Amazonの生成AI「Amazon Q」がついにデビュー
2023年に大きな話題となったものの1つとして、ChatGPTの登場をきっかけに起こった「生成AIの実用化」があります。それまでにも画像生成AIなどがありましたが、一般の人も簡単に利用でき、自然言語を理解するAIの登場が大きなインパクトを与えました。
MicrosoftやGoogleも、自社サービスへの生成AI導入を進めており、今回ついにAmazonも独自の生成AIを発表しました。今回はその話題について、取り上げてみたいと思います。
この記事でわかること
・Amazonの生成AI「Amazon Q」の特徴について
・MicrosoftやGoogleの生成AIとの違いについて
・ChatGPTとの違いについて
Amazonの生成AI「Amazon Q」の特徴
「Amazon Q」は、Amazon傘下のAWS(Amazon Web Service)が開催した「re:Ivent2023」で発表されました。2023年11月のことです。
「Q」という名称を見てピンと来た方は、往年の映画好き・SF好きかもしれません。英国情報部員が活躍する「007シリーズ」では、改造車や武器などを開発する責任者のコードネームが「Q」でした。
また、スタートレックシリーズの第二作「新スタートレック」の第一シーズンに登場し、ピカード艦長に無理難題を押し付ける「高次元生命体」も「Q」と名乗っていました。
AWSのゼブリスキー氏によると、この両者をイメージして「Q」と名付けたとのことです。オタク心をくすぐる面白い名称です。ひょっとしてゼブリスキー氏も、かなりオタク気質があるのかもしれません。
「非常に高い能力を持ち、これまでとは違う新しい何かを提供する」存在としてなら「Q」の名称はふさわしいでしょう。特に「007」に登場する「Q」は、ガジェット好きにはたまらないツールを作品のたびに生み出してくれました。
ちょっと気になるのは、スタートレックの方の「Q」は、登場するたびに混乱をもたらす「トラブルメーカー」だったことです。
ちょっと脱線しすぎましたので、話を「Amazon Q」に戻しましょう。
現在「Amazon Q」は、プレビュー版として利用可能です。AWS利用者に対するサービスであり、業務に合わせて柔軟にカスタマイズできる点に特徴があります。
利用する企業が持つ固有の情報にアクセスすることで、その企業独自のコンプライアンスやルールに即したアドバイスを生成することができます。
例えば利用者が外部向けの文章を作成し、「この部分・表現は企業ルールに抵触しないか?」などの質問に対し、企業内のデータを参照した上で的確な回答を出してくれます。
また、40種類以上のコネクタが組み込まれており、それぞれの会社で運用しているシステムと簡単に接続が可能です。Amazon S3・Dropbox・Google Drive・Microsoft365・Salesforceなどが対象です。おそらく、これらのサービスを一切使ってないという企業は少ないでしょう。
またAWS上で構築されており、AWSアプリケーションを利用している顧客向けに提供されています。AWSマネジメントコンソールだけでなく、ドキュメントページ・Slak・サードパーティにチャットアプリからアクセス可能で、チャットで支援するアシスタントとして機能します。
利用料は、ビジネスプランが一人当たり月額20ドル。ITプロフェッショナルや開発者向けの上位版が、一人当たり月額25ドルです。これはMicrosoftのCopilotや、GoogleのDuet AIが月額30ドルなのに比較して、やや安い水準です。現在、対応言語は英語のみで日本語は使えません。
生成AI開発基盤である「Amazon Bedrock」を活用し、複数のLLM(大規模言語モデル)を組み合わせることで、特定のAIに依存せず柔軟な運用ができる点に大きな特徴があります。
AWSのデータ・人工知能担当バイスプレジデントである、スワミ・シヴァスプラマニアン博士は「このツールによって、人々があらゆることを行う方法を再構築できる」と高らかに宣言しています。
同じくAWSのアダム・ゼブリスキーCEOも、基調講演で「普通のAIチャットアプリは便利だが、業務で活用するのは難しい」と述べており、あらゆる業務に柔軟に活用できるものとして「Amazon Q」を紹介しています。
当然ながら、AWS利用者に対するサポート機能が充実しており、AWSの使い方を調べたり、必要な機能について学ぶような時にチャットで質問することができます。一般的な業務でももちろん有効で、文章の作成・電子メールの下書き・会議の議題の作成など、日常的なタスクを支援してくれます。
