Revit2020の新機能で加速するBIMとPDFとの連携
この記事を読むと以下の3つのことが分かります。
①BIMとRevit、PDFの関係
②RevitにおけるPDFの読み込み
③RevitにおけるPDFの出力
本稿ではRevit2020で追加されたPDF読み込み機能に焦点を当てながらBIMにおけるPDFの存在や、RevitのPDF読み込みや出力機能、更には3D PDFについても取り上げて参ります。
BIMとRevit、PDFの関係
建築・設計分野で主に普及しているBIM(Building Information Modeling)は、3Dモデルデータを作成し、素材などの属性情報をもたせ、施工・管理にまで情報を活用するワークフローです。直感的に把握できる3Dモデルを使い、建物に関する情報をBIMで一括管理することによって効率化やコストの削減を図ります。
このBIMを作成するソフトウェアとしては、AutodeskのRevit、GRAPHISOFTのARCHICAD21、VectorのVectorWorks Architect(日本での販売元はエーアンドエー株式会社)、福井コンピュータアーキテクトのGLOOBEが有名ですが、今回は大手であるAutodeskのRevitを取り上げ、PDFとの連携について筆を進めていきます。
利便性によって広く普及したPDF
PDF(Portable Document Format)はAdobeが提唱する文書のフォーマットです。OSなどの閲覧する環境に左右されず、文章や画像のレイアウトが保てるため、マニュアルなどに活用されています。AutodeskのRevit導入事例も、公式サイトにてPDFファイルとして提供されています。
PDFは文書のフォーマットですが、テキストのほか画像ファイルや表計算も含めることができます。
閲覧や印刷に使えるビューアがAdobeから無償で提供されているほか、GoogleのChromeなど主要なブラウザであればプラグインなしにそのまま閲覧および印刷ができるため、その利便性によって広く普及しています。
BIMとPDF、Revitの関係性
3Dモデルを中心に据え、そこに素材などの属性情報を集約するのがBIMの概念です。直感的に理解しやすい3Dモデルがプロジェクトの中心ではあるものの、その中には2Dデータも含まれており、協働先や施主のために一部分だけ入出力するケースも出てきます。
Revitは2Dデータを出力する際、PDFが選択可能です。読み込みに関してはRevit2020で対応可能になりました。(ただしRevit2019以前のバージョンではPDF読み込みがサポートされていません)
Revit2020の新たなPDF読み込み機能に関しては後述しますが、他社製ソフトウェアとの連携も多いAutodeskらしい進化と言えます。
RevitのPDF読み込みに関して
PDFの読み込みに関してはRevit2020から対応しています。それ以前のバージョンではPDFを出力することはできても、読み込むことはできません。また、廉価版のような扱いのRevit LT2020でもPDFは読み込み不可となっています。
このRevit2020における新機能については、Autodeskが英語の紹介動画をリリースしています。
(*1)
Revit2020で新たに追加されたPDF読み込み機能
PDF読み込みに対応したRevit2020ではPDFを2Dビューから読みこんで、モデル作成の際に参照として使用することが可能です。この際PDFは画像ファイルと同じ扱いになります。画像ファイルと同じ扱いですので、読み込み以降も[イメージを管理]ダイアログにて扱うことになります。PDFに複数のページがある場合、ページ番号かサムネイルで読み込む対象を選択します。
読み込む際には解像度を選択可能です。解像度が高いものほどクリアに表示され、画像の細部が潰れるようなケースは減りますが、当然データは重くなります。読み込んだPDFファイルは他の画像ファイルと同様、コピーや回転、前面や背面への移動、拡大縮小が可能となっています。
PDF読み込みには多数のオプションがあり、1つのPDFファイルから複数のページを展開可能です。[イメージを管理]ダイアログからPDFファイルをリロードすることによって情報更新ができます。
読み込んだPDFにベクターデータがある場合
読み込まれたPDFがベクターデータを内蔵している場合、そのラインをトレースできる機能もついています。スナップオプションを選び、ベクターデータとして残された線を選択するだけでトレース可能です。
ベクターデータでは線分や曲線(パス)の作成に数式が使用されます。後述するラスターデータと異なり、イメージを拡大しても線のなめらかさは保たれたままです。
ベクターデータは一般的な画像ファイルの、JPEG、GIF、PNG、BMP形式では保存されません。EPSやSVG、そしてPDF形式であれば保存可能となっています。Revit2020での新機能があれば、PDFに内蔵されたベクターデータが利用可能です。
PDFのデータ管理に関して
