AutoCADはデジタルツインの実現にどう役立つのか?事例にみるCAD運用の可能性
AutoCADはデジタルツインの実現にどう役立つのか?事例にみるCAD運用の可能性
建設土木業界はデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現が喫緊の課題と言われていますが、具体的にどのように進めていけばよいのか、またどんなゴールを目指せばよいのかが分かりづらい点が問題視されています。ツール導入だけではDXが実現したとは言えない中、実際の導入事例を参考にすることで、自社にあったソリューションのヒントが得られます。
今回は、建設DXの柱とも言われるデジタルツインの概要や、ポピュラーなCADソフトであるAutoCADを導入することで、どのようにデジタルツインを実現することができるのかについて、ご紹介していきます。
目次:
①AutoCADの特徴
②デジタルツインとは
③デジタルツイン導入のメリット
④AutoCADの導入事例にみるデジタルツインの実践方法
AutoCADの特徴
CADシステムはPCの登場以来、建設業界を支えてきた頼りになる2D/3D作図ソフトです。Autodesk社が提供するAutoCADは数あるCADソフトの中でもポピュラーな存在で、長年アップデートを繰り返しながら世界中の企業を支えてきました。
AutoCADが好んで採用される理由としては、以下の3つの特徴が挙げられます。
幅広い業種で活躍できる汎用性
まず、AutoCADはあらゆる業種で採用することのできる、高い汎用性を備えていることが特徴です。建築や土木建設、インフラに製造と、CADが必要とされる全ての業界で活躍しています。必要に応じてツールセットを使い分けることで、特定の業務に特化したCADソフトとしての運用が可能です。
豊富なツールセットを搭載
汎用性に優れるCADソフトは、その分器用貧乏で特定のタスクに弱くなる、という懸念もありますが、AutoCADについてはその心配も必要ありません。AutoCADは建築向けのツールセットだけをピックアップしても、8,000を超えるセットがあらかじめ用意されているので、専門性の高いタスクも問題なく対応することができます。
インフラや製造関連のツールセットも同様で、CADが必要なシーンはAutoCAD一つで対処できるポテンシャルを備えているのが強みです。
プログラミング次第で自在に操れる柔軟性を実現
また、AutoCADはマクロのプログラミングを実践することで、多様なタスクを自動で処理できる柔軟性を備えます。数値入力やインポートを自動化することで、CAD業務に伴う手作業を効率化できます。
AutoCADとプログラミングを両立すれば、少ない人手でハイパフォーマンスを実現可能です。
デジタルツインとは
このようなAutoCADの高いポテンシャルをフル活用することで、実現する技術の一つがデジタルツインです。デジタルツインは現実空間で取得したデータをコンピュータに読み込ませることで、仮想空間にもう一つの現実世界と同じ空間を作り上げてしまう技術です。サイバー空間に現実世界と同じ建物やインフラ環境、都市設計を実現することで、高度なシミュレーションやコスト計算を行うことが可能になります。
従来のシミュレーションとの違い
シミュレーションによって試験的にデータを収集するプロセスは、これまでも幾度となくあらゆる業界で取り組まれてきました。デジタルツインによって得られるシミュレーション効果に期待されるのは、まるで現実世界で実験されたかのようなデータを得られる体験です。
デジタルツインによって構築されたサイバー空間は、現実世界の環境を極限まで再現しています。IoTやAIの力で瓜二つのミラーリングが実現可能となったため、例え仮想環境でも現実世界と同様の検証結果が得られます。
デジタルツイン導入のメリット
デジタルツインの導入は、企業へいくつものメリットをもたらしてくれます。以下の3つはその代表的な効果です。
品質改善につながる
デジタルツインの導入は、まず業務品質の改善につながります。デジタルツインの実現にはビッグデータをはじめとする高度なデータ活用術と、分析能力を持った人材の起用が不可欠ですが、これをクリアすることで、客観的で高精度な分析が行えます。結果、設計・検証段階での改善点の指摘を高速化、高度化することに成功し、高いパフォーマンスを発揮できるようになります。
