大林組のワンモデルBIMは業務プロセス革新の要
2009年はBIM元年といわれ、日本で本格的にBIMが活用され始めてからは10年以上が経過しました。ゼネコン大手である大林組では早い段階からBIMの推進を行い、3Dモデル化など多くの実績をあげてきました。また、昨今では新しい業務プロセスとしてワンモデルBIMを掲げ、2017年から運用を始めているのです。この記事では大林組のBIM推進状況をはじめ、ワンモデルBIMの概要、得られた成果などについてご紹介します。
大林組ではいち早くBIM活用体制を構築
日本で本格的にBIMの活用が始まったのは2009年ごろで、「BIM元年」ともいわれます。大林組でも、2次元の設計図書をもとに早い段階からBIMを活用した3Dモデル化に取り組んでいました。(1)(2)
BIM導入当初は一時的に設計負荷が増大
大林組におけるBIMの活用は導入期当初から順調だったわけではなく、ほかの企業と同様に「設計者からすると3Dモデルの作成が負担」「設計変更にBIMモデルをうまく追従できない」という問題を抱えていました。そのため大林組では、建築生産システムの全体でデータを一括管理、共有する方法を模索していました。
PDセンターを組織し適当BIMを推進
大林組では、2013年にはBIMの推進を担う組織として建築本部にPDセンターを立ち上げ、2016年には大阪にも拡大しました。PDセンターはBIMのプロジェクトに対応することに加え、クラウドやBIMをもとに次世代の生産システムを実現を目指す役割を担う組織です。(3)さらに2019 年には、一定品質の BIM モデルを提供し競争力と生産性の向上を目的にiPD センターという組織に改組しています。(4)
Autodesk Revitの導入でBIM推進が加速
そんななか、大林組は2017年にBIM標準ソフトとしてAutodesk Revitを採用しました。これを仕事のやり方や情報伝達のあり方を改善する好機と期待し、建築生産を変革するワンモデルBIMの運用構築を始めるに至ったのです。
ワンモデルBIMは情報伝達のあり方を変える仕組み
大林組が導入しているワンモデルBIMについて詳しくご紹介します。
単なる3Dモデル化では生産性は向上しない
設計図書ごとに3Dデータを作成していると、設計変更があった場合にすべての関連図書を変更する必要があるため、軽微な修正でもまとまった工数が必要です。さらに場合によっては構造の不整合が発生して設計が成立しなくなるリスクを抱えています。
ワンモデルBIMは1つのデータが共有可能
ワンモデルBIMでは、生産設計図や設計図、意匠図、確認申請図など、設計から施工まで関連する図面類が1ファイルで取り扱われています。
ゼネコンである大林組は、設計と施工を一手に引き受けられる強みがあります。ワンモデルの仕組みを導入すると、設計者も生産設計担当者も同じデータが参照でき、同じデータへの情報入力や編集が可能です。また、基本的に設計変更の不整合は起こりません。クラウドを活用することで、設計と施工の情報共有が非常にスムーズです。
大阪みなと中央病院工事がパイロットプロジェクト
ワンモデルBIMを実際の施工へ導入するにあたり、2017年12月時点で大林組が実施設計を行っていた大阪みなと中央病院の工事が選ばれました。
パイロットプロジェクトでは生産設計を二分
大阪みなと中央病院の工事はちょうどタイミングが良く、ワンモデルBIMのパイロットプロジェクトに指定されることになりました。
パイロットプロジェクトは慎重に進められました。大阪みなと中央病院の規模は275床で13階建て、延床面積は1万8,509平方メートルです。通常であれば生産設計担当者は3名ほどですが、大林組では人員を2倍の6名に増員し、生産設計を2つにわけました。一方は従来通りの2次元図面を活用し、もう一方ではワンモデルBIMを使って開発を行ったのです。
パイロットプロジェクトの成果
ワンモデルBIMのパイロットプロジェクトでは、意匠と構造図の統合モデルをもとに設備のデータを反映し、着工後4か月をかけて総合図を完成させました。従来どおり紙の製作図を正とした照合・承認よりも回覧時間が大きく短縮し、重複作業を軽減できたのです。
