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1級建築士が語る!BIMで加速する建築業界のグローバル化

世界経済がグローバル化する中、建築業界にもグローバル化の波が押し寄せています。また、時を同じくして、世界中でBIMが急速に普及しています。
今回は、建築実務を行う1級建築士が、建築業界がグローバル化する中で、今後BIMが担っていく役割について紹介していきたいと思います。

建築業界のグローバル化の背景

インターネットの普及によって経済が急速にグローバル化しています。インターネットを使用することで瞬時に情報を共有したり、世界中の人々が自由にコミュニケーションをとったりする時代になりました。その影響もあって、工業製品は中国などの人件費の安い国を中心に製造されるようになりました。今後も、ますますグローバル化は進んでいくでしょう。

そんな中、建築業界はグローバル化が遅れています。建築業界の製品は、工業製品のように輸出することができないので、現地で製造するしかありません。基本的にはグローバル化する必要性の少ない業界なのです。

ただし、近年は新国立競技場の初期の設計をZaha Hadid氏が行っていたように、海外の建築家が日本の建物を設計する機会が増えています。また、中国などで日本の建築家によるプロジェクトが進行する機会も増しています。施工する人は現地の人間が行う方が効率的ですが、設計においては国内だけでなく世界中から案を公募した方が、より良い設計になる可能性が高いので、設計のグローバル化は当然の流れと言えます。

建築業界の国際化を阻む壁

しかし、現実的には建築業界のグローバル化は上手くいっていません。設計ソフトの問題が立ちはだかっているのです。各国で独自に設計ソフトが開発されているので、国を超えて設計図面を共有しようとしても、ソフトの互換性が良くなく、なかなか上手くいかないのです。例えば、日本で設計した図面を元に中国で建設を行おうとした時、日本で作成した図面を使用できずに、現地で1から作図し直す必要性があったのです。これでは非常に非効率ですが、今までは国際的なプロジェクトの数が少なかったので、大きくクローズアップされてきませんでした。しかし、世界経済が急速にグローバル化する中で、建築業界でもグローバル化の必要性が進み、国をまたいでも互換性の良いソフトを開発する必要性が高まっていたのです。

ただ、日本主体のプロジェクトであっても、日本のソフトを相手側の技術者に導入して貰うことは非常に困難です。協力会社の規模によってはソフトの導入が経済的に困難な場合もありますし、仮にソフトを提供しても、情報を流出される危険性もありました。

BIMが後押しする建築業界のグローバル化

そこで鹿島建設が考案したのが「Global BIM」です。「Global BIM」は、鹿島建設が保有しているARCHICADのライセンスを、インターネットを経由して現地の協力会社に貸し出すことを可能にしたものです。これにより、協力会社がどこの国であろうと、ARCHICADを使用してBIMの作業を行うことが可能です。

貸し出したARCHICADのライセンスは、協力をお願いするプロジェクトでのみ使用が可能で、他のプロジェクトには使用できません。その為、協力をお願いする側も、お願いされる側にとっても、無駄なコストが発生しません。必要な時に必要な環境だけを提供することが可能なのです。これは情報漏洩の観点からも非常に有利です。データをダウンロードされて情報を漏洩されることもないので、安心して協業をお願いできるのです。

インターネットが普及し、世界経済がグローバル化する中で、建築業界にもグローバル化の波が押し寄せています。しかし設計する上でソフトの互換性が問題になって、日本と海外の技術者の間でうまく協力して設計を行うことが困難でした。しかし、「Global BIM」の登場によって、両者で同じソフトを使って作業することが可能になり、設計効率が劇的に改善しました。

「Global BIM」を導入して得たメリット

鹿島建設は「Global BIM」を導入することで、BIM施工図の作成コストを大幅に削減し、施工現場主導でBIMを最大限に生かす方法を研究しました。その結果、蓄積されたノウハウを基にBIM業務専門会社「株式会社 グローバルBIM」を2017年に設立しています。

はじめに「Global BIM」は、国内外を問わず5〜6人規模の協力会社でもARCHICADを利用できるようにしました。そして、業務の効率化によって施工図コストを大幅に削減します。その結果、鹿島建設の全現場へとBIMが急速に普及しました。同時に各現場では、せっかく作ったBIMを最大限活用するための運用方法を研究し、ノウハウを蓄積しました。つまり、鹿島建設は「Global BIM」で協力会社との連携をスムーズにすることによって、現場へのBIM普及率を高めると共に、新たなBIMの活用方法も生み出したのです。現在の「グローバルBIM」は、建築とIoTやAIなどの異業種同士の連携を助けるBIMコンサルに力を入れており、建築業界の枠を超えた飛躍を目指すに至っています。

グローバルな視点でのBIMの急速な普及について

日本を含めたグローバルなBIMの普及は、グローバルBIMに利用されているARCHICADや、様々なソフトウェアを販売しているAutodeskのRevitを主軸として広まってきました。どちらのソフトウェアもネットさえあれば自由にBIMにアクセスできる環境を最適解と考えており、開発や企業の買収を積極的に現在も行っています。