また、紹介されている事例の一つに開発者支援があります。例えば「ゲーム開発で映像のエンコードをする時に、高いパフォーマンスを発揮するAmazon E2インスタンスは?」といった質問に対して、「V1インスタンス」と答えた上で、その理由を教えてくれます。
”開発者がコーディングする時に、膨大なマニュアルや仕様書を隅々まで把握しなくともいい。さらに全てを知っている頼りになるアシスタントが、最適な手法をアドバイスしてくれる。”
この事からも、「Amazon Q」はかなりの開発者労力を削減し、スピーディで最適な開発を支援してくれる優秀なツールとなるのではないでしょうか。
さらに、開発中にバグが生じた時も「TroubleSheet with Amazon Q」というボタンを押すだけで、エラーの修正方法を提示してくれるなど、コーディング支援機能があります。
プログラミングの中でも、バグった場所を特定し修正する作業が一番手間がかかる部分ですので、この機能は非常にありがたいです。
実例として、5人の開発者チームがJava8で作成した1000種類のアプリケーションを、Java17へアップグレードする作業を、わずか2日で完了したと報告されています。手作業ではとても不可能なスピード感です。
おそらく「Amazon Q」にアップグレードをさせ、その動作確認をするだけの作業だったのではないでしょうか。しかも2日で完了ということは、ほとんど問題は発生しなかったのかもしれません。
「Amazon Q」のもう一つの特徴として、高度なセキュリティがあることです。ベースとなるプラットフォームがAWSであることはもちろんですが加えてユーザーごとに、アクセスできる情報の範囲を設定することが可能です。
社内情報であっても、職域や職務によってアクセスできない情報を区別することができます。*注1
MicrosoftやGoogleの生成AIとの違い
では、先行するMicrosoftの「Copilot」や、Googleの「Duet AI」との違いはなんでしょうか?
MicrosoftやGoogleは、オフィス関連製品やGoogle Driveなどの業務関連アプリとプラットフォームを提供しています。この2社に関しては、自社製品を使う上でのアシスタント機能として、AIを設計・提供していることがポイントです。
それに対して「Amazon Q」の場合は、Google DriveやOffice365などの他社アプリとも連携できる点が大きな特徴です。「Amazon Q」を使いたいから、社内アプリを全部切り替える、という必要がありません。
今利用しているアプリを使いながら、「Amazon Q」による支援を受けることができます。ただし、「AWSを契約していれば」という条件付きですが。
また、MicrosoftやGoogleが、自社サービスに関連するサポートを中心としているのに対して、Amazonはマーケティングや営業、人事、総務などの専門職を対象とした、より高度なサポートができる点に優位性があります。社内データにアクセスし、情報を集めた上で最適な回答を出すことが可能です。
例えば、総務部で社内規定を改訂しようとする際に、過去の関連する規定を参照し、現在どの規定が有効でいつ頃実施されているのか、他にバッティングする規定がないかなどを確認するのは、それなりの労力が必要です。
それを社内文章に精通しているアシスタントが瞬時に検索し、提示してくれるのは非常にありがたく、実務経験者ならその恩恵を実感できるはずです。
これまで生成系AIの業務利用としては、プログラマー支援や表計算上でスクリプトを組むなど、ある特定の分野での有効性がメインでした。もちろん、文章のまとめや修正、アイディアの提案などにも使えていましたが、劇的に業務効率を改善するとは言えません。
情報元の信頼性なども確認が必要ですし、最終的には人間が確認し責任を持つ必要があります。
しかし「Amazon Q」は、このような生成系AIの一歩先のステージへ、着実に進化したように思えます。ネット上にある有象無象の情報から平均的な答えを導き出すのではなく、個別企業の社内ルールを熟知した上で、適切なアドバイスを与えてくれます。「Amazon Q」は、優秀なコンシェルジュであり、アドバイザーとなりえるでしょう。
柔軟性と信頼性、堅牢なセキュリティを持ち、幅広いシチュエーションで利用できる。ユーザーにとっても使いやすい設計で、特別な知識や経験がなくとも気軽に使える。