さらに、現場内で必要な情報を伝えるための仕組みを検討しつつ、BIM関連ソフトの連携として以下のような検証を行いました。
・実施設計後の精積算:Revitと積算ソフトの「HEΛIOΣ」(ヘリオス)を連携
・鉄骨制作会社とのデータ連携:Revitと鉄骨専用CADの「ファーストハイブリッド」とのデータ連携
・設計現場:協力会社とのモデル確認
・設計ルール構築:防火・防煙区画など建築確認に関わる部分は現場で変更しない等
このプロジェクトでワンモデルBIMには設計生産性をあげる効果が得られたため、大林組では全社的にワークフローを再構築する足掛かりを得たのです。
ワンモデルBIMの生産性向上に役立つ点
大林組のワンモデルBIMには以下のような効果あります。
組織を超えて簡単に情報が出し入れ可能
パイロットプロジェクトでは、設計担当者や工事現場の生産設計担当者、外部の協力事務所のメンバーなど約30人にアクセス権を付与し、1つのBIMデータが参照できるようにしていました。
ワンモデルBIMは作業場所や組織が違っていても同じ情報が確認できる点がメリットです。また、構造や内装、設備などプロジェクトのデータがリアルタイムで集約されているため、情報の出し入れが非常に簡単です。
建築現場とのの情報共有が非常にスムーズに
ワンモデルBIMを導入したあとでも、建築現場がやるべきことは大きく変わりません。しかし従来連絡会議で共有していた小梁変更などは、ワンモデルBIMでリアルタイムに設計担当に伝わるため、情報の共有化のタイムラグがなくなりました。
また、設計変更に伴う最新図面を探す時間も不要です。どの情報を参照すべきか探す時間も不要になり、設計効率があげられました。
顧客との情報共有にBIMの3DモデルやVRを活用
設計、施工いずれの場合も顧客に状況を報告し共有する必要があります。図面を使って設計変更や現状を説明するよりも、ワンモデルBIMのデータを使った方が圧倒的に便利です。
また、詳細な寸法決めで顧客の意見を聞く際は、VRで実際の空間を体験してもらうことで、使い勝手のブラッシュアップなど、より緻密な顧客要求の収集が行えます。正確な要望の把握により見積もり精度があがるため、工事の後戻りの予防も可能です。
ワンモデルBIMは働き方改革へつながる
手動で積算条件を入れなくても、RevitとHEΛIOΣがデータ連携できれば、積算に必要な単純作業の工数が削減でき、本来やるべき積算結果の確認に注力できます。
働き方改革では、単純作業はシステムで行い、人間は判断する部分に注力するなど仕事の進め方を見直す必要があります。
ワンモデルBIMでは権限のあるメンバーは誰でもデータの編集できるため、データの正確性を保証する方法を確立する必要があります。このようにワンモデルBIMにかかわる課題はすべてが解決できているわけではありません。しかし、ワンモデルBIMの実績を積み運用実績を積み上げていくことが、大林モデルとして新しい業務プロセスを構築する第一歩なのです。
まとめ
大林組では、2017年の病院工事をパイロットプロジェクトにワンモデルBIMの運用を推進してきました。ワンモデルBIMは着実に実績を重ねており、設計と建築現場との情報共有が簡単になることに加え、システムを連携させて働き方改革に役立てる検討も行われています。大林組の今後の動向にも注目が集まります。
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参考URL
*1 https://www.kensetsunews.com/web-kan/388797
*2 http://bim-design.com/catalog/pdf/Oobayashi-CaseStudy.pdf
*3 https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20130926_01.html
*4 https://www.obayashi.co.jp/ir/upload/img/ir2019.pdf
2022年9月7日 情報更新