り込みと確認:RevitなどのBIMソフトウェアにインポートし、ジオメトリ変換が適切に行われているか、位置関係やコリジョンが正しいかをチェックします。複数台の機器や大規模パーツを扱うプロジェクトでは、パーツIDや番号をBIMタグに紐付ける運用が便利です。
4) 更新・修正時の手順:SOLIDWORKSで設計変更が生じた場合、同一フローで再度IFCエクスポート→BIM更新を行います。更新頻度が高い場合は、単純な差分だけで済むようなファイル管理術が不可欠です。
このように、一度データ統合の方針を定めておけば、各フェーズで高精度と適切な軽量化の両立が図れます。また、CADツールの設定やBIMソフトウェアのインポートオプションについては、社内の標準化手順やテンプレートを整備しておくと、オペレーターによる設定ミスの防止にもつながります。
4.2. プロジェクト管理とコラボレーションの強化
連携フローを成立させるためには、単にファイルを変換するだけでなく、プロジェクト管理の観点から関係者全員が同じゴールを共有することが重要です。特に、SOLIDWORKSとBIMの知識ギャップを埋めるための情報共有の仕組み作りが不可欠となります。
たとえば、BIMソフトウェア担当者と製造業側のエンジニアが同じオンラインプラットフォームにアクセスし、最新バージョンのモデルとプロジェクトスケジュールをリアルタイムで閲覧できるようにすると、更新の漏れやコミュニケーションの断絶を防ぎやすくなります。また、重要なマイルストーンごとに進捗確認を行い、形状精度や属性情報の欠落がないかを検証する仕組みも導入すると、後工程での大幅な手戻りを抑制できるでしょう。
さらに、コスト管理やスケジュール管理を行うプロジェクトマネージャーが、各フェーズで必要とされる情報レベル(LOD)を適切に指定することも効果的です。製造業サイドとしては、より精細な3Dモデルを提供することができても、建築現場にほんの一部しか必要なければ、無駄な労力やファイルサイズを抱え込むだけになってしまいます。そこで合意形成を高めるために、事前に「設計初期段階ではLOD 200程度のモデルを、設備確定段階ではLOD 300相当のモデルを」といった明確な指標を設定するとよいでしょう。
このように、コラボレーションの仕組みを強化し、両者の役割分担とデータのやり取り基準を明確にしておくことで、SOLIDWORKSとBIMの連携による最大の恩恵を得られます。結果として、設計効率化だけでなく、リソース配分やチーム間コミュニケーションの向上にも寄与します。
4.3. リアルタイム更新とバージョン管理の最適化
連携においてしばしば問題となるのが、SOLIDWORKSで行われた修正をどのタイミングでBIMモデルに反映するかというバージョン管理の問題です。建築業界と製造業界では、設計サイクルも変更頻度も異なる場合が多く、片側ですばやく更新が入っても、もう片側が追従できないと情報の不整合が生じがちです。
そこで、プロジェクト管理システムやクラウドベースのコラボレーションツールと連携させることで、変更箇所を自動通知したり、変更前後のモデル差分を視覚化したりできる仕組みを導入する例が増えています。たとえば、SOLIDWORKSの更新データがアップロードされると同時に、その差分情報がビジュアルで表示され、BIM担当者がチェックできるようにするのです。このような運用を実装すれば、常に最新版の状態をチーム全員で共有しやすくなり、設計ミスリスクを大幅に下げられます。
また、バージョン管理を最適化する上で重要なのが、更新記録のメタデータ化です。BIMソフトウェア側でいつ、どのバージョンのSOLIDWORKSモデルを参照したかを履歴として残すと、万一の不具合発生時に原因を迅速に追跡できます。特に大規模プロジェクトでは膨大なデータが日々やり取りされるため、手作業での記録はミスを引き起こしやすいでしょう。そこで自動化ツールやプラグインをうまく活用し、両者のモデルを同期する際にログを自動生成する仕組みを整えるのも有効な対策です。
こうしたリアルタイム更新を視野に入れたフロー設計を行えば、製造業から建築業界への製品データ供給がスムーズになるだけでなく、全体のプロジェクト進行の見通しも高まります。結果として、手戻り削減や業務効率化につながり、両者の連携がもたらすメリットを最大化できるでしょう。
5. ケーススタディ:成功事例と教訓
ここからは、SOLIDWORKSとBIMの連携で想定されうるパターンを解説します。連携に成功する例と、連携に失敗し問題が発生した例を紹介します。成功例を参考にすることで、どのような手順や運用フローが効果を生むかを学び、失敗例からは何を事前に避けるべきかを確認することが可能です。プロジェクトマネージャーにとっては、こうした教訓を活かすことでリスク軽減が期待できるでしょう。