読み込んだPDFは画像ファイルとして扱わるため、[イメージを管理]ダイアログで処理することになります。PDF専用のダイアログが用意されるわけではありません。
[イメージを管理]ダイアログでは、PDFの追加と更新が可能です。またページナンバーやサイズもプロパティで確認可能となっています。
PDF読み込みの回避策
Revit2019以前の製品でPDFを読み込むための回避策がAutodeskによって提案されています。ただし、あくまで便宜的なもので、あまりスマートなものではありません。
【回避策1】PDFをラスターイメージに変換し、それをイメージとして読みこむ
【回避策2】AutoCADを使用しPDFをインポート。それをDWGで保存してRevitに渡す
世界中に普及し、汎用性が高いはずのPDFファイルに対して一手間も二手間もかける内容となっています。また、一度ラスターイメージにしてしまうとベクターデータが損なわれるので、Revit2020使用時のようにラインを選択してトレースすることができません。Revit2019以前における処理のもどかしさに比べると、Revit2020で追加されたPDF読み込み機能は実にスマートです。
RevitにおけるPDFの出力に関して
PDFの出力には、PDF出力ドライバが別途必要になります。AutodeskナレッジネットワークにてPDF出力の詳しい手順が載っております。
(*2)
PDF出力ドライバについて
Windows10ではデフォルトでPDF出力ドライバ(Microsoft Print to PDF)が入っており、別途用意するものはありません。
しかし、Windows8やMac OSではPDF出力用の環境が整っていない場合があります。PDF出力ドライバがない場合、コンピュータの環境に適したものを導入します。システム管理者がいる場合は、導入を依頼することになります。
RevitによってPDF出力時のベクター処理が行われた場合
ベクター処理では線分や曲線(パス)の作成に数式が使用されます。拡大しても劣化が見られない、なめらかな線が保持されます。Revitもこのベクター処理を用いて2Dデータを出力可能です。ベクターデータが内蔵されたPDFは、Autodesk製品にとっても、他社製ソフトウェアにとっても利便性の高いものになります。
シートやビューによっては、後述するラスター処理による方式と比較され、ベクター処理ではなくラスター処理が選ばれることがあります。
RevitによってPDF出力時のラスター処理が行われた場合
ラスターイメージは数式ではなくピクセルによってイメージが構成されています。拡大するとイメージがピクセルの集まりであることが分かります。拡大率によってはジャギー(平たく言うとギザギザ)が目立つこともあります。
ベクター処理よりも品質が低くなりますが、Revitでは一部の出力においてラスター処理が必須となります。以下の場合はラスター処理が適用されます。
・ビューでシェーディング、影、グラデーションや手書き風の線、奥行きの表現が使われている
・ビューがレンダリングされている
・ビューにイメージが含まれている
・ビューに点群が使用されている
・ビューにデカル転写が含まれている
上記のラスター処理は出力の際に処理が重くなる傾向があります。
3D PDFの出力について
3D情報が含まれている3D PDFの出力についてRevitは標準対応しておらず、サードパーティー製ツールの利用が必要となっています。Autodeskのナレッジネットワークでも未対応である状況が説明されており、サードパーティー製ツールの候補がいくつか紹介されています。
(*3)
Autodesk APP STOREで展開されているもの以外にもツールは存在します。既に100件以上もの導入がなされ、十分な実績をもっているものに、スマートスケープの3D PDF for Revitが挙げられます。
スマートスケープの3D PDF for Revitには無償体験版が用意されており、またRevitだけではなく、Navisworks向けの製品もあり、大手であるAutodesk製品の強みがここでもうかがえます。
(*4)
まとめ
RevitにおけるPDFの読み込みと出力について触れて参りました。Revit2020で新たに追加されたPDF読み込み機能によって、ベクターデータから線分を簡単に作成できるようになったため、他社製CADソフトウェアなどで出力されたベクターデータ入りPDFが非常に便利なものとなりました。
このPDF読み込みはAutodeskが目指す自社、他社を問わないソフトウェア同士の連携が垣間見える新機能です。この新機能によってBIMに含まれる2Dデータのやりとりがより効率的で無駄のないものになりました。PDFを高頻度で扱うRevitユーザーにとっては、紛れもない一大進化と呼べるでしょう。
(*1) https://youtu.be/RqJ0hgJ9sIA
(*4)https://www.3dpdf.jp/%E8%A3%BD%E5%93%81%E6%83%85%E5%A0%B1/3dpdf-for-autodesk/
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