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Vectorworksのサーバー対応スペックとは? Project Sharing Server導入の基礎と実践

1. はじめに:Vectorworksにおける“サーバー”の意味とは?

Vectorworksをチームで効率的に活用するうえで、サーバー対応スペックを踏まえた環境設計は非常に重要です。スタンドアロンでの作業から脱却し、チーム全体での共同編集やデータ一元管理を可能にすることで、作業効率と正確性を大きく向上させることができます。

なかでも注目すべきなのが、VectorworksのProject Sharing Server(以下VPS)です。この機能を導入することで、複数人が同時にプロジェクトへアクセスしてもデータの衝突や上書きミスを回避しながら、安全かつ効率的に分担作業を進められるようになります。

ただし、VPSを本格的に運用するには、使用環境に応じたサーバースペックの選定が欠かせません。専用サーバーや仮想マシン、NASなど、どの構成を選ぶかによって運用の安定性や拡張性は大きく変わります。また、CPUやメモリ、ストレージ容量、ネットワーク帯域といったハードウェアの要件に加えて、セキュリティやバックアップ体制など運用面の検討も不可欠です。

本記事では、中小規模の設計事務所でIT管理を担う方を想定読者として、VPSの概要と導入のメリット、そして快適なサーバー運用を実現するためのスペック設計と判断基準をわかりやすく解説していきます。

2. Project Sharing Serverとは何か?

引用:Vectorworksヘルプ:https://product-help.vectorworks.net/2024/jpn/VW2024_Guide/ProjectSharing/Concept_Project_sharing.htm

VectorworksのProject Sharing Server(以下VPS)は、複数のメンバーが同じプロジェクトファイルに同時アクセスする場合でも、データの整合性と安全性を保ちながら作業を進められるように設計された共有機能です。

このVPSを導入することで、単なるファイルサーバーを使った管理方式に比べて、格段に高いレベルでのデータ同期と権限制御が可能になります。たとえば、誰がどの部分を編集しているかをリアルタイムで把握できたり、意図しない上書きやファイル破損のリスクを抑制できたりするため、共同作業の効率化とエラーの削減が両立できる点が大きな特徴です。

近年、BIMによる設計や大型プロジェクトの比重が高まるなかで、ひとりの担当者が完結できる範囲を超える作業が増えています。そうした背景から、プロジェクト単位で設計作業を分担し、複数人が連携して設計データを同時に編集できる仕組みへのニーズが急速に高まっています。

この章では、VPSがどのような仕組みでチーム作業を支援するのか、その基本的な動作原理と実際の運用メリットを整理しながら、中小規模設計事務所でも導入しやすい現実的なアプローチについて解説していきます。

2.1. VPSの仕組みとメリット

VPSでは、プロジェクトファイル(拡張子:.vwxp)をサーバー側で一元管理し、ユーザーは各自の端末に「ワーキングファイル(.vwx)」を作成して個別に作業を行います。この方式により、ユーザー同士の作業が干渉することなく進行でき、最終的な変更内容はVPSを介して安全に統合されます。

この仕組みを活用することで、保存タイミングの衝突やアクセス権限の混乱といった、一般的なファイル共有方式にありがちなトラブルを効果的に回避できます。特に、図面ファイルの更新頻度が高いチームでは、こうした細かな制御の存在が作業品質の安定化に直結します。

さらに、VPSはバックアップ体制の強化にも寄与します。作業履歴を蓄積することで、必要に応じて過去の状態にロールバックできるため、万が一のトラブル時にも作業内容の復元がスムーズです。また、ファイアウォールやVPN環境との親和性も高く、拠点をまたいだ共同作業やリモートアクセスをセキュアに行える点も大きな利点です。

このように、VPSを導入することで同時編集環境が安定化し、設計チーム全体の作業効率を底上げできます。結果として、人的エラーの低減やリソースの有効活用につながる点は、設計現場にとって非常に大きな価値となるでしょう。

2.2. どんな現場に向いているか

VPSは、特に3人以上の設計者が同時に作業するような中規模以上のチーム構成で真価を発揮します。とはいえ、チームの人数だけでなく、プロジェクトの同時進行数やファイルの複雑度、データ容量といった観点も重要な判断材料になります。