まだ途上したばかりの新しいAIツールですが、非常に期待できる仕様になっていると思います。*注2
ChatGPTとの違い
「ChatGPT」は、ネット上にある真偽不明の大量の情報から、質問に対する平均的な回答を生成する仕組みです。そのため、もし質問の内容に対して確実な正解を持ってなくても「それらしく見えるような回答」を生み出してしまう危険があります。
どんな質問に対しても、即座にもっともらしく聞こえる回答を導き出して、視聴者を煙に巻いている人気YouTuberがいますが、「ChatGPT」もまさにそのような感じです。
特に専門分野でもないのに、ネット上の情報をつまみ読みし、多少アレンジを加えて端的に応える。それが事実に基づくものか、深い知識や経験の上での回答なのか不明です。
一方「Amazon Q」は、「かなり真面目で信頼性の高いアドバイザー」と言って良いでしょう。実際に利用した人の事例では、プロンプトに「Hello」と気軽に挨拶しても「すいません、私にはその質問に回答することができません。AWSに関する別の質問をどうぞ」と冷たく返してきます。
スタートレックシリーズに出てくるコンピューターも、質問に対する正確な情報を持っていない時には「データがありません」と答えてくれます。
実は、何に対しても即座に回答する方が、逆に信頼性は薄いと言えます。前述のYouTuberのように、どんな話題に対してももっともらしく意見をいう人より、「すいません、それは専門ではないのでわかりません」と言う人の方が信頼できます。
「Amazon Q」は汎用性が広く、AWSに関連するサポートが充実しており、信頼性も高い。それが「ChatGPT」との大きな違いでしょう。しかし残念なことに日本語非対応であり、音声チャットにも対応はしていません。
【まとめ】
「コンピューター、このプログラムに◯◯機能を追加してくれ」「明日のスケジュールを変更し、相手先にメールで伝えてくれ」「この契約書の内容について精査し、リスクを列挙した上で修正案を提示してくれ」などなど、日常業務のさまざまな場面で、今後はAIの活用が進むでしょう。
私たち人間は、煩雑で雑多な作業から解放され、よりクリエイティブな業務に集中することができます。そんな理想の未来が、現在進行形で今実現しつつあります。そう考えるとなんだかワクワクしてきます。
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❸DXレポートについて
❹建設業界におけるDX
■参考文献
注1
AWS 「Amazon Q(プレビュー)」
「生成系 AI を活用した新しいアシスタント、Amazon Q のご紹介 (プレビュー)」
Impress Watch 「アマゾンの生成AIアシスタント「Amazon Q」 AWSが展開」
https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1550527.html
日経XTECH 「AWSが生成AIアシスタント「Amazon Q」発表、クラウド熟知し開発を支援」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02662/112900002/
MONOist 「AWSが生成AIアシスタント「Amazon Q」発表」
https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2401/05/news033.html
AI Smiley 「Amazon、ビジネス向けの生成AIアシスタント「Amazon Q」を発表」
https://aismiley.co.jp/ai_news/amazon-web-service-amazonq-chat-ai/gihyo.jp 「AWS??、生成AIを活用したアシスタント機能「Amazon Q」を発表」
https://gihyo.jp/article/2023/11/amazon-q
注2
日経ビジネス 「Amazonの生成AIサービスは「オートマ車」 Microsoft・Google追う」
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00511/120600024/
Google Cloud 「Duet AI は AI を活用したコラボレーターです」
https://cloud.google.com/ai/duet-ai?hl=ja
Microsoft 「Microsoft Copilot」