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電子化する建築確認申請。BIM利用事例から見えるその展望と課題

確認申請とは、建築士が設計した建物を実際に建てるにあたって、その設計が各種法令や規定類に適合しているかを、着工前に審査する行政行為です。
違法建築が生まれることを食い止める重要な手続きであるため、設計者側にとっても、審査側にとっても、確認申請はミスの許されない負担の大きい作業です。
特に、審査に際して作成される意匠設計・構造設計・設備設計などの膨大な設計図書のデジタル化・BIM化は、確認業務の効率化に向けて不可避の取り組みと言えるでしょう。

そこで国土交通省は2014年5月、「建築確認手続き等における電子申請の取扱いについて(技術的助言)」(*1)を公表し、確認申請業務のデジタル化を推進し始めました。
以来BIMデータと連携した建築確認申請は徐々に導入され始め、国内でも複数の事例が登場するに至りました。

しかし設計や施工・積算・保守管理といった工程に比べれば、確認申請業務におけるBIMの活用はまだまだ発展途上す。
事例も少なく業界内でもそのビジョンが十分に描けていないというのが現状でしょう。

この記事ではBIMによる建築確認申請について概略しつつ、2022年現在における経緯やそのメリット、そして今後の展望とその可能性を紹介していきたいと思います。

国内外におけるBIM申請の経緯

本邦における建築管理の電子申請は、2015年2月に受理された東京都の木造二階建て四号建物が、その国内第一号となりました(*2)。
背景にあるのはもちろん前述の「建築確認手続き等における電子申請の取扱いについて(技術的助言)」の存在でしょう。
換言すれば、インターネットが十分に普及していた2015年においてなお、建築の確認申請では膨大な必要図書を紙に印刷し、持ち込みもしくは郵送の上、関係者による押印の必要があったということを意味しています。

そのさらに一年後、今度はフリーダムアーキテクツデザイン、住宅性能評価センター、大塚商会、オートデスクによる共同の末、BIMによる確認申請が実現します(*3)。
その後も、フリーダムアーキテクツ社によるBIM確認申請は止まることを知らず、2019年内には100棟の実績を上げるに至りました(*4)。

また当ブログでも紹介した通り、大手住宅メーカーである大和ハウス工業が、BIMによる確認申請に強い意欲を示しています。

しかし視線を海外に向ければ、実は確認申請の電子化・BIM化に関しては諸外国ではインターネットの普及が始まった2000年代初頭からすでに実現しているのです。
特にBIM先進国とされるシンガポールでは、2013年よりBIMによる確認申請の段階的な義務化が進められるなど、むしろ確認申請を通じた行政主導によるBIM化が推進されました。
当初は20,000㎡を超える建物の「意匠設計」に限定されていたBIM申請は、翌年には「構造設計」「設備設計」の分野にまで適応されます。
続く2015年には5,000㎡超の建築物全てがその対象に含まれるようになりました。
清水建設や竹中工務店といった日本企業におけるBIM導入も、その多くはシンガポール支社におけるプロジェクトがその契機となっています。

そのため日本における前述の取り組みに対しては、「10年遅れた動き」であるとして厳しい評価が下されることも多々あります。

BIMによる確認申請のメリット

そんな確認申請業務のデジタル化・BIM化には、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
すでに国内でも建築研究所や竹中工務店による、BIMを用いた建築確認申請のレポートが複数挙げられています。(*5)(*6)

ここでは上記の資料をもとに、申請者・設計者側のメリットと、審査側のメリットに分けて、それぞれ紹介していきたいと思います。

設計側のメリット

まずわかりやすい第一のメリットとしては、申請に際しての準備作業の省力化が挙げられます。
従来の紙媒体による提出では、設計図書を正副2部作成し、特定行政庁や確認検査機関に持ち込む必要がありました。
また、確認申請の書類提出は一回きりで終わるのではなく、設計者と審査者相互のやりとりを経て進められます。
電子申請によるペーパレス申請は、そうした膨大な書類作成作業がすべてPC上で完結するようになり、設計者の負担軽減が期待できます。

