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テンセントが展開する「デジタルツイン」の 事例をまとめてみた

最近話題になっている「メタバース」。なんだか面白そうではありますが、まだまだ私達の日常生活にはあまり関係のない世界に感じてしまいます。

ところが同じデジタル空間の活用方法である「デジタルツイン」の方は、意外にも私達の生活に密着する形で幅広い応用があり、急速に実用化が進められています。今回は特にその先進事例である「テンセント」に関して、取り組みをみていきましょう。

この記事でわかること
 ・テンセントとはどんな会社なのか
 ・テンセントが進めるデジタルツインの事例
 ・日本でのデジタルツインの現状

テンセントってどんな会社?

テンセントは1998年に創業し、中国最大のSNSサービスである「WeChat」をはじめとして、インスタントメッセンジャー「QQ」など、コミュニケーション分野で成長してきた会社です。
その後ゲーム分野に参入し、2016年にはセガやソニーを抜いて世界トップの売り上げを実現するなど、現在はゲーム分野が事業を牽引しています。

特に先進的な技術開発力を持っており、テンセントのセキュリティー研究部門がテスラ車の脆弱性を発見するなど、世界最高水準の技術者集団を抱えています。
他にも決済サービスである「WeChat Pay」は先行する「Ali Pay」を猛追しており、巨大な「WeChat」のユーザー数を背景に、コンシューマー対象のビジネスでは中国国内をリードしています。

近年では高い技術力を活かして、クラウドサービスにも力を入れて取り組んでいます。特に、メタバースなどで必要となるリアルタイムレンダリング技術や、アバターの自動生成技術など、バーチャル関連技術を数多く発表しています。
このような次世代技術の開発でも世界をリードしつつあるテンセントは、デジタルツインでもすでに大きな実績をいくつも出しています。

コミュニケーション・SNS部門ではMeta(旧Facebook)、ゲーム部門ではソニーやセガ、デジタル決済ではPayPay、クラウドサービスではAmazon AWSのような企業と言えば例えになっているでしょうか?
決済に関しては、PayPayの方が「Ali Pay」や「WeChat Pay」の後追いですから、比較の仕方を間違えているかもしれません。

テンセントは、私達日本人にとっては馴染みの薄い企業名ですが、実はGAFAにも匹敵するポテンシャルと実績を持つ、中国最大規模のIT企業です。売り上げや利用者数などはもちろんですが、先のテスラの例のようにその技術力でも、今や世界最高クラスと言って過言ではありません。*注1

テンセントが進めるデジタルツインの事例

デジタルツインは、バーチャル空間内に現実世界を再構築したものです。デジタルツインでさまざまなシミュレーションを実施し、その結果を現実世界に活用することで、効率化・省力化・省コスト化を図ることができ、最適な成果を導くことが可能になります。

例えば、都市に流入する自動車の運行状況をシミュレートすることで、交通渋滞を避けるような仕組みに利用することができます。現実世界に配置された膨大なセンサーから収集される情報を瞬時に解析し、デジタルツイン上でシミュレーションすることで、最適な状況を導き出します。
さらにこの結果に合わせて、信号機を切り替えるタイミングや自動運転車の運行スピード、ルートなどを現実世界に反映させることで、最適化を実現していくというように活用されます。

このような大規模なシチュエーションに限らず、工場内の作業効率化や医療分野で手術のアシスタントにも利用できるなど、幅広い応用が可能です。
現実世界では一回のチャレンジにはそれなりの時間とコストがかかり、何よりチャレンジに失敗した時の犠牲が大きいようなケースでは、なかなか思い切ったことはできません。
それに対してデジタルツインであれば、いくらでもシミュレーションが可能ですし、条件を変えながら膨大な試行を行っても瞬時に計算が終了します。

