PLMは建設業でも活用できる?業界内の活用事例を紹介
PLM(Product Lifecycle Management)は、製造業で活用されている製品のライフサイクル全体を一元管理する手法です*1。PLMの最大のメリットは、成果を最大化させるQCD(品質・コスト・納期)の最適なバランスを見つけられることといえます。
建設業も製造業と同じく「ものづくり」を主な事業とする業界であり、QCDの管理は重要な課題です。では、建設業でPLMを活用することはできるのでしょうか。
この記事では、建設業でPLMを活用するときの狙いについて解説するとともに、建設業での活用事例を紹介します。建設DXを機にPLMを導入したいと考えている方は、ぜひご覧になってみてください。
製造業におけるPLMとは*1
はじめに、製造業におけるPLMについて解説します。建設業でのPLMに触れる前に、製造業における一般的なPLMの基礎知識を身に付けておきましょう。
PLMとは
PLMは、「Product Lifecycle Management」の略称です。製造業におけるライフサイクル(Lifecycle)とは、製品の企画、設計、調達、製造、販売、廃棄までのプロセスを指します。そこで、製品のライフサイクル全体にわたって情報を一元管理する手法をPLMと呼んでいます。
PLMは、部署やプロセスを跨いで情報を管理・共有できるのが特徴です。「製造段階の課題解決のためにフィードバックを設計部署に共有し、設計変更を行う」、「顧客のフィードバックを企画部署に共有して次回のプロジェクトに活かす」など、情報共有の手軽さが課題への対応力を向上させます。
ライフサイクル全体のプロセスの改善を図ることで、プロジェクトの成果を最大化させるのが、PLMを導入する大きな目的です。
PDMとの違い
PLMが登場する前には、PDM(Product Data Management)という手法が取り入れられていました。PDMは、CADやBOM(部品表)などの設計データを設計開発部門内で共有する手法です。CADなどの標準データを展開することで設計プロセスの合理化を図っていました。
PDMは類似プロジェクトの効率化を実現しましたが、設計開発部門内の情報共有に留まっていたため、製品のライフサイクル全体にわたる情報の一元管理はできませんでした。
PLMは、PDMをライフサイクル全体に拡大した手法であり、製造プロセスを全体的に改善できます。また、市場や顧客のニーズを把握し、企画・設計・製造プロセスに反映できるため、類似プロジェクト以外にも展開を期待できることがメリットです。
PLMを活用し、顧客満足度を向上させる製品をいち早く市場に提供することで、企業の競争力を高めることができます。
建設業でPLMを活用する狙い*2
次に、建設業でPLMを活用する狙いについてみていきましょう。
建物の場合、ライフサイクルは、企画・設計・調達・施工・運用・維持管理・修繕・廃棄というサイクルになります。建設業の特徴は、「一品生産である」「長期間の運用・維持管理期間がある」「修繕・改修を行うケースがある」ことなどです。
一品生産であることによる難しさはありますが、長期間の運用・維持管理や、修繕・改修といった観点では、PLMが大いに活躍するシーンがあるのではないかと筆者は考えています。
品質向上
製造業と同じく、建設業において「品質」は何よりも大切にするべき要素です。PLMを活用することで品質を向上させることができるのは、建設業においても大きなメリットといえるでしょう。
顧客満足度の向上に繋がる品質を実現するには、顧客のニーズを把握して企画や設計に反映させるのはもちろんのこと、それを実際に施工できるように計画することが大切です。設計上の性能が優れていても、施工難易度が高く、設計どおりのものが作れないと意味がありません。
PLMを活用すると、顧客や施工管理者、技能労働者のフィードバックを部署やプロセスを跨いで管理・共有できるため、関係者全員が顧客要望や施工プロセスの改善点を把握できます。目指すべき性能や施工性への配慮などを関係者全員が認識することで、真の品質向上を実現できるようになるでしょう。
生産性向上
生産性を向上させることも建設業でPLMを取り入れる大きな狙いのひとつです。建設業界は、技能労働者の高齢化などを背景に、人手不足が深刻な課題になっています*3。人手不足を解決するためには、若手の技能労働者を確保するほか、生産性の向上により少ない人員で施工を進められるようにならないといけません。
生産性を向上させるには、施工管理者や技能労働者が施工の努力をするだけでなく、企画・設計・調達の部署が施工しやすい状態でプロジェクトを施工部署に渡すことが大切です。PLMを活用することで、企画・設計・調達の担当者が、施工管理者や技能労働者の意見を汲み取りやすくなり、施工性に配慮した取り組みを実践できるようになります。
PLMをとおして関係者全員が生産性向上を意識できることは、プロジェクトに大きなメリットをもたらすでしょう。
適正な価格設定とコスト削減
製造業において、PLMのもっとも大きなメリットは、QCDの最適なバランスを見つけられることといえます。これは建設業にも当てはまり、品質と納期(工期)を守れる適切なコストを見極めてプロジェクトの適正な価格を設定することが大切です。
また、情報をライフサイクルにわたって一元管理することにより、無駄なコストが明確になります。人的・物的コストを削減できるポイントを見つけ出し、細かいことでも積極的にコスト削減に繋げる意識が大切です。
ライフサイクルにわたって建物を管理する
