ジェネレーティブデザイン(GD)が建築にもたらすものとは。
コンピュータ・AI技術の発展によって、コンピュータ・AIが設計するというジェネレーティブデザインが生まれ、製造業では早くから活用されてきました。今回はジェネレーティブデザインが建築の分野にどう生かされているのかを説明します。
この記事を読むと以下の2つのことがわかります。
(1)ジェネレーティブデザイン
(2)活用事例
ジェネレーティブデザイン
ジェネレーティブデザイン(Generative Design、GD)とは、コンピュータによる設計とシミュレーションを通して、膨大な量の設計サイクルを繰り返すというものである敷地や予算、採光といった条件をコンピュータに与えれば、ゴールとなる性能条件へ適合した設計案を何通りも出してくれます。
人間の手によってシミュレーションと結果のフィードバックを繰り返す場合、時間の制約上、設計の修正は数回に止まるでしょう。しかしジェネレーティブデザインであれば、すべての部材断面まで徹底的に最適化を追求することができます。
ジェネレーティブデザインをどう使うか
コンピュータが出してくれるのは設計案に止まりません。コンピュータの出した候補の中から、人間が希望の結果を指定すると、その条件を基に、どの設計が最も性能に優れているかを示すデータと設計手法を出してくれます。
建物全体の設計だけでなく、家具やトイレなどのデザインやレイアウトについても複数案を出すことが可能です。建築と家具は別々でデザインされ、さらに家具の配置についても別の人によって行われることがあります。この技術を使えば、建築と家具、そして家具のレイアウトまでもが一つの軸を持ってデザインされた建築が生まれることでしょう。
ジェネレーティブデザインは、敷地がゆったりとした海外では新しいデザインを生み出すためによく使われています。こうしてジェネレーティブデザインが作り出した新しいデザインは、特にパラメトリックデザインと言われることがあります。ジェネレーティブデザインとの協働で作られた
一方、日本では限られた敷地を有効活用するため斜線制限や天空率などを最大限に生かすための定量的評価に使われることが多いようです。
人間がしていた工程を短時間で何度も繰り返すことができるので業務の効率化にも役立ちます。また、今までには考えられなかったようなクリエイティブな見た目の建築も考案してくれる可能性もあるでしょう。そうしたデザインについても建築可能な施工手順を紹介してくれます。
活用事例
BIMソフトウェアであるRevit、大手ハウスメーカーである大和ハウス工業などの活用事例を紹介していきます。
Revit
Revit 2021 の Architecture, Engineering &Construction Collection には、ジェネレーティブ デザインをはじめとする最先端機能が搭載されています。*1
この機能を活用した事例を2つ紹介します。
・ワークスペースレイアウトの最適化
新しいオフィスの設計で、デスクの数を最適化しつつ、出口までの距離を最小限にしたいとします。平面図の最適化には、Revit の「ワークスペース レイアウト」のスタディを使用し、変数を選択したのちプロジェクトの目標を設定します。
これらを入力しただけで数分で複数の結果が出力され、Revitやその他のアプリケーションで作業を続けることができます。
・窓からの眺望をよりよくする
スタディ機能を使用して設計案を生成・分析し、窓からの眺望に対して室内の最適な位置を見つけることができます。
まず眺望を計算する基点となる、テーブルのような移動可能な要素を選択します。次に窓やカーテン、眺望の妨げになる要素を選択します。最後に目標を設定します。
設計の結果を検討する準備ができたら、窓に対する平均的な角度と、窓外の眺望を評価するスコアが表示されます。実際のビジュアルが図示されるため、結果を一目で確認することができます。
この他にも、建設費を削減するために表面積を最小限に抑えながらスペースを最大化したり、ワークフローがわかるようなシート作成を自動化したりすることができます。
Autodesk
Autodeskがカナダのトロントに作ったオフィスはジェネレーティブデザインを最大限に活かして作られました。
設計にあたり、最初にそこで働くことになる社員から働き方やレイアウトなどに関する情報を集めました。そこから働き方や隣接性の嗜好、気を散らす要素の排除や相互接続性、外光や眺望などの測定可能なゴールを設定しました。そうして生み出された何千もの選択肢の中からパフォーマンスの高い職場環境が作られました。
一見測定の難しいような要素もコンピュータが認識できるようにうまく測定可能なゴールとして定めることでジェネレーティブデザインに組み入れられます。このために人間側の工夫や発想も必要になってきますね。
大和ハウス工業
Autodeskとの協力で、ジェネレーティブデザインでBIMモデルを生成し、建築設計に導入する取り組みを行っています。
この取り組みによって以下のようなメリットがあります。
・初期提案時点で敷地に対する最適設計を短時間で行う
・環境やコスト、デザインなどの評価ができる
ジェネレーティブデザインの活かし方
賃貸アパートなどの集合住宅においては、敷地の中にどう建物をレイアウトするか、そしてその建物がどれだけ収益を上げられるかが重要です。*2
収益だけでなく地域への貢献も考える土地オーナーのニーズに応えるため、複数の提案とそれに対する反応から最終案の絞り込みが行われます。従来のやり方では、多くの場合、その提案内容は営業担当のスキルや個性などに頼る部分がありました。
大和ハウス工業では、営業担当がジェネレーティブデザインというツールを使いこなせるようになることを期待しています。必要なときに自分ですぐに結果を出して、それを客にプレゼンテーションすることができることでしょう。
顧客に薦められないプランを簡単に作成できるというのもジェネレーティブデザインのメリットです。今までは、お薦めできないプランは口頭でしか説明できませんでした。しかし簡単かつ迅速に案を出せるようになれば具体的に図面を使って説明できます。
まとめ
最後の大和ハウス工業の話にもあったように、ジェネレーティブデザインのおかげで設計したことのない人でもアイデアを出せるというのは革新的だと思います。最後に設計案を決定するのは人間ですので、AIの優れた部分を上手に利用しつつ、協働しながらより良いデザインを作り出せるようになると良いですね。
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*1 AUTODESK「未来を形づくる設計のチャレンジ」
https://damassets.autodesk.net/content/dam/autodesk/www/apac/pdf/future-of-design-ebook-ja.pdf
*2 AUTODESK
「集合住宅の計画にジェネレーティブ デザインを活用する大和ハウス工業の先進的な取り組み」
https://www.autodesk.com/jp/design-make/articles/daiwa-house-generative-design-jp