現実世界を忠実に再構築できればできるほど、デジタルツインの活用でスピーディかつ最適な成果を手に入れることが可能となります。

デジタルツインを実現するための要素技術は、「IoT」・「AI」・「AR・VR」・「5G」です。インターネットと常時接続できる設備により、機器が現実世界からの情報を収集しサーバーへと送信し、AIによる解析で最適解を導き出します。その結果を現実世界に反映させるツールとして、AR・VR技術が有効です。
また、現場とサーバーを結ぶ高速通信網である「5G」が、インフラとして重要となります。

テンセントはAI技術やAR・VR技術を有しており、さらに膨大なユーザーから送られてくるビッグデータも活用することが可能です。このような技術的背景と豊富なデータをベースに、中国が進めるデジタルツイン構想を牽引する企業の一つとして、すでに多くの実績を出しています。

特にゲーム分野で培ってきた技術力は、リアルタイム・レンダリング、モーションキャプチャーなど、デジタルツインで応用できるものが多く存在します。
RPGやSimCity・育成ゲームなど、プレイヤーがバーチャル空間の中で行うさまざまなアクションに応じて変化していくゲームなども、デジタルツインと親和性が高いでしょう。

製造業へのデジタルツインの導入例

テンセントが、デジタルツインを製造業に応用した事例について取り上げてみましょう。
テンセントゲームズとテンセントクラウドが、鉄鋼メーカーである中国宝鋼集団と協力し、デジタルツイン上に熱間圧延機を含む工場を構築しました。
現実の工場から得られるデータをリアルタイムでシミュレートし、効果的な運用のサポートをおこなっています。

製造業に応用することで、生産効率やエネルギー効率の向上、適切なメンテナンスサイクルの設定、人員の効果的な配置や導線の決定、安全性の向上など幅広いメリットがあります。
ゲームで培ってきたノウハウと高い技術開発力で、リアル世界の生産性向上に大きく貢献することができます。*注2

モビリティ分野へのデジタルツインの導入例

テンセントが、2022年11月に開催したデジタルエコシステムサミットの中で、モビリティ分野へのデジタルツインの導入事例について発表しています。
高精度のマップを作成した上で、BIM/CIMで作成されたデータなどを元に、バーチャル空間上にデジタルツインを構築し、交通インフラのデジタル化を進める取り組みです。

自動車業界向けに「自動車・マップ・クラウドソリューション」を発表し、今後実用化が進む自動運転車に対して、マップや位置情報サービスを提供していきます。
これまでもすでに、鉄道や高速道路、空港などでの実証実験段階を経て、実用化に十分なノウハウを構築してきた実績があります。

中国各地で実施されているコネクテッドカーの運行に対して、リアルタイム情報を反映させた「GLOSA(Green Light Optimized Speed Advisory)」は、青信号の状況に応じた適切な運行スピードをドライバーにナビゲートします。
このようなデジタル化の応用は、今後自動車メーカーにとって標準装備となる可能性が高く、次世代のモビリティ分野の中核となる技術の一つです。*注3

中国で本格化する都市運営へのデジタルツインの活用

中国ではスマートシティ構想から発展して、都市にデジタルツインを導入することによって、効率的な都市運営・管理を進める方向に大きく舵を切っています。

国家規模で推進されているデジタルツイン化には、百度やテンセント、アリババなどの中国を代表するテック企業が相次いで参入を表明しています。

テンセントはいくつかのベンダーと協力し、CIMをベースとしたプラットフォーム「City Base」を開発しています。さらに、製造や建築、緊急対応などのデジタルツイン・シティのユースケースの開発など、幅広い領域でこの分野を牽引しています。*注4

日本でのデジタルツインの現状

今やIT分野でも世界をリードしつつある中国でのデジタルツインについて、テンセントの事例を挙げながら眺めてきました。
ところで、日本での取り組みは現在どのようになっているのでしょう?CIM/BIMを活用したデジタルツインについては、国土交通省が主導しているプロジェクトなどが話題になりましたが、世界水準で見るとどの程度進んでいるのでしょうか。

残念ながら、現時点では客観的に判断する指標というのは存在していません。
そこでちょっと思いつきで、最近話題の「Chat GPT」に質問してみました。対話型AIはどのような判断を下すのでしょうか?