開発・施工コストを削減できる
品質改善はもちろんのこと、開発や施工にかかるコストを削減できるのもデジタルツインの強みです。複雑なシミュレーションを仮想空間で実現できるため、大規模な実験場を予算をかけて用意する必要がありません。リスクや人員を抑え、よりよい結果が得られるので、コストパフォーマンスを高められます。
また、デジタルツインを活用してVRやARを使ったバーチャル展示会を各地で低予算で実現できるため、説得力のあるプレゼンを行ったり、高い集客力を発揮することも可能です。
維持管理の品質・コストパフォーマンスを改善できる
実際の建物は老朽化が進んでいくため、竣工後も定期的なメンテナンスが欠かせません。デジタルツインを用いた仮想空間では建物の劣化もなく、維持管理の際に必要な情報を取得したり、製品の寿命予測に役立てることができます。
建築物の場合、従来は施工時と維持管理のプロセスで別個の図面を用意するケースも少なくなく、その場合は維持管理に余計なコストが発生していました。デジタルツインの3D図面に図面を一元化することで、効率的な維持管理体制を実現可能です。
AutoCADの導入事例にみるデジタルツインの実践方法
AutoCADを使ったデジタルツインの実現は、すでに企業で進められています。ここでは埼玉県のインフラ企業である水都環境が実施しているAutoCADの運用方法を参考にしながら、デジタルツインの実践に向けたヒントを探していきましょう*1。
BIM/CIM時代にAutoCADを使い続ける理由
近年の建設土木業界における最新トレンドとして、重要視されているのがBIM/CIMの存在です。BIM/CIMはCADに代わる新しいモデリング技術として注目されており、3Dモデルへ直接建設物の情報を付与できる点が高く評価されているのですが、AutoCADは基本的にCADデータを扱うためのソフトウェアです。
そのため、AutoCADの起用はBIM/CIM運用の足枷となる可能性も懸念されますが、水都環境ではAutoCADのプログラムを活用した柔軟性の高さに注目し、独自のデジタルツインの実現に努めています。例えば、紙ベースで管理されてきた下水道台帳をGIS(地理情報システム)化する作業においては、まず紙の台帳をAutoCADに読み込み、ツールセットの一つである「Raster Design」を採用することで対処しています。縦横比の補正やスキャンデータの汚れを自動で修正し、作業を効率化できるため、アナログデータのデジタル化を高品質に進められます。
業務に必要な機能をピックアップし、AutoCADの高い汎用性をうまく活用できれば、BIM/CIMの技術がなくとも十分にDXは実現可能です。
関連ソフトの併用で更なる業務効率化を実現
デジタルツインの実現にあたっては、AutoCADとその他のAutodesk製品を連携することで、効率よくBIM/CIMを起用することで対応しています。地形の作成に「InfraWorks」や「Civil 3D」、パイプラインの設計に「Plant 3D」や「Revit」を起用するなど、ソフトの使い分けがポイントになります。
幸い、Autodeskにはデジタルツインの実現に必要な全てのソフトが揃っているため、AutoCADのようなAutodesk製品を採用することで、互換性に優れたデータ環境を整えられます。段階的にDXの推進やデジタルツインの実現を目指す場合、Autodesk製品で揃えればハイエンド環境を最終的には目指せるようにもなるでしょう。
おわりに
デジタルツインの実現には次世代のテクノロジーを駆使することが求められますが、大企業でなければ取り組めない技術というわけではありません。既存の業務を段階的にデジタル化し、運用ソフトを拡張していくことで、最新技術をフル活用できる企業へとステップアップできます。
活用機会を自社の業務から見出していき、堅実にDXを進めていきましょう。
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参考:
*1 建設ITワールド「埋設管の”真実のデジタルツイン”を追求、水都環境のBIM/CIM活用にAutoCADが不可欠な理由とは」
https://ken-it.world/success/2021/07/pipe-digital-twins-by-autocad.html