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構造設計の自動化におけるAIの役割

近年、構造設計の分野はBIMの導入をはじめとし、伝統的な手法から大きくシフトし始めています。構造設計は、建築物やインフラの安全性、耐久性、そして効率性を確保するための極めて重要なプロセスです。技術の進歩、特にAI(人工知能)の出現により、設計プロセスの自動化と最適化が急速に進展しています。AIの能力を活用することで、より効果的かつ迅速に設計の問題点を特定し、最適な設計解決策を導き出すことが期待されています。

この記事では、構造設計とAIの基本と構造設計の自動化におけるAIの役割について紹介していきます。

この記事でわかること
・構造設計とは
・構造設計分野におけるAIの活用法

構造設計とは

構造設計は、建築物や構造物が安全に機能し、地震や積雪などの災害に対して耐えうるようにする設計のことです。
構造設計プロセスは、材料の選択、荷重の計算、そしてその他の関連する要因を考慮して、最適な形状やサイズを導き出す作業から成り立っています。このプロセスは、しばしば複雑な数学的計算を伴い、深い専門知識と経験が求められます。
従来では部材情報などを人が手入力するなどして対応していました。

従来の構造設計における課題

株式会社 安藤・間の記事(*1)は、従来の設計方法には以下の課題があると指摘しています。

1つは、人による部材情報の手入力などは多大な時間を要するということです。人の記憶をもとにトライアンドエラーを繰り返しているため当然の事と言えます。

2つ目は、担当者の知識・経験の差によって成果物の完成度が上下してしまうことです。これも手入力に伴う試行錯誤の影響と言えるでしょう。

建築士業における人手不足

国土交通省が発表している「建築行政に係る最近の動向」(*2)によれば、2021年の一級建築士の年齢分布は全体の65%が50歳以上であり、20代は全体の1%程しかいません。また、建築基準適合判定資格者の年齢分布も一級建築士と同様、50代以上が全体の75%以上を占めている状態です。このことから建築士は高齢化が進んでおり、人手不足状態であると言えるのではないでしょうか。

AIとは

AI(人工知能: Artificial Intelligence)とは、人間の脳が持つような学習や判断、推理などの機能を、機械やソフトウェアに実装しようとする技術や学問領域のことを指します。近年のデジタル変革の中心として注目されているAIですが、総務省の28年版情報通信白書(*3)によると、AI研究は実は1950年代後半〜1960年代にすでに第一次のブームを迎えており、この領域の研究は数十年前から行われてきた歴史があります。

2023年現在では、様々なメディアで取り上げられているAIチャットサービスのChatGPT(4)や画像生成AIのMidjourney(5)など、数多くのAIサービスが展開されています。

AIが構造設計の自動化に貢献する方法

これまで解説した背景の中で、AIと技術の進歩は構造設計の新たな展開をもたらす可能性を秘めていると考えられます。

ここでは、AIが構造設計の自動化においてどのように貢献するのかを紹介します。

1. データ解析による最適な構造設計の提案:

AIは膨大なデータセットを迅速に解析し、最も効果的な構造設計のパターンやトレンドを特定することができます。この結果、設計者は最適な材料や構造形状を迅速に選択できるようになります。

2. パラメトリックデザインの支援:

AIはパラメトリックデザインの自動化を容易にし、複雑な形状や構造の生成を高速化します。これにより、伝統的な手法では考えられなかった革新的なデザインが生まれる可能性があります。

3. シミュレーションと予測:

AIを使って、地震や積雪などの災害が発生した状況下での構造のパフォーマンスを事前にシミュレートすることで、構造物の安全性や耐久性の問題を事前に特定し、必要な変更を施すことができます。

4. 既存の設計の問題点や欠陥を自動検出:

AIに設計の欠陥や潜在的な問題点を自動的に識別させることによって、設計段階での修正が容易となり、後の段階でのコストやリスクを大幅に削減することが可能です。

これらの要点からもわかるように、AIは構造設計の自動化において非常に大きな役割を果たす可能性があると考えられます。設計の質と効率性を同時に向上させることで、より優れた構造物の実現が期待されています。

