モデルベース定義(MBD)とは?導入のメリットと活用方法を解説
よくある製造業の課題といえば、「工程のムダ削減」や「新製品開発のコスト」ではないでしょうか?
この両方を解決することができるのが「モデルベース定義」(MBD)の活用です。
この記事では、製造業の新しい手法「モデルベース定義」についてご紹介します。
最初にモデルベース定義の概要を確認してから、活用方法とメリットを見ていきましょう。
最後に国内3社の導入事例も載せていますので、自社でのスムーズな導入方法を検討してみてください。
この記事を読むと以下の3つのことがわかります
1.モデルベース定義とは
2.モデルベース定義を取り入れるメリット
3.3社のモデルベース定義導入事例からわかるスムーズな導入方法
モデルベース定義とは
まずはじめに、モデルベース定義とはどんなものか、概要を見ていきましょう。
モデルベース定義とは、3Dモデルに注釈を埋め込んだものです。(*1)
昔ながらの工程を残した中小企業の場合、こんな悩みがあるのではないでしょうか?
「設計部門は3Dモデルを使っているけど、製造部門は2D図面が必要だから、図面を変換しなければならない」
「新製品を開発したいけど、試作品のコストがネックになって挑戦できない」
そこで、モデルベース定義の手法を取り入れるとどう変わるでしょうか?
製造部門に必要な注釈は3D モデルにすでに入っているので、2D図面に変換する必要がありません。
さらに、3D モデルを使って高度なシミュレーションができるので、試作品を作って試験を行うコストと手間が削減できます。(*1)
こうして、モデルベース定義の導入は、作業時間とコストの大幅な削減につながります。
モデルベース定義の活用方法
モデルベース定義は、製造業の競争力アップにおいて重要な手法です。
ここからは、モデルベース定義の活用方法について見ていきましょう。
3Dモデルを仕様書として使える
これまで、製造部門で必要な情報は、2D図面に注釈として記載されたり、仕様書として別に添付されていました。
ですが、モデルベース定義を導入すると、PMI(製品製造情報)を3Dモデルに直接組み込むことができます。(2)(3)
3DモデルにPMIがすべて入ることにより、2D図面そのものを省略することができるので、製造部門は2D図面を作成したり、読み解く必要がなくなります。
CAMデータを自動作成できる
モデルベース定義のデータは、3DモデルにPMIを入力して作成します。
このとき、3Dモデルに記入したPMIの数値はCAMに読み込むことができるため、CAMデータを自動作成することができます。(*3)
モデルベース定義導入のメリット
モデルベース定義の活用で、作業工程が大幅に短縮できることがわかりました。
ここでは、そのほかのメリットも確認しましょう。
作業時間の短縮ができる
3D モデルでは、必要な情報の表示・非表示が簡単に行えます。(*3)
そのため、製造部門は、これまでのように時間をかけて、2D図面から必要な数値を読み取る必要がなくなります。
さらに、3D モデルを使ってシミュレーションを行うことができるため、試作品を制作することなくネック部分の解析を行うことができます。
こうして、総合的に大幅な作業時間の短縮が可能です。
人的ミスの発生を減らせる
3D モデルから2D図面の変換を行うとき、人的ミスにより数値などを誤って作成する可能性があります。(*2)
作成する部品が複雑になり、注釈が多くなると、2D図面からPMIを確認する場合も読みとりミスが起こりがちです。
こうした人的ミスが起こりやすい工程を省くことで、製造工程における面倒な後戻りを防ぐことができます。
自社の技術力が向上する
モデルベース定義の導入には、高度なCADソフトウェアの導入が必要です。
モデルベース定義が作成できるCADソフトウェアの代表的なものとして、次の3つがあります。
・SOLIDWORKS(4) ・Creo(5)
・Inventor(*6)
こういったCADを使いこなすには、CADだけでなくCAE(Computer Aided Engineering)(工学シミュレーションツール)の技術も必要です。
モデルベース定義の導入に取り組むことで、必然的に自社の技術力が向上します。
モデルベース定義の導入事例
ここからは、実際にモデルベース定義を導入した企業の事例をご紹介します。
日本国内の製造業から、企業の規模別に導入のポイントを見ていきましょう。
モデルベース定義の導入事例(資本金3,300万円)
岡山県の自動車部品サプライヤー、アサゴエ工業の導入事例です。(*7)
モデルベース定義の導入のきっかけは、新規のシミュレーションシステムの採用です。
導入にあたって難しかった点として、シミュレーションの精度や調整の把握と、技術者不足を挙げています。
解決策としては、外部セミナーでの社員教育とOJTに取り組んでいます。
また、シミュレーションに使うPCはかなりのハイスペックを要求されるため、そのための設備投資も必要になりました。