次のメリットとして、クラウド化による情報共有のスピードアップが挙げられるでしょう。
BIMの電子申請とは、設計データをメールに添付して送信しあうわけではなく、設計者と審査者が自由にアクセスできるBIMクラウドを設け、そこに情報を書きこみ合うことによって審査が進みます。
これによって、設計者・審査側それぞれの担当者がタイムリーに質問や修正点を共有しあうことが可能となります。
つまり、審査に関わるすべての人間が変更状況をリアルタイムに把握することができるようになるということです。
無意味な手戻り作業の多くは情報共有ミスから発生することを考えれば、クラウド提出による省力化は非常に有効と言えるでしょう。

また、審査側から送られてくる修正箇所の指摘も、従来の2D図面を用いた審査では複数の図面や書類ににまたがって記載された情報を相互に参照しながら確認していく必要がありました。
しかしBIMモデルに申請対象項目を属性情報として設定しておけば、すべての修正箇所がモデル上に一元的に表示されることとなります。
その結果、確認箇所の誤解や見落としが発生しにくい、より正確な審査が可能となります。

審査側のメリット

BIMデータによる電子申請は、設計者側だけでなくそれを審査する審査者にもその恩恵をもたらします。

確認申請にBIMを導入する第一のメリットは、建築の3Dビジュアライゼーションによる、建物理解のスムーズ化が挙げられます。
BIMのメリットとして、「分かりやすさの向上」が挙げられますが、それは主に「建築を専門としないクライアントや施主」に対するメリットとして理解されがちでした。
しかし、法律や設備などの専門知識を駆使するプロフェッショナル集団にとっても、複雑な形状の設計を把握し理解することは十分困難な作業です。
建築確認申請の審査員にとっても、2Dの図面より3Dデータの方が、より短時間でより正確に建築の形状を把握できるはずです。
つまりBIMデータによる確認申請は、申請作業に際し「そもそもそれがどのような建物か?」を共有する工程の省力化が期待されているのです。

省力化という意味では、これまで審査の前段階として行われていた諸業務野省略も重要です。
例えば必要図書の不備不足に関して言えば、どのような書類が足りていないかを確認することが幾分容易になります。
また、提出された複数の図面同士に相互矛盾がないかを審査することは、建築図面の確認申請において非常に基本的かつ負担の大きい業務とされてきました。
しかし、BIMデータは作成された時点で図面同士の整合性が確保されていることから、その分審査業務の大幅な省力化も期待できます。

また、BIMによる電子申請はクラウドへのアップロードが基本となりますが、これによる申請期間の短縮も、大きなメリットの一つです。
従来より提出図面の審査には、意匠設計・構造設計・設備設計を行う担当者がパートごとに割り当てられます。
そして、意匠設計の審査が済んだ段階で構造設計の審査が行われ、さらにその後に設備設計の審査が行われるといった具合に、それぞれの審査期間が直列に進行していました。
これは、紙データや非クラウド型データによる申請では、意匠設計・構造・設備に関する審査を並行して行う事は困難だったためと考えられます。
この審査形式では、前半の進捗の遅れが後半にも影響してしまうため審査期間が長引いてしまいがちな上、次の審査に移る際の情報共有にも時間がかかります。

しかし、BIMの利用やクラウドによるデータの一元管理が実現すれば、それぞれの審査担当者が同時並行で一つのモデルに対して審査を行うことが可能です。
その結果、情報伝達ロスの防止や審査期間の大幅な短縮を見込むことができるようになるでしょう。

加えて、2006年の建築基準法改正に伴う確認審査の厳格化において、確認審査機関が保管すべき設計図書の保存期間が15年に延長されました。
これを受け、設計図書の保存コストの削減も大きな課題となっています。
確認申請の電子化は、こうした図書保存の軽減負担という意味でも導入が急がれています。