また、今回紹介する例は製造業データ連携の視点となっています。そのためSOLIDWORKSを中心にした機械系モデルをBIMソフトウェアに取り込むケースとしてとらえられますが、建築側がどのように需要を見極めたかや、コスト管理やスケジュールへの影響をどうガイドしたかもポイントとなります。成功の鍵は、技術的な対応だけでなく「組織としてどうデータフローを設計するか」にあるという点が重要なのです。
なお、ここで取り上げる例はあくまで一例ですが、どの例もプロジェクト管理の現場で日常的に直面する課題を解決するヒントが詰まっています。コスト削減につながる成果や、連携における失敗パターンと回避策を見ていきましょう。
5.1. 効率的な連携によるコスト削減の事例
大規模工場の建設プロジェクトで、製造ラインに設置する機器の設計をSOLIDWORKSで行い、同時にBIMソフトウェア(Revit)で建屋の構造と配置計画を進めました。当初は機器側と建物側で独立した作業が行われていましたが、途中でモデルを3Dで付き合わせる段階になり、干渉や配管ルートの不整合が多発していることが判明しました。
そこで、SOLIDWORKS BIM連携の運用フローを導入し、IFCフォーマットや中間ファイルを介して機器データを、まずは簡略化したうえでRevitに取り込む形を採用したところ、見落とされていた寸法ズレや取り付け箇所の衝突箇所が早期に発見できました。結果として、施工現場での改修工事が減少し、プロジェクト全体のコスト削減につながったのです。加えて、施工段階で発生するやり直し時間も大幅に短縮され、スケジュールの精度向上にも寄与しました。
この例では、連携前にどれだけモデル簡略化と必要情報のすり合わせを行うかが成功の大きな要因となっています。製造業から提供されたデータは非常に精密でしたが、建築業界が必要とする情報を抽出しつつ、余分なフィーチャーを落とすことでファイルサイズを抑えつつも、正確な干渉確認ができる精度を維持できたわけです。これらの運用ノウハウを社内標準とすることで、次のプロジェクトにも応用できる大きなメリットが得られるのです。
5.2. 連携失敗の典型的なパターンと回避策
一方で、連携がうまくいかず、かえって作業が複雑化した例も紹介します。典型的なのは、両業界が交わる時点で目標が曖昧なままデータ交換だけを先行させてしまい、後から仕様変更が頻発してバージョン管理が破綻するケースです。例えば、SOLIDWORKS側では日々微調整が加えられる一方、BIMソフトウェアでは固定された図面として扱われ、いつの間にか現場で使われているモデルが古いままだったという事態があります。
こうなると、設計側と施工側の間に情報のギャップが生まれ、配管や電気設備の配置にズレが出たり、発注済みの資材が実際の機器寸法に合わなくなったりと、手戻りが連鎖的に発生します。最終的には、プロジェクト全体のスケジュールに遅れが生じるだけでなく、コスト面でも大幅な追加負担となるのです。
この失敗パターンを避けるためには、連携当初から役割分担とモデル精度の基準を明確にし、変更が生じるたびにどのようにデータを更新するか合意ルールを設けることが重要です。前述の成功事例で示したように、必要に応じてモデルを簡略化しておくことはもちろん、更新時には必ず旧バージョンとの差分を明示し、BIMソフトウェアの担当者や現場監督に通知する仕組みを整備しておくことが大切です。
連携での失敗は技術以前にコミュニケーションや合意形成が不十分なことが多いということが現場でよく直面するシーンではないでしょうか。やはり、対策として通用するのは、早期の段階で連携チームを作り、検討事項やチェックリストを共有する、という地道ながら確実なアプローチなのです。
6. 今後の展望と技術的進展
SOLIDWORKSとBIMの連携に関しては、今後さらに技術的進展が期待される領域です。特に、APIの公開やプラグインの開発が進む中で、よりシームレスにファイルをやり取りし、リアルタイムにモデルを同期できるソリューションの登場が期待されています。また、クラウド上でデータを連携させる仕組みも広がっており、自動化やAIを活用した干渉チェックの試みも実用に近づきつつあります。
さらに、設計段階からデジタルツインを意識したプロセス設計が進めば、建築と製造が持つデータをお互いに補完し合い、長期的な保守・運用まで見据えた一貫管理が可能になるでしょう。現段階ではまだ実証的な段階ですが、BIMと3D CADの境界が徐々に溶け合い、より一体化したプラットフォームが生まれる可能性は十分にあります。それに伴い、業務効率化と品質向上が同時に実現することが期待されます。
6.1. 将来的な改善と期待される技術革新
将来的には、SOLIDWORKSのモデリング履歴情報やパラメトリック設定をBIMソフトウェア側でより深く利用できるようになる技術革新が望まれます。IFCフォーマットの拡張や各CADツールの機能向上が進めば、例えば建築業界でも機械部品の設洞を簡単に変更したり、部品ライフサイクルのメンテナンス計画と連動させたりすることが可能になるでしょう。