近年は、建物のライフサイクルにわたってさまざまな情報を管理するのがトレンドです。コスト、CO2、アセスメント、マネージメントなど、ライフサイクルに関連するワードが次々と登場しています。これらのライフサイクルにわたる情報管理は、PLMと良好な互換性があると筆者は考えています。
建設DXによりBIMやCDEが普及し、クラウドストレージを使って情報を一元管理する取り組みが進んでいます。CDEには、CO2などの環境アセスメントの情報や、不具合や修繕の状況といったマネージメントの情報を含めることもできます。
BIMとCDEをベースにPLMを導入することで、性能や環境、将来の資産価値など、顧客のニーズにあわせた付加価値の提供ができるのではないかと考えます。
建設業界でのPLM活用事例
それでは、建設業界におけるPLMの活用事例をみてみましょう。
竹中工務店:データをデジタルスレッド化して施工部門を効率化*4
PLMソリューションを提供するArasは、竹中工務店とともに、PLMによる建設業の施工部門を支える建設デジタルプラットフォームの構築を目指すことを公表しています。竹中工務店が注目したのは、製造業におけるデジタルスレッド化による情報の一元管理・活用の仕組みです。
現在の建設業は、設計図書をもとに施工部門が必要な建材を整理し、それぞれの材料を調達して適切なタイミングで現場に運搬しています。このプロセスを一般化することができていないため、生産性の向上が難しくなっているとのことです。
竹中工務店は、Arasが提供するPLMツールを活用し、部門を超えて建材の整理・管理に関する情報を共有することで、施工部門の負担軽減を図っていくようです。
大林組:建設PLMシステムを構築*5
大林組は、NECと連携し、設計からアフターサービスまでの情報を一元管理する「建設PLMシステム」を構築することを公表しています。建設PLMシステムの狙いは、BIMを起点として情報を一つのプラットフォームに統合し、データの整合性を保ちつつ、業務の迅速化・高度化を実現するとのことです。
大林組の「建設PLMシステム」
*5
引用)大林組「大林組、NECと連携し、DX戦略の中核として設計から施工、アフターサービスまでの情報を一元管理する「建設PLMシステム」を構築」
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20240228_1.html
建設PLMシステムは、NECのPLMソフトウェアにBIMの部材情報を集約し、建物情報を一元管理することで設計・施工・アフターサービスに活用できる仕組みになっています。
東芝エレベーター:建築BIMと製造PLMを連携*6
東芝エレベーターは、エレベーターの建築BIMと製造PLMをラティスの3Dツールで連携しています。
エレベーターを計画するときは、建物の躯体とエレベーターが干渉しないように取り合いを細かく調整します。3D-CADやBIMの登場により干渉チェックをしやすくなりましたが、3次元モデルはデータ容量が大きく、扱いづらいという課題がありました。東芝エレベーターは、ラティスの軽量3Dツールを取り入れることで、製造PLMデータを建築BIMに統合したときに大容量化する課題の解決を図っています。
建物の建設には、多くのメーカーが携わります。メーカーは製造PLMを導入しているケースも多いため、製造PLMデータをどのように建築BIMに取り込んでいくのかが、今後の課題になるかもしれません。
おわりに
製造業のPLMは、DXを背景に近年ますます注目を集めています。建設業においてもBIMの普及に伴いPLMが着目され、2024年に入って竹中工務店と大林組がPLMに取り組むことが明らかになりました*4*5。建設業は製造業との関わりも深いため、PLMで先行している製造業を参考にしながら導入を検討してみてはいかがでしょうか。
大手ゼネコンBIM活用事例と 建設業界のDXについてまとめた ホワイトペーパー配布中!
❶大手ゼネコンのBIM活用事例
❷BIMを活かすためのツール紹介
❸DXレポートについて
❹建設業界におけるDX
注釈
*1
出所)株式会社日立ソリューションズ西日本「PLMとは?システムの目的・導入メリットを解説」
https://www.hitachi-solutions-west.co.jp/products/industry/plm/column01/vol01/index.html
*2
出所)BuldApp News「PLMとは。建設業でも活用できる?事例を解説」
https://news.build-app.jp/article/27214/
*3
出所)NTT東日本「建設業の人手不足の原因とは? 2025年問題に備える解決策を紹介」
https://business.ntt-east.co.jp/bizdrive/column/post_99.html
*4
出所)アラスジャパン合同会社「Aras、株式会社竹中工務店と建設業界における PLM による生産性向上への取り組みを公表」
*5
出所)株式会社大林組「大林組、NECと連携し、DX戦略の中核として設計から施工、アフターサービスまでの情報を一元管理する「建設PLMシステム」を構築」
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20240228_1.html
*6
出所)ラティス・テクノロジー株式会社「ラティス、東芝エレベータの建築BIMと製造PLMをXVLで連携 生産性向上を目的に統合3DビューワXVL Player Plusを共同開発」