たとえば、Vectorworksを活用して建築プロジェクトのコンセプト設計から実施設計までを一貫して行うようなチームでは、担当領域ごとにプロジェクトを分担し、かつ全体の整合性を保つ必要があります。こうした現場では、VPSを導入することで編集のロック管理やユーザーごとの作業権限の明確化が実現でき、作業ミスや重複修正といったロスを減らすことが可能です。

また、拠点が地理的に分かれている組織や、リモートワークを積極的に採用している企業にとっても、VPSの導入は有効です。VPNやクラウド対応のインフラと組み合わせることで、離れた場所にいるメンバーがリアルタイムでプロジェクトに参加し、安定して作業を共有できる環境を構築できます。

さらに、外部パートナーや協力会社との連携が多い場合にも、VPSのようなアクセス制御と履歴管理がしっかりした共有基盤があることで、情報共有の透明性とセキュリティを両立させることができます。

3. サーバー対応スペックをどう決めるか? 推奨構成と判断基準

Project Sharing Server(VPS)を導入するにあたって最初に検討すべきなのが、どのようなサーバー構成が自社の業務にとって最適かという点です。

VPSは軽量な仕組みではありますが、プロジェクトの規模やチームの構成によって、求められるハードウェアやネットワーク環境が変わってきます。現状使用しているPCやNASをそのまま活用できる場合もあれば、安定稼働や拡張性を考えて専用のサーバーや仮想マシンを新たに用意する方が適しているケースもあります。

最適なサーバー構成を選ぶためには、利用人数・ファイルサイズ・作業の同時性・ネットワーク構成など、複数の視点からの検討が必要です。また、CPUやメモリ、ストレージといった基本的なハードウェア性能だけでなく、RAID構成の有無やバックアップ体制、セキュリティ対策の整備状況まで含めて総合的に判断することが求められます。

本章では、VPSの導入にあたって考慮すべきサーバー対応スペックについて、基本構成の目安利用人数ごとの代表的な構成モデルに分けて詳しく解説していきます。

3.1. Vectorworks VPSに求められる基本構成

Vectorworksでプロジェクト共有機能を活用するには、VPSが常時安定して稼働できる環境を整えることが前提となります。そのため、OS・CPU・メモリ・ストレージ・ネットワークの各要素について、適切な選定と構成が必要です。

まずOSについては、Windows ServerやmacOS Ventura以降などのサーバー用途に適した安定性の高い環境が望ましいです。LinuxでもDockerを利用すれば対応可能ですが、ある程度の技術知識が必要になるため、導入時のリソースとスキルに応じた選択が必要です。

CPUは最低でもCore i5クラスを基準とし、同時接続数やプロジェクトの重さを考慮するなら、Core i7以上やXeonといった高耐久なプロセッサが望まれます。メモリは8GBが最低ラインですが、10名以上の同時作業や大容量データを扱う現場では16〜32GB程度を推奨します。メモリ容量は同時アクセス時の安定性に直結するため、余裕をもった設計が重要です。

ストレージはHDDよりもSSDを選択することで、読み書き速度が大幅に向上し、保存や同期処理がスムーズになります。RAID構成を導入することで、耐障害性とバックアップの冗長性も強化できます。ネットワークについては、少なくとも1GbE、有線接続を基本とし、プロジェクト数や作業頻度によっては10GbEへのアップグレードも視野に入れるとよいでしょう。

これらのスペックはすべて、「最低限動作する」レベルではなく、「快適に運用できる」ラインを見据えて構築することがポイントです。初期段階から拡張性と保守性を見込んだ設計を行うことで、長期的な安定運用につながります。

3.2. 利用人数別スペックモデル(早見表付き)

以下に、VPS導入時の判断材料となるよう、利用人数に応じたサーバースペックの目安をまとめました。あくまで一例ではありますが、構成を検討する際の参考としてご活用ください。

