IoTはCADの最強のパートナー?IoTから見える設計・製造の未来
さまざまな場面で耳にすることが増えた“IoT”のテクノロジーによって、わたしたちの生活に関係する多くの分野で大きな変化が生じています。
2020年にはIoTの年間成長率は30%を超え、市場規模は3兆ドルに上るともいわれていますが、この記事では
1. IoTとはどんなテクノロジーか
2. IoTは建設分野にどのような変化をもたらすか
3. IoTとCADの連携による可能性
について記述します。
IoTとは?
IoT(Internet Of Things:モノのインターネット化)とは、インターネットに接続さることを前提として作られたのではないさまざまなモノがセンサーや電子的なネットワークを介して相互に情報を交換・共有し、把握されて適切にコントロールされることを可能にするテクノロジーです。
IoTでは製品や建築物の各所に組み込まれたセンサーが生成するあらゆるデータが適宜収集され、IoTのプラットフォームに集められ、収集された膨大な量のデータがコンピューターによって分類・解析され管理されます。
その膨大なデータ自体やデータの中から発見された特定のパターンは製品・サービスの開発や改良に活用するディープラーニングに用いられたり、人間の管理者のもとに提供されたりします。
さまざまな製品が手や足、耳、目のような末端器官となって情報をプラットフォームという一つの頭脳にあつめるIoTのしくみは、いわば“モノの感覚器官化”とも表現できるかもしれません。
わたしたちの身近なところで活用されているIoT
IoTはわたしたちの生活の中ですでに広く実用化されています。
たとえばコピー機メーカーはIoTによって、あらゆる場所にリースされている自社製品の保守・点検のためサービスエンジニアを訪問させるコストを削減することに成功していますし、待ち時間を短縮するためにスマートフォンを使って運行情報を確認できるエレベーターなどもIoTの技術を利用しています。
このほかにも、さまざまな製品がIoT化することにより、製品の使用される時間や使用状況などのデータが随時収集され、どのタイミングで消耗品を交換すべきか、どのような状況で製品は故障したりエラーを起こしたりしやすいかなどが解析されて、それらのデータが製品の改良やサービスの向上に役立てられています。
IoT、そしてBIMによって建築設計に加わる新しい視点
IoTは建築分野で長年にわたり解決が困難とされてきた長期的なコスト管理の問題を解決するシステムとしても期待されています。
竣工後に顕在化するファシリティマネジメントの問題
建物が竣工されて施主に引き渡されたあとに建物の所有者が直面する課題の一つがファシリティマネジメントの問題です。
「ファシリティマネジメント」とは竣工後の建物の維持管理のことで、建物が使用され始めた後に発生する税金や光熱費、保守・点検や最終的な解体にかかる費用の管理が含まれており、寿命40年のオフィスビルを例に上げると、ファシリティマネジメントには建設・設計費の約3倍の費用がかかるといわれています。
ファシリティマネジメント問題の原因
ファシリティマネジメントは近年に至るまで設計とは切り離して考えられてきたため、設計は建設会社、維持管理は管理会社が行なうという分離した形となっていました。
フランスの大手重電メーカー、シュナイダー・エレクトリック社のCEOであるジャン=パスカル・トリコア氏は、ほとんどのビルで消費されているエネルギー全体の80%は無駄なものであるとし、適切な省エネ施策を行えばかなりのランニングコストが抑えられる可能性を指摘しています。
とはいえ設計段階で施工後の保守・点検のコスト管理がほとんど考えられていなかった建物では、コスト削減のためにビル管理会社やビル利用者の努力による消費エネルギー削減には限度がありました。
つまり計画段階で維持管理費、とりわけ建物の省エネ性能を念頭においた設計を行わなければ、建物の解体まで無駄な維持管理費を払い続けなければならなくなるのです。
BIMによる設計でファシリティマネジメントは大きく改善する
現在、ファシリティマネジメントの問題解決のために広く活用されつつあるのがBIMによる新しい設計方法です。
3DCADによる建物の3Dモデルに、色や形だけでなく物体の素材や熱貫流率やコストなどの属性情報を持たせたデータをもとに綿密な設計を進められるBIMデータを利用することにより、竣工後の運用や維持管理などに大きく関わる季節ごとの日照や熱貫流率などを細かくシミュレーションすることが可能になりました。
BIMによる設計では、計画当初から省エネという視点を持った設計を行えるため、ファシリティマネジメントの問題は大きく改善されつつあります。
IoTによるファシリティマネジメントの進化
IoTは3DCADやBIMと直接連動するシステムではありませんが、BIMと協働することによりファシリティマネジメントのさらなる進化を期待できます。
3DCADとBIMでは設計段階から、IoTでは運用段階から建物のファシリティマネジメントの最適化と省エネを図ることが可能になりましたが、どちらも比較的新しいテクノロジーであるため、今後もさらなる進化と発展が期待できるでしょう。
セキュリティ設備も空調設備も一括管理
IoTによる維持管理を導入するなら、1つのインターフェースによってビルのあらゆる情報をリアルタイムで把握しコントロールすることが可能です。
ワイヤレス通信で接続されたHVAC(Heating,Ventilation, and Air Conditioning)設備や照明設備、セキュリティ設備を集中管理できるためエネルギー効率の最適化を図ることが容易になります。
ビル専用エネルギー管理システム「BEMS」
一般住宅のように使用電力が上がればブレーカーが落ちるというシステムを導入できないビルでは、なんの対策も行わなければ無制限に電力が消費されつづける状態にありますが、BEMSを導入すれば建物内各所に設置した電力センサー・人感センサー・温度センサーなどから情報を集め、消費電力をコントロールできるようになります。
また、オフィスビルや商業ビルなどでは突如電力供給がストップすると大きな問題になってしまうため、消費電力が
増加した際にもエアコンの温度設定や照明の光量を自動調整することにより消費電力を抑えるというシステムを導入することも可能です。
IoTとCADの連携による設計・製造の新しい可能性
特に機械設計の分野でIoTはCADと連携することにより新たな設計・製造の可能性を開くテクノロジーとして注目されています。
IoTとCADによる「デジタルツイン」とは
「デジタルツイン」とはコンピューター上の3DCADデータと現実のフィジカルデータがリアルタイムで連動している状態を指します。
つまり、設計された3Dモデルをもとに精密なセンサーを搭載した実物を組み上げることにより、現実世界に存在するプロダクトの双子(ツイン)がデジタルの形でコンピューター上に存在する状態となります。
この“双子”はどちらもリアルタイムに同じ状態で同じ動作をするため、例えばクレーンのデジタルツインを作成すると、現実世界のクレーンが回転すればコンピューター上のクレーンも回転し、現実世界で転倒すればコンピュータ上でも転倒します。
IoTとCADのこれから
IoTを応用したデジタルツインのテクノロジーにより、実物のテストでは確認できないような部分の振る舞いや不具合を明確にチェックすることが可能になるため、設計・製造の時間短縮と精度向上が実現しています。
また、近い将来にこのテクノロジーがより進化すれば、物流センターの荷物・リフト・人の動きや、ビル内の電気設備の稼働状況などをリアルタイムで3次元的にモニタリング・記録し、リスクの発見や発生した問題の解決に役立てられるようになるかも知れません。
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