AIを活用した構造設計の事例紹介

AI技術が構造設計に与える影響を理解するためには、具体的な事例を通じてその実際の活用を見ることが有益です。ここでは、AIを活用した構造設計の事例の紹介をいくつか紹介します。

1. 構造設計支援システム「部材グルーピングシステム」

このシステムは、有限時間内に誰もが最適な構造計算が可能な環境を構築することを目的として、株式会社 安藤・間、株式会社リバネス、株式会社ヒューマノーム研究所、ソーラーテック株式会社らが開発したことを2022年に発表しました。

株式会社 安藤・間のホームページに掲載されている記事(*1)では、従来の構造計算と比較して、計算にかかる時間が半分程度になっており、限られた期間内に複数の架構形式の検討が可能であり、より良い提案に貢献できるとしています。また、このシステムは担当者の知識、経験に依存せず、成果物の完成度を平準化できるとしています。

2. 設計支援システム「AI設計部長」

AI設計部長は、大成建設株式会社が現在開発中の『過去の設計業務を通じて蓄積した知見やノウハウを統合・集積した設計技術データベースを構築し、各設計担当者が抱える問題に対して、AIが最適な情報をデータベースから抽出することで、設計担当者の業務を支援するシステム』(*6)です。

構造設計分野においては、過去のデザインレビュー内容をAIで解析した、初期段階の構造設計方針決定する機能を搭載予定であり、この機能によって構造設計方針の早期決定と手戻りがなくなることによる作業の高速化が期待されています。

3. 構造設計支援サービス「構造エクスプレス」

この「構造エクスプレス」、福井コンピュータアーキテクト株式会社の3D建築CADシステムである「ARCHITREND ZERO」で作成された意匠図データを基に構造計算書、構造伏図などを自動作成するサービスです。

住友林業株式会社の子会社、ホームエクスプレス構造設計株式会社が2020年8月1日に開始したサービスで、『プレカット工場が抱える人手不足や長時間労働という社会課題に対して、生産性を向上させることで課題解決を図るだけでなく、ビルダーがお施主様へ安心・安全な住宅を提供することもお手伝いします。』(*7)と、社会課題の解決にも貢献できるとしています。

まとめ

構造設計の分野は、長年にわたり多くの伝統的な手法や習慣に基づいて進化してきました。しかし、現代のテクノロジーとともに、特にAIの進展はこの分野に革命をもたらしています。AIの能力を活用することで、設計プロセスの自動化、最適化、そして質の向上が実現されています。

本記事を通じて、AIが構造設計の自動化にどのように寄与しているかの主要なポイントを探求しました。データ解析、パラメトリックデザインのサポート、先進的なシミュレーション、そして設計の欠陥の自動検出など、AIの取り組みは多岐にわたります。

AIと人間の専門家が協働することで、未来の建築界はさらなる進化を遂げるのではないでしょうか。

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■参考サイト

*1 株式会社 安藤・間 AIを活用した構造設計支援システムの開発

https://www.ad-hzm.co.jp/info/2022/20220307.php

*2 国土交通省 建築行政に係る最近の動向

https://www.mlit.go.jp/common/001426768.pdf

*3 総務省 政策白書 平成28年版 第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI~ネットワークとデータが創造する新たな価値~ 第2節 人工知能(AI)の現状と未来

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc142120.html

*4 ChatGPT

https://openai.com/chatgpt

*5 Midjourney

https://www.midjourney.com/home/?callbackUrl=%2Fapp%2F

*6 AIを活用した設計支援システム「AI設計部長」の開発に着手

https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2021/210311_5076.html

*7 ビルダー・プレカット工場向け構造設計支援サービス「構造エクスプレス」を開始

https://sfc.jp/information/news/2020/2020-07-31.html

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