チーム規模推奨CPUメモリ容量ストレージ構成構成の特徴
1〜5名規模Core i5相当8GBSSD 256GB以上小型PCやNASでも代用可。軽量案件中心であれば問題なく対応可能。
6〜15名規模Core i7 / Xeon16GB以上SSD 512GB〜1TB専用PCまたは仮想サーバーでの運用が推奨。RAIDやUPSによる耐障害性の確保が望ましい。
16名以上の大規模Xeon / AMD EPYC系32GB以上SSD+RAID構成(1TB〜)高信頼性サーバー構成が前提。10GbE対応やバックアップポリシーの策定も重要。

これらのモデルに加えて、クラウドベースの構成や、社内LANを強化したハイブリッド運用モデルも選択肢として検討する価値があります。業務の成長やリモートワーク対応など、将来的な環境変化を見据えてスペックを決定することが、安定したVPS運用の鍵となります。

4. VPSを安定運用するためのポイント

Project Sharing Server(VPS)を導入しただけでは、快適な共同作業環境が整うとは限りません。継続的に安定した運用を実現するには、ハードウェア構成に加え、ネットワーク・セキュリティ・運用体制といった複数の観点から適切な対策を講じる必要があります。

この章では、VectorworksのVPSを実務で活用するために押さえておきたい安定運用の基本と実践的な管理のポイントを、テーマ別に紹介していきます。

4.1 ネットワークとセキュリティの基本設定

VPSはネットワーク経由で複数ユーザーとやり取りするため、通信経路の整備とセキュリティ設定の最適化が欠かせません。まず確認すべきは、VPSが使用する**専用ポート(デフォルトはTCP 22001)**が適切に開放されているかどうかです。ファイアウォールやルーターの設定でポートがブロックされていると、ユーザー間の同期処理に支障が生じる可能性があります。

また、VPNを利用して拠点間や外部パートナーと接続する場合は、通信の安定性や帯域幅の確保が重要になります。パケット遅延やタイムアウトによって、更新の反映にタイムラグが出るケースもあるため、高品質なネットワーク環境を前提に設計することが求められます。

4.2 バックアップと障害対策の体制づくり

サーバーを安定的に運用するうえで、データ保全の仕組みをあらかじめ構築しておくことは不可欠です。VPSではRAID構成を採用することでディスク障害への備えが可能ですが、外的要因(電源障害・マルウェア感染・人為的ミス)などへの対応には別の施策が必要です。

そのため、定期的なスケジュールに基づいたフルバックアップの実行が推奨されます。できれば、社内サーバーとは別系統のストレージ(NASやクラウド)にバックアップを二重化し、万が一のデータ喪失リスクに備えておくと安心です。

また、UPS(無停電電源装置)の導入や、サーバーの稼働状況を通知する監視システムなども、障害発生時のダウンタイム短縮と早期復旧の鍵となります。

4.3 ユーザー管理と運用ルールの整備

VPSを活用したプロジェクト共有では、ユーザーごとの役割とアクセス権限の整理がスムーズな運用の基盤となります。誰がどの作業領域を担当し、いつどのタイミングで反映処理を行うのかといったルールが曖昧なままでは、編集の衝突やトラブルが発生しやすくなります。

そこで、プロジェクト開始時にユーザー管理ポリシーや更新手順、共有ルールをドキュメント化しておくと効果的です。加えて、VPSのステータスや操作ログを定期的に確認し、トラブルの予兆や不審な動作を早期に検出できるような運用監視の仕組みも構築しておくと、より安定したチーム運用につながります。

5. 上級者向けTips:Dockerでも構築可能

引用:Docker公式:https://www.docker.com/ja-jp/company/newsroom/media-resources/

Project Sharing Server(VPS)は、従来の物理サーバーや仮想マシン上にインストールするだけでなく、Dockerを活用してコンテナとして構築・運用することも可能です。
Dockerは、OSに依存せずアプリケーションを実行できる軽量な仮想化技術であり、VPSのような軽量サーバーアプリケーションの配備先としても非常に有効です。

Docker環境を活用する最大の利点は、セットアップの再現性と柔軟性の高さにあります。通常、OSやミドルウェアのバージョン差異によって動作が不安定になることがありますが、Dockerではあらかじめ定義されたイメージをもとに環境を立ち上げるため、**「どこでも同じ環境を再現できる」**という特長があります。加えて、複数のVPS環境をテスト用途や拠点ごとに分離して展開することも容易です。