それとは別に、異なったソフトウェア間で相互運用するためのファイル形式「IFC(Industry Foundation Classes)」の国際標準化の流れも1995年から続いています。2013年の3月には、国際基準のIFCが設定されましたが、各インフラごとのIFCは現在でも協議をしながら改良している段階です。各インフラの国が定める規格は、国の文化や環境によって大きく違いがありますので、例えインフラごとに国際基準が定まったとしてもプロジェクトごと、国ごとに変更は必要になります。とはいっても、現段階で公民双方のBIM導入の流れができている国は多数存在し、日本以上に急速に普及が進行しているBIM先進国があるのが現状です。例えば、建設事業の約40%が公共事業であるイギリスでは、一つのBIMモデルを建築に関わる業者間全員で共有することを目的として、2025年までのガイドラインが政府によって発表されています。また、ノルウェー、フィンランド、デンマークなどのヨーロッパ諸国では、日本よりもBIMの成熟度レベルが高く、国主導で積極的にBIMを推進しています。他にも公共建築のBIM化は世界中でおきており、以前にもいくつかの記事で世界の状況について紹介しました。

関連記事:1級建築士が語る!海外のBIM活用状況~欧州・アジア各国での取り組みを徹底解説
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グローバルな視点に対する日本の現状

日本の建築業界においてBIMの導入は、企業単位という形に収まっているのが現状です。原因としては、日本国内の企業同士で信頼関係が出来上がっていることで、一つのBIMモデルを複数の企業間で統一する必要性が薄いこと、公共事業の減少に伴い、国主導のBIM導入についても後手となっていることなどが上げられます。ですが、鹿島建設が主導的に開発した手法「Global BIM」以外にも、グローバル化を意識したBIMの開発は徐々に進んでいるのです。

過去の大きな取り組みとしては、大和ハウス工業が2019年3月に発表した、2020年末までに全物件の設計においてAutodesk Revitを利用したBIMの導入をするという、「D’s BIM」と名付けられたプロジェクトが注目を集めていました。「D’s BIM」では、施工においても2022年までには全物件でBIMを利用するというロードマップを発表しています。大和ハウス工業は、これまでに意匠・構造・設備の建築確認申請をRevitのBIMデータで許可を受けるなど、日本初の取り組みを行ってきました。今回のプロジェクトでも、BIMデータで新たな建築確認申請を受けることが期待されていました。その他、「D’s BIM」では、日本の集合住宅を自動でAI設計するジェネレーティブ デザインも、日本以外のグローバルな視点から技術的に注目を集めています。他国の建築業界では国が主導しながら行政にBIMが浸透していますが、日本においては主に企業が先行する形で進化を続けているのです。大和ハウス工業は、実際に2021年4月にAutodesk Revitのアドインパッケージ「BooT.one」を導入しました。「BooT.one」についてもいくつかの記事で紹介しているので、ぜひご覧ください。

関連記事:【2022年版】「みんなが使えるBIM」を目指すBoot.one とは?今後の展望も解説

今後グローバル化するBIMが担っていく役割とは?

そもそもBIMのグローバル化には、企業間での食い違いや無駄な作業をなくしてコストカットする他にも役割があります。例えば、建物の管理にも利用できる様々なデータをBIMに保存しておけば、施工後のアフターケアにもそのまま利用できるようになります。情報が一本化されてケアの品質も向上するでしょう。現在ではそのようなサービスを初期の段階からシステム化している企業は少数です。ですが、グローバルにBIMが浸透すれば、世界中で建築業界とほかのサービスのクロスオーバーが当然の形になっていくことは間違いありません。

現に、各国で政府が要求しているBIMデータは、建築が終わった後も都市計画やハザードマップ、ライフサイクルマネジメントなどに利用されます。他にも、生活者が利用するためのIoTやセンサーによるデータ解析などもBIMを元に進められるでしょう。むしろ、このような現在の建築業界の枠を超えたサービスのほうがBIMの活用性が多いはずです。

その結果として、ゼネコンや設計事務所は、建物の完成・引き渡しまでという短期的な付き合いではなく、その後の運用やライフサイクルのマネージメントを行うことも十分予想できるのではないでしょうか。建築の専門家として、国内外で通用するグローバルな視点のBIMに着目することも重要ですが、それ以上に新たなサービスが生まれてくる可能性について、建築業界全体でアイディアを出していかなければいけない局面が来ています。また、日本においては、グローバルな環境と比較して遅れていることを認識し、新たなサービスが生まれた時点で日本にあった形に企業単位で対応していくことがチャンスとなる可能性があります。

まとめ

BIMで加速する建築業界のグローバル化を日本の現状とグローバルな視点の双方から紹介しました。また、BIMが担っていく今後の役割についても解説しています。

日本においてもグローバルBIMを利用して海外の協力会社と本社で同じ環境を作ることは可能です。国を超えたソフトウェアの違いもARCHICADのライセンスを貸し出すことでグローバルBIMが解消しています。ですが、建物の設計は国によって様々な違いがあります。国際基準の標準規格IFCにしても、現在まで各国で均一化されたインフラの規格は決まっていません。とはいっても、国が主導でBIMの義務化が進んでいる海外のBIM先進国と比較すると、企業が自発的に開発を進めている日本は遅れているのが現状です。ですが、日本の取り組みも徐々に進んでおり、建築業界のグローバル化にむけて一歩一歩進んでいます。

グローバルな視点で行われているBIMの普及は、現在の建築業界の枠を超えて運用することを目的に進んでいます。その動きは日本にも必ず襲来しますので、グローバルで使用できるBIMの開発は、今後の日本でも加速する勢いで進んでいくものと予想されます。

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2022年7月1日 情報更新

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