iPhoneにAR体験を与えるARKitとは
アプリの配信状況を調査・分析するSensorTower社は、ARKitを利用して作られたアプリのダウンロード数が1,300万に達したと報告しました。ARKitはiOS11で搭載されましたので、わずか半年程度で達成したということになります。今回はこのARKitについてまとめてみましょう。
iOSに搭載されているCore Motion
現実世界にデジタル情報を付加するARアプリでは、デバイスの移動に合わせて変化する現実世界との位置関係を、正確にトラッキングする必要があります。そのためにはカメラに搭載された各種センサーの情報が重要です。iOSには、Core Motionと呼ばれるデバイスのモーションデータを取得できるFrameworkが実装されています。加速度・ジャイロから相対高度・気圧まで各種情報を利用できます。
A9以上のプロセッサで動作
正確にトラッキングした現実世界に合わせて、バーチャルコンテンツの大きさや形状をリアルタイムで変化させ重ね合わせる処理は、iPhoneのプロセッサーが行います。A9、A10、A11のプロセッサーがARKitに対応し、高速で最適化されたレンダリングにより、魅力的なコンテンツを表示します。
最高ではないが最適な選択
HoloLensやGoogleのTangoなど、ARKitに先行する技術は他にもあります。実はARKitには一部制約もあり、性能だけを比較すると決して最高とは言えません。
認識できる空間形状に制約がある
現状ではバーチャルコンテンツを配置する基準となる対象物は「水平な平面」に限られ、ある程度の広さを必要とします。そのため、カメラ内に写っている人物の肩にキャラクターのようなバーチャルコンテンツを配置する、といった事はできません。これはiPhoneのカメラに深度や対象との距離を正確に測定する機能がないためです。しかしHoloLensなどは赤外線を利用した距離線センサーが搭載されているため、このような複雑な空間形状でも即座に認識することができます。
iPhone同士で位置情報を共有することができない
現実世界に配置されたARオブジェクトを複数人で同時に見る、というようなことがARKitを使ったアプリでは作ることができません。iPhone同士で位置情報の共有ができないのがその理由です。現在のところ、それぞれのアプリはソロで利用する用途に限られています。早くiPhoneを片手にバーチャル世界でパーティを組めるというようなゲームが、手軽に遊べるようになればいいなと思いますよね。
先行技術を洗練し、最適化して提供
このように決して最高の機能を持っている訳ではないARKitですが、Appleの現在の戦略としては最適な選択かもしれません。Appleは、ハード・ソフト・デザインなどには不必要と思えるほど、こだわりと最高品質を求める企業ですが、ユーザーに提供する部分は「なんでもできる」ものばかりではありません。先行技術をブラッシュアップして最適化し、ユーザーにとって最も使いやすい形にして提供する、という企業文化があります。ARKitについてもそのような哲学の片鱗を感じる気がするのは筆者だけでしょうか。
世界最大のプラットフォームで利用可能
スマホ向けARアプリというカテゴリーで考えると、ライバルとなるのはAndoroid陣営ということになります。GoogleもAndroidで利用できるAR Coreというプラットフォームをリリースしていますが、対応するデバイスの数ではAppleが圧倒しています。ARアプリを動作させるのにはそれなりのハードウエア性能とOSの対応が必要ですが、Androidは数多くの端末が存在しており、その全ての機種において最適化するのは不可能です。当然最新モデルかそれに近いものだけが対象となるのに比較して、iPhoneの方はA9プロセッサー以上の機種であれば動作します。全世界にある端末の実に86%で利用可能と推計されています。ARKitは、世界最大のARプラットフォーム向けの専用ツールといえます。
多くの開発者に魅力的な市場を提供
Appleはハードとソフトの両方を販売する世界最大のメーカーであるという点も忘れてはならないでしょう。ARKitのリリースによって今後の製品については、ARアプリの動作を前提とした機能追加やチューンナップがなされるはずです。ハードとソフトを同じメーカーが作っているからこそ、最適なバランスと操作性を実現することができます。決して最高性能でなくても最適なバランスのARKitだからこそ、世界最大のプラットフォームを活かすことができるとも言えます。
iOS11.3ベータ版では、早くもARKitがver.1.5にアップデートされると発表されました。iPhoneXから顔認識用に搭載されているTrue Depthカメラは、被写体との距離や対象となる物体の変化を高速で認識する高性能カメラです。このカメラが前面に搭載されるようになると、前述したような現実空間の認識精度がアップしさらに魅力的なARアプリが作れるようになるでしょう。今後各メーカーが凌ぎを削って開発競争しているAR技術において、世界最大のプラットフォームを持つAppleがその存在感を増していくのは間違いないでしょう。
株式会社キャパでは、AR・VR・CADの開発・改善についてご相談を承っています。
作業効率化したいので、具体的な提案が欲しい。頭の中にあるアイデアを本当に実現できるのか知りたい。予算内に収まるのか?
などのお客様のご相談に、親身に応じます。
VR開発:サービスのご紹介