たとえば、LinuxベースのサーバーやNAS(Network Attached Storage)上でDockerを稼働させることで、物理マシンを追加することなく既存のインフラにVPS機能を柔軟に組み込むことができます。Dockerのボリューム機能を使えば、プロジェクトファイルやログの保存先をホストOSと連携させることも可能で、データの持続性と保守性を両立できます。

また、Dockerはリソース消費も比較的少なく、仮想マシンに比べてCPUやメモリの使用効率が高いため、限られたハードウェア環境でも安定して運用できるケースがあります。特に、テスト環境や教育用途、社内PoC(概念実証)として試験導入したい場合には、Dockerによる短期間かつ低コストな環境構築が魅力的です。

ただし、DockerでのVPS運用は便利な反面、一定の技術スキルが求められる点には注意が必要です。具体的には、ネットワークポートのマッピング設定、ホストディレクトリとのボリューム連携、Dockerイメージのビルドや更新方法の理解が求められます。とくに本番環境での利用を視野に入れる場合には、セキュリティや運用ルールを明確にしたうえで構築を進めることが重要です。

導入を検討する際は、まずは社内の技術チームや情シス担当者と連携し、小規模なテスト環境から段階的に試すことをおすすめします。慣れてくれば、将来的にはクラウドインフラと連携したスケーラブルなVPS運用の基盤としても活用できる可能性があります。

6. 導入判断のポイントとまとめ

Project Sharing Server(VPS)は、Vectorworksを用いた設計業務をより効率的かつ安定的に進めるための強力なインフラです。とくに複数人での同時作業や大規模なプロジェクトを扱う現場において、その価値は非常に高く、ファイルの整合性確保・作業分担・エラー削減・スピードアップといった多くの面で導入効果が見込めます。

導入を検討するうえで、まず押さえておきたいのは、サーバー対応スペックの妥当性と余裕度です。必要最低限の構成でも動作は可能ですが、日常的な業務で安定したパフォーマンスを得るには、余裕を持ったスペック選定が欠かせません。CPU・メモリ・ストレージ・ネットワーク帯域といった要素を、業務規模や将来的な拡張性も見据えて設定しましょう。

次に重視すべきは、自社やチームの働き方や体制との適合性です。現在の作業人数やワークフローだけでなく、今後プロジェクトが増加する見込みがある場合や、外部パートナーとの連携が増える可能性がある場合には、初期導入時点から拡張性や柔軟性を意識した設計が望まれます。仮想マシンやクラウド連携を活用すれば、将来的な変更にも対応しやすくなります。

また、運用面ではIT担当者によるサポート体制とルールの明文化が重要です。ユーザー管理やアクセス権の設定、共有ルールの取り決めが曖昧なままだと、トラブルや情報漏洩のリスクが高まります。導入段階から「誰が・どこまで・いつ作業できるのか」を明確にし、VPSの運用方針をプロジェクト単位で整備しておくことで、チーム内の混乱を未然に防ぐことができます。

さらに、Dockerによる構築やクラウド運用への対応も今後の選択肢として検討する価値があります。まずはオンプレミスの専用サーバーから始め、必要に応じて仮想化や拠点展開に発展させるなど、段階的な導入戦略が中小規模の設計事務所にも現実的です。

これらを踏まえてVPSを導入すれば、Vectorworksを中心としたチーム設計環境において、「速く、正確で、安全な」共同作業基盤を確立することができます。煩雑だった作業の調整やファイル管理の手間が減り、メンバー全員が設計業務そのものに集中できるようになります。

VPSは決して敷居の高い仕組みではありません。適切なサーバー対応スペックと運用体制を整えれば、中小規模の設計組織でも手軽に導入できる、現実的かつ効果的なソリューションです。プロジェクト共有の可能性を広げ、設計品質と業務効率の向上を目指す一歩として、ぜひ導入を前向きに検討してみてください。

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参考情報

・Vectorworksヘルプ:プロジェクト共有

https://product-help.vectorworks.net/2024/jpn/VW2024_Guide/ProjectSharing/Concept_Project_sharing.htm

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