BIM活用の課題

無論、BIMを利用した確認申請の実現に向けては、幾つもの課題が立ち塞がります。
2019年に学識経験者、関連団体、設計事務所、ゼネコン、建築確認の審査機関によって発足した「建築確認におけるBIM活用推進協議会」(*7)では、その課題を下記の2点にまとめています。

第一に挙げられたのが、「申請上の手続きによる課題」です。
確認申請においては、防火・上下水道・まちづくり条例といった分野の審査において、消防署や水道局など多様な組織の承認が必要となります。
しかし、そのすべての部署において電子申請を受け入れる土壌が出来上がっているわけではありません。
そのため、審査機関側の随所において紙面での提出や非電子押印が必要となり、これが電子申請のボトルネックとなっています。
これについては、2019年6月の建築基準法改正において、建築主による「委任状」の写しの提出や「建築工事届」は押印省略が認められることになりました。
徐々に電子申請に向けた代替手段が整備されつつあります。

第二に上げられたのは、「導入環境による課題」です。
BIMによる確認申請の実現には、クラウドシステムやサーバーインフラ・データの閲覧環境といった設備面での導入・維持コストが必要となります。
特に提出された図面データの保管は、建築基準法の改正に伴いその保存期間が15年に延長されたことを受け、その管理には大きな負担がかかります。
電子データの管理は紙媒体での処理に比較してセキュリティコストも大きいことを考えれば、いくら電子提出が合理的といえども容易に導入できるものではないでしょう。

まとめ

以上、2022年現在における建築確認申請のBIM利用の現況について、概要ではあるもののその内容を紹介いたしました。

より詳細な過去の動向や今後の展望を把握したい方は、前述の建築確認におけるBIM活用推進協議会が作成・公開している「建築確認におけるBIM活用推進協議会 令和元年度 検討報告書」(*8)をご一読ください。

また、その具体的な実践については、2014年に一般財団法人建築行政情報センターが公表した「建築確認検査電子申請等ガイドライン」と、それをもとに日本建築行政会議ICT活用部会が作成した改訂版(*9)に、その具体的な運用がまとめられています。
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参考文献
(*1)建築確認手続き等における電子申請の取扱いについて(技術的助言)
https://www.mlit.go.jp/common/001040945.pdf
(*2)‪電子認証を使った建築確認申請、日本で初めて受理:日本経済新聞‬
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO83300910X10C15A2000000/
(*3)‪BIMによる建築確認申請、国内初の確認済証が交付 – BUILT ‬
https://built.itmedia.co.jp/bt/articles/1609/05/news029.html
(*4)‪BIM確認申請約100棟突破!!
その成果と今後の展望 | 建築設計研究所‬
https://freedomlab.jp/news/view/202001271
(*5)武藤 正樹「BIM 確認申請の展開と課題」 建築研究所 建築生産研究グループ
https://www.kenken.go.jp/japanese/research/lecture/h30/pdf/T04_Mutoh.pdf
(*6)杉安 由香里・花岡 郁哉「BIMを活用した建築確認・省エネ適判の 事前審査の実施について」建築コスト研究 No.103 2018.10 pp.21-24
https://www.ribc.or.jp/info/pdf/sprep/sprep103_03.pdf
(*7)建築確認におけるBIM活用推進協議会 公式HP
https://www.kakunin-bim.org
(*8)建築確認におけるBIM活用推進協議会「令和元年度 検討報告書」
https://sb2a46c0f8caf5c95.jimcontent.com/download/version/1592820987/module/15746040122/name/r01-kentouhoukokusho.pdf
(*9)日本建築行政会議ICT活用部会「建築確認検査電子申請等ガイドライン(改訂版)」
http://www.jcba-net.jp/news/20180928_denshi_shinsei_guideline.pdf

2022年9月26日 情報更新

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