「Chat GPT」には次のように質問を投げてみました。

「日本におけるデジタルツインの利用は世界的にみて遅れていますか、それとも先進的ですか?」

「Chat GPT」からの回答は次の通りです。

『デジタルツインの利用に関して、日本は世界的に見てやや遅れていると言われています。』

なるほど、、やはりそうですか。。。
さらに「Chat GPT」はいくつかの理由を付け加えてくれています。その中で納得がいく理由が一つありましたので、紹介しておきましょう。

『伝統的なビジネス文化: 日本のビジネス文化は、徹底した品質管理や安全性重視の伝統があります。このため、新しいデジタルテクノロジーやアプローチを導入する際には、従来の方法やプロセスとの整合性を確保することが求められます。その結果、変革や新たなアプローチの採用には時間がかかる傾向があります。』

簡単に意訳すると、「日本のビジネス構造が硬直化していて、新たな技術の導入に保守的」なことが大きな理由ということでしょう。
「Chat GPT」は、必ずしも正しい回答を導き出す訳ではありません。あくまでインターネット上の情報を統合し、整理した形で表示してくれているだけですので、全面的に信頼することはできません。
 
しかし、「保守的・硬直的、過去の成功事例やシステムからの脱却が難しく、新技術の導入が遅れる」というニュアンスの指摘には、ある程度納得せざるを得ません。
とは言え、日本ではトヨタが進める「Woven City」プロジェクトなどがあり、全く可能性がない訳ではありません。

「Chat GPT」も、

『日本のデジタルツインの利用は、産業構造やビジネス文化の特徴により一部遅れていると言えますが、研究開発やイノベーションの分野では先進的な取り組みも行われています。今後は、デジタルツインの導入と活用が進み、経済や社会のさまざまな分野でより広がっていくことが期待されています。』
 
と、可能性については示してくれています。
なんだかAIに「やればできるんだから」と、なぐさめられたような気分になります。*注5

まとめ

未来の都市構想は、スマートシティ構想を実現する具体的なプラットフォームの構築や、個別技術の開発という段階に進んでいます。その中でも重要度を増しているのが、デジタルツインです。未来の効率的な都市運営、管理から製造・交通・災害対応・医療など幅広い応用が期待されるデジタルツイン分野での覇権を狙い、世界のIT企業がしのぎを削っている状況です。

日本がその中でどの程度の重要な役割を担えるのか、今後の動向に注目したいところです。

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■参考文献
注1
PR TIMES 「テンセントクラウド、2023年の日本市場戦略を発表。企業のメタバース展開やWeb3へのシフトを支援」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000022.000086443.html

日経ビジネス 「テンセントとは? 企業沿革と直近の動向を紹介する」
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00081/072200114/

中国マーケティング情報サイト 「テンセント」
https://china-marketing.jp/glossary/%E3%83%86%E3%83%B3%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%83%88/

注2
Real Sound 「Tencent Games、新作ゲームやゲーム技術を応用した協力プロジェクトを発表」
https://realsound.jp/tech/2022/06/post-1064298.html

注3
36kr Japan 「テンセント、デジタルツインマップを発表 交通インフラのデジタル化を加速」
https://36kr.jp/215257/

注4
知的資産創造 「特集 現地から見た中国の新型インフラ整備/中国次世代都市のデジタルツイン・シティ化」
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/publication/chitekishisan/2022/09/cs20220904.pdf

注5
メタバース総研 「トヨタが進めるスマートシティづくりへのデジタルツインの活用とは?」
https://metaversesouken.com/metaverse/toyota-digitaltwin/

Open AI 
https://openai.com/

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