また、ARやVRなどの可視化技術と連携することで、実際の施工現場や設備配置を仮想空間上で確認しながら、SOLIDWORKS由来の正確な寸法データを即座に反映できる仕組みも期待されています。これらが実用化されれば、設計判断や意思決定がより迅速化し、プロジェクト管理の効率を大幅に高める可能性があります。
同時に、今日注目されるAI技術の活用も見逃せません。大量の3Dモデルから干渉や設計ミスリスクを自動検出する機能や、過去のプロジェクトの事例を学習して最適なモデル簡略化レベルを提示するなどのイノベーションが進行中です。こうした機能が現場で使いやすい形で実装されるようになれば、BIMと3D CADの融和がさらに促進されるでしょう。
6.2. 持続可能な建設プロセスへの貢献
また、環境負荷を意識する建設業界においては、SOLIDWORKSとBIMの連携が持続可能な建設プロセスにも貢献すると考えられています。具体的には、正確な材料数量を事前に把握できることで、無駄な資材発注や廃棄を削減できたり、軽量化された設計がエネルギー消費や輸送コストを抑える形につながったりするからです。
実際に、設計段階でBIMモデルと製造業の具体的な部品データが統合されれば、材料選択や構造設計をエコフレンドリーかつコスト最適化の方向で追求しやすくなります。設計初期から詳細なエネルギーシミュレーションやライフサイクルアセスメントを行うことも可能となり、建物の省エネ性能や設備配置を微調整する根拠の精度が高まります。このように、建築情報モデリングと3D CADの協働は、持続可能性を考慮したプロジェクトの基礎づくりに寄与するのです。
将来的には、さらに広範な業種との連携が進み、工場やインフラ、エネルギーシステムなどの多面的な要素を統合したデジタルツインが構築されることも期待されています。SOLIDWORKS×BIM連携はその重要な一端を担っており、今後の建設プロセス革新にも大きく寄与していくでしょう。
7. まとめ
本記事では、SOLIDWORKSとBIMを連携させるにあたっての全体像を示し、連携による利点や技術的制約、具体的な導入フロー、成功・失敗事例などを詳しく解説してきました。制約から考える「できること」と「できないこと」を先に把握しておけば、プロジェクトを円滑に進められる可能性が高まります。
まず、連携の利点としては、製造業が得意とする高精度3D CADと建築情報モデリングの包括的な管理手法を組み合わせることで、設計効率化や手戻り削減が期待できることが挙げられます。一方で、ファイルサイズ問題やバージョン管理、ジオメトリ変換による情報ロスなど、技術面でのハードルは依然として高いのも事実です。しかし、必要に応じたモデル簡略化や属性情報の統制、フェーズごとのLOD設定などの実務レベルプラクティスを取り入れれば、こうした課題をある程度コントロールすることができます。
また、ケーススタディから明確になったのは、成功のカギは単なるデータ連携の仕組みだけではなく、プロジェクトマネージャーやエンジニア同士のコミュニケーションの質にも大きく左右されるという点です。事前の合意形成、運用手順の共有、チェックリストの活用といった要素は、技術的プラットフォームの選択以上に重要になります。特に、更新頻度の高い場面でのバージョン管理や定期的な情報共有を徹底することで、後戻りコストやリスクを最低限に抑えられるでしょう。
今後はさらに、クラウドやAI技術の進化によって、リアルタイム同期や自動干渉検出などのソリューションが進展していくと考えられます。環境への配慮が求められる建設プロセスにおいても、適切なデータ連携は資材やエネルギーの最適利用につながり、持続可能な建築への貢献度を高めるはずです。技術革新が進む中で、SOLIDWORKS×BIM連携を効果的に活用し、建築業界と製造業界が相乗効果を発揮するためには、今述べたようなポイントを踏まえた上での着実な運用が何よりも大切です。
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参考情報
・SOLIDWORKS公式サイト
https://www.solidworks.com/ja
・SOLIDWORKS『IFC ファイル – 2025 – SOLIDWORKS Connected ヘルプ』
https://help.solidworks.com/2025/japanese/SWConnected/swdotworks/c_IFC_Files.htm
・Autodesk Revit
https://www.autodesk.com/jp/products/revit/overview
・Autodesk Revit『ヘルプ | IFC ファイルを使用する | Autodesk』
https://help.autodesk.com/view/RVT/2025/JPN/?guid=GUID-C61C2E42-0561-48C9-8459-3EAC10EC8E16