結果として、作業時間の短縮や業務効率化で、年間1千万円弱のコスト削減効果を実現しました。
企業としても、想定以上の結果を出せたということです。
モデルベース定義の導入事例(資本金600万円)
岡山県の金属加工メーカー、有限会社中山鉄工所の導入事例です。(*7)
新社長への代替わりをきっかけに、モデルベース定義の手法を導入しました。
もっとも苦労が大きかったのが技術者不足です。
そこで、地域の高等支援学校などと連携し、CAD/CAMの教育を受けた人材を積極的に採用するなどして解消に務めています。
導入効果としては、加工前の3D解析で不具合が減ったことにより、生産性の向上を実感しています。
また、モデルベース定義の導入にかかる費用は、2,000万円から6,000万円ほどとしています。
近年はソフトウェアの購入がサブスクリプションに変わったこともあり、初期投資よりも年間の保守費用が増えてきていることを指摘しています。
モデルベース定義の導入事例(資本金1億円)
岡山の自動車部品メーカー、ヒルタ工業株式会社の事例です。(*7)
2000年ごろからCAE解析ツールを取り入れ、部品の強度シミュレーションなどに役立てています。
モデルベース定義の導入において苦労した点は、技術的ノウハウの不足です。
そこで、コンサルタント会社などにサポートを求めて進めました。
また、社内データを蓄積し、自社でマニュアルを整備することによって従来社員の教育を行っています。
導入効果は、高度な解析で試作回数を削減できたことによる設計品質の向上です。
また、導入費用のベースとして、助成金等も活用しているとのことでした。
モデルベース定義のスムーズな導入方法とは
3社の導入事例から、モデルベース定義のスムーズな導入には2つのポイントがあることがわかります。
・予算の確保
・人材の確保と育成
モデルベース定義を導入するには、モデルベース定義が利用可能なCADソフトウェアの導入が必要です。
さらに、これまでCAEの導入を行ってこなかった企業では、ハイスペックなPCの購入が必要となる場合もあります。
また、モデルベース定義のソフトウェアを使いこなすためには高い専門性が必要です。
技術者としての人材の確保と、社内での育成が課題となるでしょう。
まとめ
モデルベース定義の手法が日本の大手企業に導入されたのは、1980年代後半です。(8) さらに、2021年には経済産業省がMBDの普及を目的とした「MBD推進センター」を発足しています。(9)
このように、モデルベース定義は、これからの製造業の競争力を高めるために必須となる手法です。
コストや技術力に課題を抱えている場合は、モデルベース定義の手法を取り入れることを検討してみてはいかがでしょうか。
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◆参考URL
*1 SOLIDWORKS『ハウツーガイド:モデルベース定義(MBD)の導入』
https://www.solidworks.com/sites/default/files/2018-06/Tech-Clarity-eBook-3D-to-MBD_JPN.pdf
*2 PTC『モデルベース定義 (MBD) 活用に向けた取り組みを成功に導くベストプラクティス』
https://www.ptc.com/ja/blogs/cad/mbd-adoption-best-practices
*3 PTC『セマンティックPMIとは何ですか?』
https://www.ptc.com/en/blogs/cad/what-is-semantic-pmi
*4 SOLIDWORKS『SOLIDWORKS MBD』
https://www.solidworks.com/ja/product/solidworks-mbd
*5 ptc『MBD(モデルベース定義)とは?| 3D モデルの寸法とアノテーションを作成』
https://www.ptc.com/ja/technologies/cad/model-based-definition
*6 Autodesk『Inventorのモデルベース定義(MBD)』
*7 経済産業省 中国経済産業局『MBD/CAE 等の導入・活用の手引き・事例集』
https://www.chugoku.meti.go.jp/r5fy/reseach/automobile/pdf/230531_2.pdf
*8 MAZDA BLOG『クルマづくりへの情熱から生まれた、マツダが取り組む「モデルベース開発」とは』
https://blog.mazda.com/archive/20231229_01.html*9 MONOist『モデルベース開発の普及活動が官から民に、43社参加のMBD推進センターが発足』
https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2109/27/news067.html